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手に入れたものは使うためにある。 ②

 俺は彼女に手を引かれてまた暗闇を飛ぶ。

 さっきよりも蜘蛛の糸のような光は多いような気がした。


 もしこの手を離したら俺はどうなってしまうのだろう?


 この状況にいる限り、俺の生殺与奪は彼女が握っているのだろうと感じていた。

 それは恐怖であったが、俺をここまで連れてきてくれている彼女を信じているからこそ任せられていた。


 遠くに光が見える。あそこへ行くのだろうか?

 徐々に光は大きくなって、やがて一つの部屋の前に着いた。

「到着したわ」

「ここはどこですか?」

「ここは長野 桃香さんのEFよ」

「えっ?」


俺は一瞬固まった。

 何故桃香の部屋に来ているのかも、何故己雪さんが桃香の事を知っているのかも理解が現実に追いつかなかった。


「どうして桃香なのですか?」

「それはあなたにとって一番ショックが大きいからよ」

「いやちょっと待ってください。桃香は確かに付き合いが長いですが、ショックというなら両親とかそっちじゃないんですか?」

「わかってないわね」

「身近な人でも両親とかじゃ大した秘密は無いのよ」

「そうとも限らないでしょう?」

「そうよ。それに私が事前調査もなしに連れてくると思ってるの?」

 俺は黙ってしまった。


「つまり桃香には何かあるということなんですね?」

「そうね。でもそれはあなたが確かめてくるのよ」

「己雪さんはなんで桃香の事を知っているのですか?それも事前調査なのでしょうか?」

「そうね。悪いとは思ったけど、前にあなたの中を覗かせてもらった時にいろいろ知ってしまったわ。」


「わかっているの。最近、馨くんの頭の中身は桃香ちゃんの事でいっぱいだったわ」

 俺はそこまで言われると赤面して俯いてしまった。

 さぁ、ドアを開けて桃香ちゃんに会ってきなさい


 俺はなすすべも無く、言われるがまま、桃香の部屋へ入っていった。




 ドアを開けるとそこは桃香の家だった。

 懐かしい感じがする。

 これは昔の家だ。

 今は引っ越して学校の傍に移っている。

 それからあいつは自転車で通学しているんだったな。


 新しい家に一度行った事はあるがあまり記憶は無い。

 部屋を進んで桃香の部屋に行く。

「桃香?いるか?入るぞ」

 ノックしてドアを開ける。


 桃香の部屋はすっきりとしていた。

 まぁここはあいつの頭の中だからあいつの部屋というわけではないのだろう。

 昔の写真が置いてある。桃香の両親や、田舎の祖母が移っていた。


 前は桃香の家族にお邪魔して一緒に桃香の祖母の家まで行ったりしていたな。

 そんな記憶が蘇ってくる。

 桃香はあの頃と変わらないよな。

 そうあの頃からほっぺに指をさしてきたり、手が早かったな。


 その横には桃香、柚子ちゃん、望と俺が四人で遊んだ時の写真も飾ってあった。

「こんなのとってあったのか。」

 その写真を見ても俺はちょっと懐かしくなった。


 桃香はどこにいるのだろう?

 俺は桃香の部屋を出てリビングへ移る。


 そこには風呂から上がったばかりの桃香がいた。


「ごめん」


 俺は思わずリビングから出た。

「いいわよ。別に馨に見られた所で気にならないわ」

 それはそれで俺の男としてのプライドが傷つくんだが・・・・・・、


 これか?ショックって


 そう思っていたら、後ろから己雪さんに「そんな事あるわけ無いでしょう」と一喝された。

「呼んでいるわよ」そう己雪さんにせかされる。


 戸惑いながらも気持ちを取り直して

「入るよ」

 俺はそういってリビングに入った。


「よぉ、風呂上りだったのか、悪かったな」

 桃香はソファに座って髪の毛をタオルで乾かしてしる。

「どうしたの?」

「いや、桃香と話がしたくてさ」

「ふーん、珍しいじゃない」

「たまにはいいだろ?」

「そうね。」


「前の家なんだな」

「そうよ」

「新しい家いやなのか?」

「そんな事ないわ」

「そっか、それならいいんだけど」

 俺はエフの桃香とどう接したらいいのか全然わからなかった。


 己雪さんはどこかに行ってしまって桃香と二人きり。

 桃香は思っていたよりも大分体が女性になっていた。

 気がつかないうちに自分の知らない桃香に変わっている。俺はこの間話をしてそれとなく理解していたつもりだったがこうして改めて目の前にすると胸に突き刺さるようなものがあった。


「何よ、ジロジロ見て」

「いや、桃香も大きくなったんだなと思って」

「そうよ。これでも私結構人気あるんだから」

「成績優秀、容姿淡麗、馨なんかが手に届く私じゃないんだからね。」

「そうだな」


 なんだか俺の知っている桃香が遠くに行ってしまった気がして寂しくなっていた。

「何よ、言い返さないの?」

「そうだな。綺麗だよ。」

 俺は素直にそういった。

 桃香はびっくりして髪を乾かしていた手を止めた。


「何よ、いまさら何よ」

 そう言って桃香は俺にタオルを投げつけてきた。

「なんだよ、正直にいっただけじゃないか。」

 そう言って顔にかかったタオルを振り払う。


 するとそこは桃香の家から学校に変わっていた。


 びっくりして周りを見渡す。

 誰もいない。

 いつも見なれた校舎とは少し違っていた。

 ここは・・・・・・、桃香が通っている校舎だ。


 桃香のイメージの中なのだ。桃香を探そう。

 教室、校庭、躊躇ったが女子トイレにも入った。


 見つからない。

 桃香がいきそうな場所はどこだろう?


 考えてみたが、あいつが学校で何をやっているのか俺は知らなかった。

 仕方ない。しらみ潰しに探すしかないか。そう思い学校中を走り回った。


 そういえば学級委員とかやっていたな、

 生徒会室にはまだ行っていなかったと思い、生徒会室を探した。


 声が聞こえる。


「・・・・・・」

 誰の声だろう?


「やめて下さい。」

 桃香の声が聞こえる


「いいじゃないか・・・・・・」

「いや、だめ・・・・・・」

 もう一人の声は誰なのだろう?


 なんとなく胸騒ぎがしながらそっとドアを開けた。

 するとそこには学校の先輩と桃香がキスをしていた。


 桃香は目をつぶって先輩に体を委ねている。


 俺は「あっ」と声を出してしまった。

 桃香がこちらを向いて目があった。


 一瞬のフラッシュバックが起きて、俺はまたどこかへ飛ばされた。


 俺は桃香がキスしている姿を見て動揺していた。


 もう帰りたい。

 そう思った。


 桃香に彼氏ができた所で、俺には関係が無い。

 そう思っていた。

 前に望とも話をしただろう?

 なんとはなしに覚悟はできていたはずだ。

 それでもさっきみた目の前の光景が忘れられなかった。


「そうか、そうだったのか」

「そりゃあ、俺が連絡しても返事はないよな」

 桃香にとって俺はもう、そう思うと寂しくなって何故か泣きたくなった。


 おかしいな。桃香でも彼氏ができてよかった。そう、拍手をすべきなのだ。

 自分の気を確かにしよう。

「己雪さん、もう十分でしょう?」

「もう帰ります。わかりました。もういいです。」

 返事が無い。


 どこにいってしまったのだろう?

 出口を探したいが、俺にはわからなかった。

「飛べばいいのかな?」そう思って眼を閉じる。集中して浮き上がるイメージをした。

 おかしいなぁ、さっきは出来たのに今はできない。


 眼を開けるとどこかわからない路地裏に飛ばされていた。

「歩いていけば出口があるかな?」

 とりあえずじっとしていても何も変わらないだろうと思い歩みを進める。


 すると曲がり角の先で桃香の声が聞こえる。

「やめて下さい」

「何だよ、お前がついてきたんじゃないかよ」

「おいおい、そんな乱暴したら可哀想だろ」


 誰だ?


 知らない声がいっぱいする。

「桃香ちゃんもなんでこんなとこ来ちゃうかなぁ」

「まぁ、タケシが連れてくるんだからしょうがないよね」

「おいおい、俺は関係ないだろ。なぁ桃香。」


「・・・・・・」


「来ちゃったものはしょうがないよね。桃香ちゃん」

 桃香は両手でかばんを前に持って俯いたまま立っていた。


 なんでこんなテンプレみたいな不良のたまり場にいるんだ?

 あいつは、さっき桃香とキスをしていたやつだ。

 あいつはタケシと呼ばれていた。


 俺は少し様子を伺っていた。

「それにしても柚子の奴うぜぇよな」

「誰だよそいつ?」

「桃香の親友だとよ」

「どうしたんだよ?」

「桃香に手を出すなって突っかかってきたんだよ」

「はっ?」

「なぁ、手を出したのは別に俺じゃないし」

「お前も不憫だよなぁ」

「タケシが桃香に『千葉をボコボコにされたくなかったら一緒に来い』」って言ったらついてくるんだもんな」


「おぃおぃそれを言うなよ。」

「なぁ、桃香、もう千葉の事は忘れろ。柚子とも別れろ」

 そう言ってタケシというやつは桃香の腰に手を回して唇を奪おうとする。


「やめろ!」


 俺は考えるよりも体が先に出ていた。

 タケシというやつに手が届く前に、一緒にいた奴らからのパンチが飛んできた。

 そのパンチを受けて、眼に火花が散った瞬間にまた飛ばされた。


 俺は興奮していた。


 自分があの場に飛び込んだ事


 桃香が俺をかばってタケシというやつのいいなりになっていたこと。


 俺はタケシというやつに桃香が汚されていく姿を想像して嗚咽していた。


「どうだったかな?」

 己雪さんが話しかけてくる。


 俺はすぐに答える事もできずただうなだれていた。

「本当は最後まで見せるつもりは無かったのだけど、桃香ちゃんの強いイメージが君を引きとどめたようだね。」

「そうでしたか・・・・・・」


「彼氏がいる所までで終われば一番の効果だったのだけど、最後まで見ちゃったら少し逆効果になっちゃったかな?」


「いえ、効果抜群でした」

 俺はまだ項垂れたまま己雪さんの話を聞いていた。


「今見た光景がすべて事実とは限らない。」

「その点はよく注意してね。」


 見てきた光景の衝撃の大きさに己雪さんの言葉は半分くらいしか入ってこなかった。

「エフのイメージは個人の気持ちに大きく左右されるわ、今見た光景もたくさんある視点の一つだという事よ」


「今日はもう帰りましょう。」

 そういって彼女は俺の手を握って高く飛んだ。

 俺はただ一緒に自分の場所まで戻っていった。


 帰ると自分の世界は酷くすさんでいた。

「あらあら、大分ショックが大きかったみたいね。」

「気を落とさずに。また連絡するわ。何かあったら教えてね。」


「それじゃあ、おやすみなさい」

 己雪さんはそう言って少しこちらを振り向いた後、帰っていった。


 俺は自分の部屋に戻ってベッドの上に仰向けになった。

 天井を仰ぐ。

 俺はどうしたいのだろうか?

 興奮が冷め切っていなかった。

 タケシが許せなかった。

 桃香を気遣えない自分も許せなかった。


 あの光景は本物だったのだろうか?


 まずそれを確かめないといけなかった。

 見たくないものと対峙する。

 エフとの対峙していた中で自分の心に打ち勝たなければならない事を悟った。

 だから、桃香とタケシが一緒にいる所をみたくなくても、桃香が強いられているのであれば俺はその光景と対峙しなければならない。


 始めに行った桃香の部屋に四人で移っていた写真が飾ってあったのを思い出していた。

 新居に引っ越しながらも昔の家をイメージしていた桃香のことを信じようと思った。

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