手に入れたものは使うためにある。 ①
俺は家で横になり考えていた。
自分と対峙するということがどういうことなのだろうか。
電話が鳴る。
見ると己雪さんだった。
「こんばんは、どうしましたか?」
「こんばんは、馨くん。」
「さっそくだけどえふにアクセスしてみないかい?」
「眼を閉じて、イメージして見よう。玄関のドアを開けるとそこはエフの世界だ。」
そういって彼女は携帯を切った。
俺は言われるがままにエフにアクセスする。
玄関のドアを開けて外に出る。
そこには草原が広がっていた。
「こんばんは、馨くん」
ふと声をかけられる。振り返ると己雪さんがいた。
「何を驚いているのかな?」
「いや、どうやってここまで?」
「そりゃあエフの世界は無限に繋がっているからね」
「なんだかプライバシー無い感じがしますね」
「ふふっ、お取り込み中だったのかな?」
己雪さんは意地悪そうに言った。
「いや、そんな事無いです」
俺はあわてて返事をする。
「どうかな?エフの世界は?」
「どうもあまり実感はないですね。」
「そうか、そういうと思ってエフの醍醐味を伝えようと思ってね。」
「それが遠隔アクセスですか?」
「まぁそれもあるわ、私がはじめ君にしたように誰かの世界にアクセスして人が何を考えているのか聞きに行ってみようじゃないか」
「いいですよ、なんか人の頭の中を覗くのは悪いです。それに知りたくない事もある」
「君は保守的なのだな」
「そういう問題じゃないと思いますが、倫理観といいますか」
「そうだね。節度を持って利用する事が大切なのよ。でもね力を持っているのにその力を理解できなければコントロールすることも難しいとは思わないかな?」
「ん~~、言われるとそんな気もしますが・・・・・・」
「ならば決まりだね。」
そういうと彼女は俺の手を引いて高く飛んだ。
「うわっ!」
「何を恐れているの。ここはイメージの世界なのよ」
「君が高く飛ぼうと思えば飛べるし、この草原も海に代えることが出来るわ。」
「そういうものなんでしょうか?」
「そうよ。私の世界を見たときに草原だったのだろう。だから君のエフのイメージが草原で固定されているのよ」
「一度私の場所に行ってみましょう。そこで見せてあげる」
そういうと己雪さんは俺の手を引いたまま空高く飛んだ。
高いところから見る景色はとても眺めが良く気持ちのいいもの、というわけにはいかなかった。これもイメージの成すものなのだろう。真っ暗な暗闇の中に蜘蛛の巣の糸ようにたまに光る線が見えるだけで目印もない世界を飛んでいた。
「こんな暗闇の中でどうやったら場所がわかるのですか?」
「それはね。馨くん、君の意識が暗闇だと思っているからそれしか見えないのだよ。」
俺は言われている事が分かるようで分からなかった。
「己雪さんは何をイメージしているのでしょうか?」
「私か?私は空かな、そしてそのままの街をイメージしているわ」
「空ですか、じゃあ己雪さんにはこの上には空が広がって見えているのでしょうか?」
「そうだね。無限に広がる空が私には見えている。そして街にいる一人ひとりの人が見えているよ」
「そういわれて下を見て見たがやはり暗闇が広がっていた。」
うつむいて難しそうな顔をしていると己雪さんは
「はじめは仕方が無いよ。そのうち見えるようになるわ」
「だからこうして私が手を引いているのだよ」
俺は手を引かれたままただ頷いている事しかできなかった。




