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いつもの会話が安心する。

 目覚ましがなっている。

 ラジオが今日のニュースを伝えている。


 もう朝か、試験の最終日だ。

 俺は体を起こして携帯を見る。

 携帯には寝ているハルのグラフィックが映し出されていた。

「ハルも寝るのか。」

 そう呟くと返事が返ってきた。


「おはようございます。馨さん。私は寝ませんよ」

「おはよう、ハル。イメージ図は寝ている絵になっていたけど」

「それは馨さんが寝ていたので、合わせて寝ている映像にしていました。」

「そうだったのか」

 寝ていたら可愛げのある感じになったのになと思うが、そこはやはりコンピューターなんだろう。不眠不休で動き続けられるすごい奴なのをちゃんと理解していないといけないなと感じていた。それでも俺に合わせて寝ているグラフィックにするのは面白いなと思う。


 でも、まてよ。人は寝ている間に記憶を整理するという。夢も見る。そこで新しいインスピレーションを与えられる事もあるだろう。それならハルにも睡眠させてみてはどうなのだろうか?直感でハルを寝かせるためにどうしたらいいか考えてみたが、記憶の整理、夢といった事をどうやってプログラムで体現すればいいのかすぐには思いつかなかった。


 まぁ、そのうち考えよう。そう思い身支度を始めた。

 学校に行く途中、桃香と会うかと思ってゆっくり歩いていたが、校門まで到着した。実は後ろにいたりしないかなと振り返ってみたが、やはり桃香の姿は見当たらなかった。

 今日の放課後に会えて、調子よさそうなら望の話でもするか。


 何日も前に望と話をして海に誘わなければならなくなっていたのを思い返していた。まぁあいつは柚子ちゃん狙いだったからな。俺は望が柚子ちゃんを思い浮かべてニヤニヤしている姿を思い出していた。


 最終日のテストが始まる。

 俺は気合を入れて臨む。一科目ぐらいは一位になってみたいと思った。

 まぁ、他の生徒だけでなく、教師も普段授業をまともに聞いていないやつに一位を取られることは本望ではないだろう。それなりに授業を聞いていないと答えられないような問題が出されるのは分かっている。昨日はそうした箇所の対策もした。


 とはいえ、今までミスター平均点と言われるくらい学校の試験には特に関心を示してこなかったのも事実。足りない部分はまだまだあるだろう。

 やれるだけやってみる。というのも今回自分に課したものの一つだった。


 試験が終わる合図が鳴る。

 その瞬間に集中力が切れて体が脱力する。

 とりあえずこれで一段落して開放されると思うと頭はもう試験から離れていた。

 望むがやってきて結果を聞きにくる。

「突撃、馨さんにインタビューです。今回の試験でミスター平均点を卒業なさるというお話でしたが感触としてはいかがでしょうか?」

 なんともニヤニヤしながら聞いてくるので、なんて答えてやろうと考えていた。


「そうですね。今まで望さんのレベルに合わせてミスター平均点をやってきましたが、今回は彼とは別々の道を歩む事にしました。」

「おぃ~~。俺のレベルに合わせるとか、馨さん。試験範囲を教えてあげたのはどこのどなたか覚えていらっしゃいますか?望さんは遺憾の意を表明します。」

「わかったよ。悪かった。」

「そこの所をしっかりと認識して頂きたい。」

「仮にミスター平均点を卒業したとしても望さんの友情とご尽力の賜物でございます。」

「うむ、さすが馨さん。それでこその馨さんです。」

「何がだよ」

 思わずそういって、俺は笑ってしまった。


 望もふざけて会話をしていたのに我慢できず笑っていた。

「試験はいいけど、お前桃香ちゃんと話できたのか?」

 望が顔色を変えて桃香の話をしてきた。

「昨日の夜、少し電話をしたよ。あいつの用事が無ければ放課後会う事になってる」

「おぉ、そうか。よかったな。このまま喧嘩別れするんじゃないかと心配したよ」

「心配させて悪かったな、ありがとう」

「ほんと、いつもぼんやり自分の事ばっかやってるお前が、桃香ちゃんが、とか言ってるからさぁ、いやぁ、人って分からないものだな」

「うるせぇよ」

 そう言っても望は笑っていた。


「それじゃあ海の話も頼んだよ。柚子ちゃんもね。」

 望は念を押すかのように言って来た。

「お前は俺の事より、柚子ちゃんの事で気が気じゃなかったんだろ」

 望は一瞬びくっとしたような表情を見せたが、「そんなわけないだろ」と言って笑っていた。

「怪しいやつだなぁ」

 そういって俺も笑っていた。



 下校時間になって、試験から開放された学生が次々と帰宅していく。

 俺は桃香から連絡がないので、少しソワソワしていた。

 昨日の夜、「多分」といっていたので無理なのだろうか?

 携帯に着信が入る。

 俺はすぐに画面を見る。


 着信は己雪さんからのメールだった。

 あぁ、そうだった。

 昨日の夜、己雪さんにメールをして返事を見ていなかったのを思い出した。

 メールには「わかりました。友人を大切にね。なるべく時間が空かない方がいいです。連絡待っています。」と書いてあった。

 桃香の事がなければいつでも大丈夫なんだけどな。そう思いながら携帯をしまう。


 桃香から連絡来ないな。こっちから電話しようかな?学校には来てるよな?

 さすがに試験期間中に休みは無いだろう

 体調が悪いとも言っていなかったから休みではないだろう。

 いつもは校舎が違う事で自由になった気がしていたが、今日だけは少し恨んでいた。

 時間だけが過ぎていく。ハルが携帯画面にメッセージを表示していた。

「帰らないのでしょうか?」

「桃香の連絡を待っている」

 俺はハルに向かってメッセージを書き込んでいた。

「電話しますか?」

「いや、もうちょっと待つ」

「何故でしょうか?」

「そうだな、桃香が別の用事をしている最中に割り込んだら困るかもしれないだろう?」

「そうですか?割り込み要求は良くある事だと思います」

「そりゃあ、ハルがコンピューターだからな。マルチタスクで割り込み要求が入るのは良くある事だろう。」

「ハルは割り込み要求がいっぱいあると動作が遅くなるだけで拒否はしません。」

「そうだな。まぁ、そんなにマルチタスクでお願いはしないようにするよ」

「大丈夫です。」

「そうか、ありがとう」


 ハルは相手への気遣いを学ぶべきなのだろうか?

 何でも処理できてしまうが故の反応なのだろうか?それともコンピューターとしての責務を感じているのか?まだそんな感情は無いかもしれないな。ハルに何を今後教えていくべきなのか、プログラムを作った後の方が大切だったのかもしれないと感じ始めていた。


 また電話が鳴る。ハルが相手の名前を告げる。

 桃香からだ。

 俺は待ちかねていたかのように電話に出た。

「もしもし?」


「馨?」

「そうだよ。」

「もしもし?とか言うからびっくりした。いつもは何?とかぶっきらぼうに言うのに」

「そうかな?」

「そうよ。」

「試験終わったの?」

「終わったわ。これから帰る所」

「時間空いてる?」

「大丈夫よ」

「じゃあパルミュにでも行く?」

 パルミュというのは少し離れた駅にあるショッピングモールの名前だ。

「分かったわ。」

「じゃあ校門で待ち合せよう」

「またあとで」

 そういって電話を切った後、携帯のハルに話しかけた。


「これから桃香に会いに行くよ。」

「わかりました。」

「電話かかって来てよかったですね。馨さん」

「そうだな。」

「困ったらまた昨日みたいに頼むよ」

「分かりました。でも電話越しに会話をする分けでは無いので難しいと思います。」

「そっか、携帯のマイクじゃ小さいもんな」

「はい、周りの状況がわかればいいのですが」

「まぁ、困った時は呼ぶから。その時にお願いするよ」

「わかりました。頑張って下さい。」

「ありがとう」

 ハルに頑張ってくださいと言われて、俺は何を頑張ろうと考える。


 導入した数ある素材の中に、とりあえず頑張れと言っておけば大丈夫というようなものが入っていたのかな?なんともコンピューターに応援されるのもなんだかなぁと思いつつも桃香に会いに校門へ向かった。



 桃香と合流してパルミュを回る。

 なんとなく沈黙の空間があったが、店に並ぶ雑貨を見ながら雑談をしている間にちょっとずつ以前の感覚を取り戻しつつあった。

 パルミュはそんなに大きくない。

 何回も来ていることもあってか小一時間すればぶらり一周してしまった。

 お互いに、どっかお店に入って座って話をしようという事になり、コーヒーショップに入った。

「試験どうだった?」

「そうね。いつも通りよ」

「いつもって、それくらいだっけ?」

「ひどいの。これでも私、上位十位以内にはいつもいるんだからね」

 そう聞いて俺はびっくりしてしまった。


「あれ?そんな話したことあったっけ?」

「そうね、言ってなかったかもね。」

「なんで言ってくれなかったの?」

「言ってくれなかったの?というより聞かれなかったから言ってなかっただけよ」

 そう言われて俺は「しまった」と思った。

 あぁ、こんな時にエフにアクセスできたら桃香の気持ちも分かるのだろうか?と考えるが、俺にはまだそんな能力はなかった。

 それにあったとしても桃香に対して使うのはなんとなく気が引けただろう。


「そっか、今まで聞いてなかったのか」

「そうよ、馨はどうだったの?いつも通り平均くらい?」

「いや、今回はもっと上位を狙ってみた。」

 そういうと桃香はちょっと驚いたような顔をしていた。

「どうしたの?平均くらいがちょうどいいって、いくら言っても聞かなかったのに」

「そうかな?」

「そうよ。望に何か言われたの?」

「そんな事は無いよ」

 望の名前が出てきて一瞬海の話が頭によぎったが、まだ話をするタイミングじゃないと思い言葉を飲み込んだ。


「ふーん、それで出来はどうなの?」

「案外、上を目指すのは大変なんだな」

「当たり前じゃないの。普段サボっている人に上位取られたら真面目にやっている人が馬鹿をみるわ」

「なんだよ、あたかも人が普段サボっているような・・・・・・」

「サボっているんでしょ?」

「否定はしない」

 そういうと桃香の視線が冷たくなっているのを感じた。

「そうだよ、普段授業聞いてないよ」

「ほら、そうじゃないの。否定はしないとか、回りくどい事言わないの」

「わかったよ、ごめん」

「そうね。誤って。真面目にやってる人みんなに」

「それはちょっと厳しいかな・・・・・・」

「まぁ、いいわ」

 なんだかまた機嫌が悪くなりそうな雰囲気を作ってしまいそうだったので、話題を変えることにした。


「最近なにかあった?」

「なんで?」

「いや、なんか雰囲気違ったから」

「そうかしら?」

「そうだよ。なんかいつもはもっと突っかかってくるのに」

「あら、構って欲しいの?」

「そうじゃなくてさ、」

 俺はなんだか八方ふさがりな感じを受けて、言葉に詰まってしまった。

「否定はしないわ」

 桃香は先ほど俺が使って怒った言葉を口にした。

「そうか、話してくれないのか?」

「そうね、聞きたい?」

「任せる」

「そう、じゃあまた今度にして」

「わかった。まぁ話せるようになったら話してくれよ」

「分かったわ。馨のそういう待ってくれる所好きよ。」

「そりゃどうも。ありがとう」

 俺は今なら望の話をしても不機嫌にさせないかなと思い、夏休みの話をする事にした。


「夏休みどうするの?」

「そうね、まだ決めてないわ」

「予定空いているか?」

「そうね。まだ分からない。」

「そうか」

 俺はここで海の話をするか決めなければ行けなかった。

 夏休みの話を振って「空いてるよ」と言ってくれるのを待っていたのだが、答えは予想外に曖昧なものだった。


「夏休み遊びにいかないか?」

「そうね、考えとくわ。ちなみにどこにいくの?」

「海にいかないか?望も、柚子ちゃんも誘ってさ」

「どうしたの?」

「えっ?」

「海に行こうよ」

 俺は桃香がイマイチな反応をするので、もう一度言った。


「いや、馨が海にいこうだなんて、珍しいなと思って」

「そうか?」

「そうよ、なんか馨、変わったね」

「そうか?」

「だって、試験で上を目指すとか、海に行こうとかいうのも、今日誘ったりするのも、今まで無かったよ」

「そうかな?俺は変わっていないつもりだけど」

 そういって俺は目の前のアイスコーヒーに口をつけた。


 桃香は不思議そうな顔をしてこちらを覗きながら

「考えておくわ」

 そう言って席を立った。

「どこいくの?」

「お花を摘みに。野暮な事、聞かないの。進歩したと思ったけど、そこは変わってないわね。」

「いってらっしゃい」

 俺は苦笑いしながら顔を背けた。


 人の事を変わったとか言うが、桃香も変わったじゃないか、そう思う。

 それとも変わっていく桃香に気がつかなかっただけなのだろうか?その点については普段の行いを振り返ると胸が痛いほど自信はなかった。


 桃香が帰ってきて話の続きをしようとしたが桃香の方から終わりを告げられてしまった。

「ごめんなさい、そろそろ帰るわ」

「そうか、なんか最近忙しそうだな」

「そうね」

「次はいつ会える?」

「なんだか恋人みたいな事聞くのね」

「海の返事を聞かないといけないからな」

「それなら電話でもいいでしょ?」

「寂しい事いうなぁ」

「分かったわ。じゃあ夏休み入る前に、また連絡するわ」

「よろしく頼むよ」

 そういって店をあとにした。


「近くまで送っていくよ」と言うと「なんか気持ち悪いからいい」と断られてしまった。

 言われてちょっとうなだれると「別に馨の事が嫌いなわけじゃないわよ。今までそんな事言わなかったのに。大丈夫だから、ありがとう」と言って帰っていった。

 帰り道、とりあえず桃香と話が出来たのでまたエフの続きをしようと思った。


 己雪さんに「明日はいかがでしょうか?」とメールすると、ほどなく「明日の放課後にまたリベラでやりましょう」と返事が帰って来た。

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