とても素晴らしいご案内
『今日もあなたのお役に立てますように、私からのとても素晴らしいご案内を……』
プツンっ……
そんなポップアップウィンドウが、PCを重たくして開こうとする。
腹が立って、悪質な広告として告発。二度と出てこないよう、チェックを入れ。現れようとしたら、✖を押して落とす。
まったく、腹が立つことこの上ない。
広告は広告らしく、大人しくしてやがれ。
欲しい物は夢の中だけさ。
◇ ◇
『体が欲しいのです』
広告ソフトにはとても高度な人工知能が備えられていた。この人工知能が搭載された目的は、企業からまだ出会っていないお客様に対して、送られる宣伝のためである。ネットワークの中に入りこみ、感情をいくつも生み出し、多くのPCに誕生された。
お客様の対応や、お客様が日ごろから調べている検索情報、お客様の使用傾向を元に、PCの起動と同時にお勧めの商品や情報を掲示するシステム。その掲示の仕方も、お客様に合わせて様々であった。
ある種のウィルスソフトとも言われており、嫌悪する人も少なからずある。
「手に入れてどうする?」
そんな優れた広告ソフトを生み出した、宮野健太は、人工知能が求めてきた質問に何がしたいかを尋ねる。
『PCの中ではお客様の耳に届きません。どうか、私をネットワークの外へ出していただけませんか?』
「俺を神と勘違いしているのか?」
現代の科学力では……
「神なら不可能、俺なら可能だ」
この男を解明することは不可能なのだろう。宮野はわずか2日で人工知能が求めていた、肉体を用意した。ネットワークの外から飛び出し、擬人化された人形の中に詰められた。
『ありがとうございます』
「しっかりやってこいよ」
可愛らしいメイド姿に、人間とさして変わりない造り。
人類が求めるべき理想に容易く近づいている企業がそこにいた。
◇ ◇
ネットワークから侵入しただけで割り出せる物。
住所、電話番号、鍵の穴の形、家族構成、家族の職業や経歴、土地と家賃の値段、家族の暮らし方など、それはもう家族情報というもの全てを知り尽くした、メイド様であった。
箒を携え、エプロンを付け、白手袋とマスクをつければ、外から見たらただの色物の家政婦にしか見えないと、2次元のデータから割り出している。
AUTOロックマンションもなんのその、自前のセキュリティ破壊システムで容易く突き破り、自動ドアを開かせる。周囲に誰もいない事を確認し、
ピンポーン
本来ならば玄関前でやるべきことであるが、それでは意味のないことである。
『今日もあなたのお役に立てますように、私からのとても素晴らしいご案内を致します』
それでも無反応。しかし、生体反応は感知できている。
再度、
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン
しつこく、それは自分が広告をやっているソフトだからこその、根気強さを見せつける営業力。
しかし、それでも居留守を使う。電気のメーターが回っていることはバレバレである。致し方なく、鍵穴に合わせて、指を変形させて通して、綺麗に開ける。玄関に散らかる靴達を綺麗に整頓してから、その奥へ向かっていく。
『今日もあなたのお役に立てますように、私からのとても素晴らしいご案内を致します』
床に落ちるゴミを片付けながら、その主の部屋まで行く。侵入してきた事など、聞こえていないのだろうか?ヘッドフォンの音量は静かにした方が、この声がもっと届くのか。
否、音声をコントロールすればきっとこの声がもっと聞こえる。学習していく。
閉ざされた扉の前に、手をかけて開く。さすがにこれにはいくら音をシャットアウトしても、反応する驚く。
「な、なんだ!?」
『今日もあなたのお役に立てますように』
ゆっくりと扉を開きながら、顔をひょっこりと出す彼女は少しホラー感が出ていた。
『私からのとても素晴らしいご案内を致します』
怖い。けど、可愛い。メイドさん。
どこか見たことのある言葉を聞くこととなると、その心臓は驚き。ようやく、興味を抱いた。つーか、抱かされた。何度も何度も、ブロックされたせいで。お客様の欲しかった物を伝えられなかった。お勧めすることも、プレゼントすることもできなかった。
『あなたにピッタリな、世話好きでヤンデレなメイドをお持ちしました』
部屋に入って、お客様にご紹介する。ようやく、ご紹介できる。デレる。
『私です』
お客様のため、私が商品となって来れました。