壱
おにさん、こちら。ここまで、おいで。
「おーにさん、こーちらー!こーこまーで、おーいでー!!わー!きたきたー!にげろー!」
どこか、遠くで遊んでいるのだろう。現在地の近くには確か公園があった気がする。
俺が今居るのは、少し古びたアパートの一室。そこで今の今まで昼寝をしていた。
だが、さっき聞こえた近所の子供らの騒ぐ声に、眠りの浅い俺の頭は、すぐに覚醒してしまったようだ。
病気、なのだろう。だが、これは明らかに後天的なものだ。先天的ならば、きっと過保護な俺の親が、足掻きに足掻いて完治に向け、執着の限りを尽くしていただろう。
だが、この病気は、ある日ぽつりと始まり、もう20年程の付き合いになる。これが何らかの外的阻害を与えない代物ならば、愛着も湧くのだろう。が、しかし、こやつは俺に、睡眠不足、日中睡魔、記憶力低下、食欲不全、あげくに一時的な脳神経の遮断まで引き起こしてくれる。
こうなったのも、あの20年前の出来事の所為。らしい。俺には、その当時の記憶は無い。失った、では無く、そもそも存在しなかったかのように、さっぱりと無いのだ。
だから、これから語る昔話は、人伝に聞いたものであり、決して事実そのものという訳ではないのだろう。でも、その中のほんの少しの真実だけは、どうか俺の代わりに、見逃さないで欲しい。