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「例えばだ、アル。区切った境界内の精霊を全て宇宙の外に投げる為の等価だとしたら、一体何が思いつく?」
問いかけに、アルは悩むように宙を見た。
「んー。正直、自分で言っておいてなんですが現代の魔術においては等価交換と言うよりは不等価交換が当てはまります。例えば火を出すのに科学はライターを使いますが、魔術師はその為だけに魔術式を構築し、そこに魔力を流し変換、還元するという手間をかけることになります。それを考えると、とてもではないですが詠唱・式構築と儀式の規模をどれだけ見繕ったらこの世界の外との経路を繋げられるかなんて、途方もなさすぎて想像もできませんよ」
「しかし、お前のような降霊術者は冥界との経路を繋ぐ事ができる」
「それはまた別です。元々この世界と冥界は繋がっています。普段は閉じているその経路を私たちは開くだけですし、何より冥界との経路を繋ぐなんて術式は、降霊術の中でもより極地──ほとんどが奥義のようなものですよ」
「それでも可能であることに変わりはないだろ? お前、その方法知ってる?」
単刀直入ですね……とぼやきながらアルは目線を泳がせる。恐らく、頭の中を探っているのだろう。
まあこの分だと、期待できないな。
結局、自体は何も進展していない。レポートが天使の召喚術ではなく神域への到達を目的としたものであったとしても、その方法が現状、空想論と割り切るしかないものであるとしたら、このレポートには意味はあっても価値が無い。
「そもそも、どうして先輩はこのレポートにそう固執するんです? 別に、先輩の研究夜は無関係ですよね」
アルの問い掛けは、的を射ていた。
三谷の本来の研究対象は魔女だ。
過去から現在に至るまで、魔女という存在は悪人としての側面が強い、と言うのは三谷の考えで、表の歴史でも、事実として西洋では魔女狩りと言う名の異端狩りが行われている。絵本や童話でも、鷲鼻で怪しげな薬を作る不気味なイメージが浸透している。
だが、実際のところ魔女という生き物は所詮女性の魔術師以外の何物でもない。
まあそれでも、魔女と呼ばれる存在が現在にはほとんど存在しないことから、女性魔術師がイコールとして魔女であるというわけでもないのだけれども──
閑話休題。
フォルテ・オーケストラが記述したレポートと三谷の研究は、確かに何の接点もない。
ならば何故三田には彼のレポートに固執するのか──そればかりは、三谷にも分からないというのが本音だった。
彼の家族とは確かに縁はあるが、かと言ってフォルテ・オーケストラと三谷はそこまで深い間柄でもない。
昔馴染みであるだけで、二人の見据える方向は全く別の方向だった。
だと言うのに、どうしてこのレポートにこうも興味が湧くのか。
「多分──俺が、昔神域に挑戦した男を知っているからかもしれないな」