初めての彼氏
初めてシリアスでコメディーなアクションファンタジ―を書いてみました。
「あの。大峰 怜理さんですよね。オレ2組の四条 悠雷っていいます。もしよかったら、俺と付き合ってください。」
夢かと思った。いや、マジで。
最近、この冴えない学校に転校生が来た。それが、とんでもないイケメンだったらしく、噂話に疎い私でも知っている。そして今目の前にいて私に告白した。
状況に全く頭がついていかない。本当に夢?
左手の親指の付け根を噛んでみた。濃厚な血の味が口の中に広がり吐き気を感じる。頭がくらくらし、地面に尻もちをついた。尻は痛いけど、左手はなぜか痛くない。と思ったらじわじわと痺れるような痛みが走った。
夢じゃないらしい。
「だ、大丈夫!?」
四条君が駆け寄ってくる。近くで見るとさらにイケメン。左手だけでなく、鼻からも血が出そう。
「うん。四条君。こんな私でよければお願いします。」
私が起き上がりながら言うと、四条君はきょとんとした顔になってから、笑顔になった。実に表情の豊かな人だ。
「嬉しい!」
オイオイ、笑顔もかわいいなぁ!
「じゃあ、一緒に帰ってもいい?校門で待ってるから。」
彼氏と一緒に下校とか何その萌えイベント!
約束を取り付けてから、急いで教室に戻った。早く友達に報告せねば!
「柚!桃!か、彼氏できた。」
顔が全く同じの二人がそろって信じられないという顔をする。失礼な。
「呼ばれていったと思えば、そういうことか。」
これは柚。
「ついに怜理にも彼氏か、しかもあの四条君!!」
これは桃。
二人は一卵性双生児なのだ。顔も同じなら言動もほぼ一緒。唯一違うのは性別。柚が男で桃が女。しかも両方彼氏彼女持ち。悲しいよね、今まで自分だけ置いてきぼりだったんだよ。
「それにしても、よくこんな恐怖政治の中でほのぼの付き合ってられるよね。」
これは二人ともが言った。
「そうだよね…。」
この国が独裁政治を初めて50年。行き過ぎた技術の進化により情報社会が暴走した事を理由に、強制統制を行った。以来、国の政治は悪化傾向。不景気と格差の拡大が大きな問題となった。しかし国は動かなかった。科学技術を独占する事だけを目的としていたからだ。
国が唯一保証したのは、教育を受ける権利のみ。その理由さえも将来有望な学者を育てるため。
しかし、南の方に反乱軍と呼ばれるただ一つの国内反抗勢力となった国民の味方がいた。しかし科学技術がない反乱軍は敗北が目に見えていた。
さらには、急激な治安の悪化により通り魔や、殺し屋などが夜な夜な徘徊するようになっていた。その対策としては夕方7時に帰宅命令の警報が街に響くだけだった。
「四条君!お待たせ!」
校門前で待っていた四条君と合流し、歩き始める。
帰宅命令のサイレンも残響が鳴り終わり、この耳に聞こえるのは悲しそうなカラスの声と自分と心臓の音。二人しかいないはずの道路を夕日が染め上げていく。他愛のない話をしていると明らかに誰か数人の気配がする。これが最近流行の殺し屋というやつだろうか。治安の悪さにも程があるだろう。
腰に隠した剣に手を伸ばす。四条君が気付いたのか、笑顔が少しぎこちなくなる。剣を引き抜く勢いで後ろに迫っていた人の首を胴体から切り離す。
最近の学校では兵力養成のため剣術を学び、この国は正しいのだと洗脳される。しかし私や柚、桃は正気を保っている。
「怜理!伏せろ!」
四条君の声がした次の瞬間、私が見たのは
――――あの日と同じ、飛び散った鮮血だった。―――――