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はじまりの村へようこそ

透の視点より。

…………困った、非常に困った。


森を抜けた時は、とりあえず助かったと思った。麦畑を見た時はこれで帰れると思った。そして、村のようなものを見た時は正直ちょっとだけ「ん?」と思った。その時点で悪い予感はしてたんだよな。


とにかく人が住む場所にたどり着けたこと、そして人に会えたことは喜ばしいことだと思うんだよ。しかもそれがロケットおっぱいの若い娘さんだときたらおじさん嬉しくなっちゃうよ…のはずなんだが。


「こ、こんにちは」

「………」

「は、はろー……?」


亜麻色の髪、グレーの瞳。鼻の上にちょっとそばかすのある少女は愛嬌たっぷりに微笑んでいるが、たぶん通じていない。全く通じていない。


「ボンジュール!グーテンターク!ボンジョルノ!ブエナスタルデス!ボアノイテ!」

「すごい、透さんて何ヵ国語もしゃべれるの?!」

「……いや、挨拶だけだ」


トモくんが俺に尊敬のまなざしを向けてくるが、言ってみただけで発音も無茶苦茶なんだ。あまり期待しないでほしい。発音が悪いからかもしれないが、相手も無反応だし。もっとも、通じると思って話しかけられてもどうにもできないんだが。


自分がどこに来てしまったのかさっぱりわからなかったが、まさかここが外国だったとは。予想の斜め上の展開だったな。電車賃借りられればすぐ帰れると思ってたんだが、そうもいかなさそうだ。


村はあまり大きくはなかったが、家が密集していないせいか広々としてのどかな雰囲気だった。ヨーロッパ風の形をした茅葺き屋根の民家がいくつか建っており、道脇には草が白くかわいらしい花をつけていて、童話の世界のようだ。観光で来たのなら一週間ぐらいのんびりすごしたいと思っただろうな。


あ、そうだ、電話は借りられるだろうか。身内と連絡が取れれば日本まで帰る手立てがあるかもしれない。えーと、日本への国際電話ってどうやってかけるんだったか……


「真帆、母さんの携帯の番号、覚えてるか?」

「……え?あ、うーん、携帯?ごめん、ちょっと思い出せないかも」


妹に話しかけるが、何だか上の空だ。そういや、さっき森の中でトイレ休憩したぐらいからソワソワしてるが、腹の具合でも悪いんだろうか。


「ぼく、うちの家の電話番号分かります。母さんがいるはずです」

「そうか、じゃあそっちと連絡を取ろう」


受話器を持ちあげるジェスチャーで娘さんに電話を貸してくれと伝えてみる。娘さんはよく分からないというような顔をしたが、俺の腕をじーーっと見て、「ついてこい」といっているようなそぶりを見せた。


俺たちは娘さんに促されて、周りの家よりちょっとだけ大きい家に連れていかれた。どうも、ここがこの娘さんの家であるらしい。娘さんは中から出てきたお父さんらしいおっさんと俺たちのわからない言葉でしばらく会話した後、奥の部屋でツチノコに噛まれた俺の腕を手当てしてくれた。


「何を言ってるかはさっぱりわからんが、とにかくありがとう」


娘さんに礼を言うと、なんとなく伝わったのかニコッと笑顔が返ってくる。かわいいじゃないか。


「ここのお父さんっぽい人が、よければ泊まっていけって言っているような雰囲気です」

「気持ちはありがたいが、それよりも電話はないかな?」

「うーん、なんか電化製品を置いてそうな雰囲気がなくって」

「結構田舎っぽいんだけど、インフラがあまり整ってない地域なんだろうか……」


困ったな。とにかく今日のところは真帆も調子があまりよくないみたいだし、ご厚意に甘えて休ませてもらった方がいいのかな。娘さん可愛いし。おっさんもいい人っぽいし。



結局俺たちはその日は娘さんの家に泊めてもらうことにした。娘さんによく似たお母さんが俺たちにも晩御飯をふるまってくれた。雑穀パンと薄味の野菜スープという簡素なものだったが、お腹がすいていたので美味しく頂くことができた。


その晩……。


疲れ切った真帆とトモくんが早々と寝てしまってから、俺はこっそり自分の体を確認してみることにした。実は、着せられていたシャツが粗い生地だったせいか、歩くたびに胸がこすれてちょっと痛かったんだ……。下着がないのは仕方ないけど、ひとまずサラシみたいなものをまいたほうがいいのかなあ。


シャツをまくってみると、大きくてハリのあるバストが出てきた。ここの家の娘さんほどじゃないけど、なかなかいいもの持ってるな、俺。白くてなめらかな肌が月明かりに照らされてなまめかしい。


そっと手を這わせてみると、むっちりと吸いつくような手触り。これはいい。とてもいい。この感触にはいつまでも触っていたいような中毒性がある。しかも、自分のだから触り放題。誰にも怒られない。


しばらく調子に乗って揉みまくっていたが、そのうちふと気付いてしまった。何かが足りない。すごくいいものを触って楽しいはずなのに、どういったらいいのか、こう、体の奥底からほとばしる熱いパトスのようなものが生まれてこない。


これはしょせん自分の胸だからなのか……それとも、俺がこのおっぱいと引き換えに何かとっても大事なものを失ってしまったからなのか。


そう思ったらなんだか急につまらなくなってしまったので、俺はおとなしく寝ることにした。明日起きたら、みんなで一度作戦会議をしよう。

娘さん「おとうさーん、なんだか村の外の人が来たよ」

父親 「近くの街から来た人かな?」

娘さん「全然言葉が分からないから、もっと遠くから来た旅の人かも。

    怪我をしているから手当てしてあげるの」

父親 「おや、後ろの二人はまだ子供じゃないか。

    だいぶ疲れたような顔をしているし、何か事情があるんだろう。

    気の毒だからしばらく泊めてあげなさい」

娘さん「はーい」  


……たぶん、親子の会話はこんな感じ。

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