花摘む乙女の悩み
真帆にとうとう何かが……
歩き始めた時から、違和感は感じていた。今はそれどころじゃないと思っていたので黙っていたけど、一度気にしてしまうとどうにも気になってしかたない。痛いとか痒いとかじゃないんだけど、ポケットに何か入っているような感じと言ったらいいだろうか。場所はポケットではないけど。でも、そんなところを人前で出して確かめてみるわけにもいかない。だからわたしは黙って歩き続けていた。
先ほどから似たような光景が続いている。どこまで歩いても木ばかりだ。たまに伸びた小枝が腕や頬に当たる。舗装された道と違って歩き易いとは言いづらく、だんだん足にも疲労がたまってくる。
ところで、今は真夏なのにここはあまり日が差し込まないせいか、少し肌寒い。今着ている粗い素材の服の風通しがよすぎるのかもしれない。腰のあたりに寒気を覚えて、ぶるっと身震いする。う、少しもよおしてしまった……
「ねえ、このへんで休憩しない?」
「真帆ちゃん、疲れたの?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
「暗くなる前にここを抜けたほうがいいだろう。さっきのやつみたいなのが夜に出ると危ない」
木の陰で暗いから気付かなかったけど、そういえばまだ日が落ちてないみたいだ。とっくに夕方は過ぎていたはずなのに。ゲームを始めてからすぐにここに来た気がしたけど、いつのまにか服も着替えているわけだし、ひょっとしたら知らないうちに日付が変わっていたのかもしれない。
となると、今ごろお母さんは心配しているんだろうなあ。携帯を持ってきていれば連絡だけでも入れられたんだけど。
まあ、それはそれとして。とりあえず当面の問題を解決したい。
「ちょっとだけでいいんだけど、自由時間もらっちゃだめ?」
「おまえ、なんかもじもじしてるな。あ、ひょっとしt……」
とってもデリカシーのないことを口走りそうな気がしたので、先ほど拾ったほどよい太さの木の枝を上段にかまえ、兄を威嚇する。慌てて口を押さえて後ずさりする兄。
「とにかく、ちょっと10分ぐらい別行動するから!
……追ってきたら殺すから!じゃあね!」
「あっ ひとりになると危ないよーーー」
だからってついて来られても困るもんね。
引き止める柏くんを振り切って、わたしは二人の姿が見えなくなるまで全力でダッシュした。
(ふう……)
勢いで走ってきちゃったけど、二人とも別に追ってまでは来ないだろう。
念のため周囲を警戒してから、ほどよい低木の影に腰を下ろす。確かにまたあの変なツチノコが出ると厄介だし、あまり一人でいるのはよくない。早めに用事を済ませて帰りたい。上着の端をたくしあげ、ズボンに手をかけて下ろす。あ、やけに風通しがいいと思ったら、……履いてなかったのね。
さて。
…………え?
…………あれ?
…………なんで??
今、何か、見えてはいけないものが見えたような気がする。
ズボン越しに、奥のものをそーーっとのぞく。
しばらく目をつぶって考えた後、また目を開いてみる。確かに何かある。あるはずのないものがある。
えええええええええ?
なにこれ。なにこれ。腫れてるだけってわけじゃないよね?
ちょっとだけ、指を伸ばしてつついてみる。
なんでこんなものがついてるんだろう。昨日お風呂入ったときにはなかった。絶対になかった。
……おかしくなったのは、お兄ちゃんだけじゃなかったってこと?
上着の下にも手を入れて、確認してみる。誠に遺憾ながらやや「小ぶり」ではあるが、いつも通りだ。ってことは、完全に男の姿になってしまったというわけではなさそうなんだけど。
なんかびっくりしていろいろ引っこんでしまった。
わたしはおろしたズボンを引っ張り上げた。うーん、とりあえず一旦戻ろう……
「おかえり。無事だったか」
わたしが外している間、兄たちは少し周囲を見て回っていたらしい。少し開けた人の手が入っていそうな場所があったので、そちらが出口につながってるんじゃないかとかそういう話をしていた。とても重要な情報だと思うが、正直さっき見たもののショックが大きくて今のわたしは反応できない。
「どうした、なんか暗いな?」
「うん、それが……」
「それが?」
「…………やっぱり、なんでもない」
相談しようと思ったけど、ものがものだけに何と言っていいやら。仮に相談したとしても、なんとかできる気がしないし。家に帰ったら病院に行こう……病院で治るのかな、コレ。
その後、体感にして約1時間ほど迷い歩いた後に私たちは森(だったらしい)を抜けることができた。そしてさらにしばらく歩いて麦畑のようなものを見つけ……なんとか暗くなる前に小さな村落にたどりつくことができたのだった。
慣れないものでなかなか進みませんが、読んでくださっている方もいるようで嬉しいです。ありがとうございます。次は「この世界」の人物が初めて出てくる予定です。