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ここはどこ?

真帆の視点より。

いつの間にかわたしたちは知らない場所にいた。


足元は膝が埋まるぐらいまで雑草が伸び、空には木々が暗く生い茂っている。地面は湿った土と濡れた落ち葉の匂いがする。昔、母方の祖父が連れていってくれた田舎の山の中に似ているが、下は斜面ではないし、生えている草も見慣れない形をしている。


「ぼくたち、さっき家の中にいたよね?」


自信なさげに問いかけてくる柏くんの言葉にうなずく。わたしの記憶では、さっきまでうちのリビングでゲームをしようとしていた。その後はどこかに行ったような覚えはない。記憶と整合性の取れない目の前の景色に違和感を覚えるけど、頭の中のどこを探しても「ここに来た」理由が見つからない。


わたしは柏くんを見た。彼もさっきとは雰囲気が違うような気がする。そうだ、服だ。柏くんはさっきまでボーダー柄のTシャツを着ていた。今は柄のないクリーム色のチュニックのようなものを着ている。下のズボンも同色で、麻生地のような目の粗い素材だ。腰のあたりは紐で締められていて、そこに何かが挟んである。


わたしの視線に気づいて柏くんがそれを引き抜く。ナイフだ。皮の鞘に入ったやや大ぶりのナイフ。果物の皮を剥くにはちょっと大きすぎる。なんでそんなものを持ってきているんだろう。柏くんは鞘からナイフを抜き出し、調べるように裏表を眺めた。


「そのナイフ、柏くんの?」

「いや、ぼくはナイフなんて持ってきてないよ。服も今日着てきたものと違う」


わたしも自分の服を見てみる。今日は確か、ハイネックのタンクトップにショートパンツを着ていたはず。それが柏くんが着ているものと同じチュニックのような形の簡素な服になっている。


「なにこれ、誰かがわたしたちをここに連れてきて着換えさせたってこと?」

「いやでも、家の中だったし……。ところで透さんは?」


そうだ、うちの兄がいない。ひょっとしたらこれって兄のしわざ?いたずらにしてはやりすぎだけど。


「俺もいるよ」


そういって、脇の木蔭から誰かが出てきた。一瞬兄かと期待したが……現れたのは全く知らない女性。服装はわたしたちと同じ。すらりとした長身で、手も足も細くてしなやか。にもかかわらず、バストのあたりは布の服が大きく持ち上がっている。細くくっきりとした眉をしかめ、憂いを帯びた表情をしている。全く知らない人なんだけど、どこかで見たことがあるような、初対面という感じのしない人だった。


「あなた、だれ?」


わたしと柏くんが疑わしそうな視線を向けると、女性はその形の良い唇から長いため息を吐きだし、艶のあるしっとりした声で、呆れたようにこう言ったのだった。


「………どうも、透お兄ちゃんです」

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