表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

プロローグ2:ぼくとお兄さん

隣人「智明」の視点からのはじまり。

お隣のとおるお兄さんから電話がかかってきたのは、もう日が暮れはじめた頃だった。その時ぼくは自分の部屋のPCでシミュレーションゲームをしていた。何年か前に発売された、田舎の村で野菜を育てるなごみ系のゲームだ。


「面白いものがある。一緒に遊ぼう」


そういって彼は自分の家に来るように言った。ぼくはPCを閉じて部屋から出ると、キッチンで晩御飯の支度をしている母さんに「ちょっと出かけてくる」と言って靴を履いた。母さんがもうすぐ夕飯なのにと文句を言うのが聞こえたが、すぐ帰るよといってすぐにドアを閉める。どこに行くのか聞かれたらめんどくさい。母さんは透さんのことをあまりよく思っていないようだから。


透さんはお隣に住んでいるぼくの幼なじみ「笹川ささがわ 真帆まほ」ちゃんのお兄さんだ。そしてぼくのひみつの友達でもある。ぼくは以前、彼に助けてもらったことがあって、その時からたまにこっそりお隣に遊びに行っている。お隣の家は両親はいつも仕事で遅くて、真帆ちゃんも週に数回は塾に行っているから、夕方ぐらいまではお兄さんが一人でいる日が多いんだ。ぼくが遊びに行くのはいつもお兄さんが一人の日で、一緒にお菓子を食べたり、ぼくが持参したゲームを一緒にやったりしている。真帆ちゃんがいたら駄目だというわけではないけど、彼女とは違う学校に行くようになってからちょっと話しかけづらくなっちゃってて、なんとなくね。


そんなわけで、その日もてっきり透お兄さんしかいないものだと思っていたから、呼び鈴を押した後、真帆ちゃんが出てきたのを見てちょっと動揺してしまった。真帆ちゃんのほうもぼくが来たのは意外だったのか一瞬微妙な顔をしたけど、さほど追及することもなくリビングまで通してくれた。


リビングには透お兄さんがいて、テレビに初期の家庭用ゲーム機(ぼくも実は画像を見たことがあるだけで、実際に遊んだことはない)を接続しているところだった。彼は接続を終えるとラベルの貼られていない謎のカセットを差し込んで電源を入れた。タイトル画面が出たけど、読めない文字ばかりだったからきっとバグったのだろうとぼくは思った。古いゲーム機はカセットの接続が悪いのだとネットの情報で見たことがある。


でも、その画面はバグってたわけじゃなかったみたいだ。しばらくすると突然ゲームが始まったから。


「これは呪いのゲームなんだ」

透お兄さんがにやりと笑いながら言う。


「ホラーゲームなんですか?」

「いいや、ゲーム自体に呪いがかかっているのさ。なんでも、途中でやめられないっていうんだ」

そう言う透お兄さんの顔はなんかいたずらっ子みたいだ。いい年して呪いだとか、ばかばかしい……と真帆ちゃんがつぶやく。


「まあ、呪いは俺の冗談だけど。やめられないってのはこれをくれた人が言ってたんだよ。きっと面白くてたまらないって意味だと思うんだよな。クリアするまで先が気になってついつい徹夜しちゃうとかそういう類の」

「でも、結構古いゲームなんでしょう?これ……」

「いやいやトモくん、意外と昔のゲームってのは名作が多いもんなんだよ」


わたしそういうの興味ないから、そう言って席を立とうとした真帆ちゃんをお兄さんが引き止める。


「まあ、まてよ、真帆。全部一緒にやろうとは言わないけど、始めのほうだけどんなものか見たっていいだろ。ほら、こうやって3人そろうのってひさしぶりだしな」

「……まあ、最初だけなら付き合ってあげてもいいけど。5分だけね」


ぼくたちは3人並んでリビングのテレビの前に座った。こうやって並んで座っていると子供の頃みたいで、なんだかなつかしい。あの頃は毎日が楽しいことばかりで、今となってはもう一度あの頃に戻れたらいいのにと思う時がある。


画面の中では主人公と思わしきキャラクターが村長の家に呼ばれるところからストーリーが始まっていた。絵は古臭いドット絵だけど、ゲーム内の会話はちゃんと日本語で表示されているみたいだ。よかった、中身まであの読めない文字だったらストーリーがさっぱり分からないところだった。


最近この近くの森に魔物が棲みついたようだ。森の近くには民家があり、まだ人の被害は出ていないものの家畜が襲われて困っている。だから魔物退治をしてくれる人を募集した。村長の話は要約するとそんな感じだった。主人公は募集に応じてよその街からここに来たらしい。


「なんか、しょぼい話ね。普通こういうのって、世界がピンチだから勇者が立ちあがるとかそういう感じなんじゃないの?スケールがえらく小さいんだけど」

「まあまあ、ここから話が大きくなるのかもしれないだろ」


場面は転じて、森の入口へ。ここで、「主人公の名前を入力してください」というメッセージが出た。お兄さんはコントローラーを握って、「トモ」と入力した。


(あ、ぼくの名前)


続いて性別の選択を促すメッセージが出て、お兄さんは「男」を選択する。キャラクターはデフォルメされた粗いドット絵だから男でも女でも区別がつかないような感じなんだけど。


主人公の入力が終わったら、今度は「仲間の名前を入力をしてください」というメッセージが出る。気づいたらいつの間にか主人公キャラクターの横に2人分のキャラクターが並んでいて、それが主人公の仲間のようだ。お兄さんは1人目の仲間の名前に「トオコ」、性別は「女」と入力した。


「トオコって、誰?」

「もちろん、俺」


おっさんのキャラクター作ったってつまらないからな、ナイスバディの色っぽい女戦士って設定だ。そういいながら透お兄さんは大柄な体をくねらせる。キモ、と真帆ちゃんが呆れた顔をした。


「3人目は当然『マホ』だ。で、性別は……どうしようかなあ」

「どうしようかなって、どういう意味」

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・っと……」


透さんの言葉に合わせてカーソルが男と女の間を行ったり来たりする。


「もう、つまんないことしないでよ。さっさと先に……」


真帆ちゃんがコントローラーを奪おうとして透さんのほうへ一歩踏み出す。透さんがそれを避け、バランスを崩した真帆ちゃんがゲーム機本体のすぐ横の床にどん、と勢いよく足をついた。その途端に、テレビ画面が歪んで「ビーー」というノイズが鳴りはじめる。


「おい、このゲーム機、意外にデリケートなんだぞ」

「知らない、そっちが悪いんでしょ」


たぶん振動で接触不良が起ったんだろう。お互いに文句を言いあってる兄妹を放置して、ぼくはゲーム機の電源ボタンに手を伸ばした。


その瞬間…………     世  界  が  歪  ん  だ  。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ