すき・・・かも。(G)
真帆の話です。今回は少しだけガールズラブ要素めいたものがあります。苦手な方はご注意ください。
わたしはバートおじさんに頼まれて薪割りをしていた。
薪割りは結構難しくて最初はよく狙いを外していたが、最近は慣れてきたのでほぼ百発百中だ。かすって倒れてしまうことなく、面白いように簡単に割れる。調子に乗ってぱっかんぱっかんやっていると、大きな胸をゆさゆさ揺らしながら向こうからロッタが走ってきた。
「サマーベリーがたくさん実っている場所を見つけたの。マホ、一緒にとりに行こうよ~」
ロッタはいつも太陽みたいに朗らかだ。亜麻色の髪を汗でぺっとり額に張り付けて、ニコニコ笑いながら手を引っ張る。わたしと変わらない年齢でわたしよりも背は高いが、しぐさや口調はいつも無邪気でやや幼い印象を受ける。
「そのままでも甘酸っぱくておいしいんだけど、たくさんとれたら煮詰めてジャムにするの。誰かにとられちゃう前に、早く行こう行こう~」
ロッタは食いしん坊だ。まだ採ってもいないのに、既に口からちょっとよだれが出てきている。たぶん頭の中は既にベリーのジャムでいっぱいなんだろうなあ。
「ロッタ、どの辺に行くつもりなの?」
「近くの森の入口のあたりだよ。手で運べないぐらいいっぱいだから、籠を持って行きましょ」
「森って……危なくない?」
「ああ本当に入口のところだから大丈夫だよぉ。トモもたまに薬草とりにいってるでしょ」
森といえば、最初にツチノコっぽい蛇に襲われたのを思い出す。村に住んでて分かったんだけど、この世界ではああいうモンスターはその辺に普通にいるようだ。さすがに人の住んでるところには堂々と出てこないけど、村の外にはたくさん棲息しているし、たまにこっそり入ってきて家畜小屋の鶏を襲ったりもするらしい。村の人もやられっぱなしではなく、罠を仕掛けたり猟のついでに狩ることもあるというから、ちょっと好戦的な大型の野生動物みたいな扱いだ。ちなみにモンスターによっては皮や爪は素材として加工できるし、肉も美味しいそうだ。わたしはツチノコの肉は食べる気がしないけど。
「行ってもいいけど、ちゃんとバートおじさんに言ってからね」
「は~~い」
おとうさ~ん、と言いながらロッタは走って行った。途中で石につまづいてこけたが、むくりと起き上がると土で汚れたスカートを気にすることなくまた走っていく。本当にベリーのことしか考えてないんだろうなあ。かわいいんだけど、ちょっとおばかなのがときどき心配になる。
バートおじさんが快諾してくれたので、わたしたちは森に向かった。ロッタは食べるのに夢中になると奥のほうまで入ってしまって迷子になりかねないから、しっかり見張っていてくれと頼まれた。わたしたちはベリーを運ぶための籠と、念のため護身用の短剣を持って行くことにした。
「わーー、すごい」
「そうでしょう、そうでしょう!」
どっさりと実った野生のベリーを前に、ロッタが自慢げに胸を張る。わたしは小さなベリーをひとつ取って口に入れた。かなり酸味が強く、草の香りもする。甘みがほとんどなくて果物らしさはないが、ジャムにするのはいいかもしれない。でも、台所に砂糖ってなさそうだな……ハチミツとかならあるのかな。
わたしたちは片っ端からベリーを摘んで籠に入れた。ロッタは籠に入れる量と同じぐらい自分の口にも入れている。その表情は恍惚としていて、手も口の周りも服もベリーの汁でベタベタだ。
「ロッタってば、年頃の女の子なのに……」
「マホ、お母さんみたいなこと言ってる~」
「ベルダおばさんにも言われてるのね」
えへへ、とロッタが笑う。鼻の頭にちょっとだけできているそばかすがかわいい。
「ロッタって、同い年だけど妹みたい」
「え~~、わたしのほうがお姉さんでしょ?背も高いし」
「いや、でもわたしのほうが精神的に大人だし……ロッタって言動が子供っぽいし」
そうだ、とロッタが何か思いついたような顔をする。
「ね、マホってもう好きな子いる?」
「え?」
「トモとは付き合ってるの?姉弟じゃないんでしょ?」
ロッタってば、期待で目がきらきら輝いてる。普段はあまりそういう話題出ないんだけど、やっぱり女の子だしコイバナが好きなんだなあ……
「うーん、彼は子供の頃から知ってるから。血はつながってないけど弟って感じかな」
「そうなの?じゃあ村の男の人は?」
「かっこいい人もいるとは思うけど、結構年上が多いし……」
「年上はダメ?」
「ううん、なんかみんなうちの姉(本当は兄)のほうばかり見ててさ……」
「トオコお姉さん、美人だもんね。でもすっごく面白いの。こないだなんか、みんなでいるときにでっかーいおならしてさ、すごーく気まずそうな顔をしたあとにかっこつけながら『ふっ…今のは威嚇射撃だ…命拾いしたな』とか言っちゃって、その後トイレに駆け込んで……」
ホント、中身があれなのに、なんでモテるんだろう。根っからの女性としてはちょっと傷つくんだけど。
「あれの話はさておいて……ロッタはどうなの?好きな子いるの?」
「ううん、わたしもまだいない」
ロッタは軽く目をつぶって、何か考えるような表情をした。そしてひとつうなずいてから、続ける。
「あのね、マホは遠くの村から来たんだよね」
「うん、まあ、そんな感じなんだけど」
「故郷の村に帰るの?」
「そうだね。いつかは」
「この村の人と結婚したら、帰らずにずっとここに住むんじゃないかって、お母さんが…」
「ベルダおばさんが?」
ロッタがうなずく。
「マホ、ずっとここにいていいからね。わたし、ずっとマホにうちにいて欲しい」
うーん、気持ちはすごく嬉しいんだけど。ここではみんな優しいし、わたしもロッタと一緒にいたい気持ちはあるんだけど、それでもやっぱり帰りたい。ロッタのことをバートおじさんやベルダおばさんが心配するように、わたしの両親もきっとわたしのことを心配しているはずだ。
ちょっと約束はできないかな、というとロッタはすごく悲しそうな顔をしたけど、代わりにわたしたちは「好きな子ができたらお互い相談しようね」と約束した。
赤く熟したベリーをあらかた籠の中に摘んでしまってから、わたしたちは家に帰ることにした。幸いにしてモンスターは全く襲って来なかったので借りた短剣の出番はなかったけど、帰る途中に夕立にあってしまい、家につく頃にはすっかりびしょぬれになってしまった。
「うう、つめたかった」
「わわ、ちょっと、ロッタ!」
ロッタが犬のように頭をプルプルさせて、水をはじく。ロッタの長い髪の先が大きく振り回されて、わたしの目に入りそうになる。わたしは目をつむって腕で顔をガードした。
「あ……」
目を開けると、ロッタの肉感的な体に雨で服がはりついていた。濡れた服の下からうっすら肌の色が透けて見えて、何だか急にいけないものを見ている気になる。
ロッタが果汁で汚れたエプロンを外し、無造作にワンピースを脱ぎ捨てる。その下からあらわれた見事な双丘。圧倒的なボリュームをもって前に張り出したそれはミルクのように白く滑らか。美しい桃色をした部分はやや大きめで、ぷっくりと膨らんでいるのが愛らしい。寒さを感じたせいか、先端部は蕾のように固く立ちあがっている。
その見事さに、つい目が釘付けになる。と同時に、腰のあたりに下から上へゾクゾクとした感覚が走り、体の奥からなにか熱いものがこみ上げてきた。
「う……」
まずい。こんなときに……。
「着替えないの?風邪引いちゃうよ」
ロッタがそのままの姿で近づいてくる。わたしの服に手をかけて、手伝うように上着をたくしあげる。わたしの体にロッタのしっとりと濡れた柔らかい肌が触れる。肌同士が吸いつくような気持ちよさ。
脚の間に血液が集まり、硬く張り詰めるような感覚。じんじんして、苦しい。
だめ。おさまれ、おさまれ……。
自分ではない自分を抑え込むため、理性を総動員する。相手はロッタだ。間違っても変なことを考えてはいけない。頭の中にかかりそうになったピンクのもやを必死で振り払う。
「わたしは自分で出来るから。大丈夫」
ロッタにつかまれている上着を自分で持ち直し、ロッタと距離を取ろうとするが……
「いいにおい」
ロッタは手を離さず、なぜかとろんとした顔でこちらを見ていた。
「マホのにおい、すごくいいにおい」
ロッタの頬がのぼせたように赤くそまり、目は潤んでいる。雨にぬれて光っている唇からはぁはぁと荒い息がこぼれる。いつもは朗らかで子供っぽいロッタの顔に妖艶さが宿っているという違和感。
「ど、どうしたの、なんか変……」
いつもと違うロッタの雰囲気に軽い恐怖を覚えて引きはがそうとするが、逆に手首をつかまれて抱え込まれるような格好になる。ロッタのほうが体格がいいこともあり、その状態からは力がうまく入らない。ロッタは首筋に顔をうずめて、くんくんと鼻を鳴らす。
「においをかいでたら、なんかドキドキしてきたの……」
首筋に、濡れたなにかが這うような感覚。
「わたし、マホのこと……すき、かも」
そのまま首筋に軽く歯が当たる。わたしの頭の中で、何かの映画で見たようなシーンが再生された。美しい女吸血鬼が獲物に噛みつくシーン……
と。その瞬間、誰かが騒々しく近寄って来るような足音がした。慌てて我に返り、今度こそロッタを引きはがす。勢いよくドアを開けて飛び込んできたのは、この数カ月で伸びた黒髪を雨で濡らし、『画面から出てくるホラーの人』のようにふり乱した「兄」。
「いやー、ちょっと出かけたらいきなりすっごい雨降ってきちゃってさー、もうパンツまでぐっしょりで……俺って雨女なのかなー、この間もさー……」
入って来るや否や雨への恨み事を述べながら、しずくをだらだら垂らす髪の毛をしぼって、顔をあげた。
「……あ、お着換え中でした?こりゃ失敬」
「………この……!」
変態!出てけ!
と再び雨の中に兄を蹴り出す。かわいそうだよー、お姉ちゃんも入れてあげようよーととりなすロッタ。きみは事情を知らないからそんなことが言えるんです。
でも、さっきはちょっといろいろ変だった。わたしも変だったけど、ロッタも変だった。着替え見られたのは許せないけど、結果的には助かったと言えなくもないかも……。
その晩。一人になったらなんだか昼間のロッタのことを思い出してしまって、眠れなくなってしまった。何時間も煩悶した後、やむを得ず「鎮めの儀式」を行ってしまったわけなのだけれど、終わってさっぱりした後の罪悪感といったらハンパない……。わたしはロッタのこと、決してそういう意味で好きじゃないんだよね。なのに、あんな無邪気な妹のような存在に欲望を向けてしまったと思うと……ああ、もう、自己嫌悪が止まらない……。




