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プロローグ1:兄の拾ったもの

妹「真帆」の視点からの「はじまり」。

兄が変なものを拾ってきた。


うちの兄は無職である。いつからかは分からない。わたしが物ごころついたときには既に学校にも行っていなかったような気がする。ご近所の人の話では、昔はそれなりに優秀な子供だったらしい。それがどうしてあのようになるのかは分からないが、今は全く社会の役に立ってない存在である。


わたしと兄はけっこう年が離れていて、わたしが生まれた時、お母さんはすでに40代だった。わたしが今16歳だから、兄はたしか今年で35歳。働かない兄の存在はなんとなく恥ずかしい。だから、あまり兄の話題を出されないように外ではわたしは一人っ子のふりをしている。わたしは兄のようにはならないつもりだし、周りにあれこれ言われないように兄の分まで頑張らなきゃいけないと思っている。


兄は昼間は外には出ないが、一日中部屋にこもっているわけではなくて、夜はたまに外に出ているようだ。だから、引きこもりなわけではないと思う。夜にふらっと家を出て、いつの間にか帰ってくる感じなんだけど、いったい何をしているのかは謎だ。パチンコにでも行っているのかと思ったけど、たまに変なものを持って帰ってくる。この前はこげ茶色の変な器をもってきて、「これは宋ぐらいの時代の茶器だ。テレビの鑑定番組とかに出すとゼロが8つぐらいついちゃうかもしれないすごいものだ」とか適当なことを言っていた。本当はどっかのごみ捨て場とかで拾って来たものだと思うけど。外で変なうわさが立つと嫌だから、いっそ自分の部屋でおとなしくしてくれてたらいいのに。


で、そんな兄が、昨夜また変なものを持って帰って来たらしい。それは黄色いプラスチック製の長方形のもので、片側が差し込み口のようになっていた。ところどころ黒く汚れていて、あまりきれいじゃない。


「これはな、ゲームカセットだ」


わざわざ見せに来るが、全く興味がない。わたしはスルーして、視線をテレビに戻した。見ているのはたまたまやっていた英語講座で、タレントが少したどたどしい発音で講師役のフレーズを真似している。いつも見ているわけじゃないけど、少なくとも兄の話よりは面白い。


「いまどきの子は知らないかもしれんが、昔はゲームソフトはこういう形だったんだ」


そんなことを言いながら、わたしの邪魔をするようにテレビとの間に割り込んで来る兄。あごの無精ひげをさすりながら、ちょっと得意げな顔をしている。


「じゃま どいて」

「そうはいかん」

「なんでよ」

「だって、テレビ使いたいからな」


わたしは兄を睨みながらしぶしぶ腰をあげた。別にどうしても英語講座が見たかったわけではない。しかたないので2階の自分の部屋に行こう。そうだ、明日の授業の予習でもしよう。早めにやっておけば夕飯後はゆっくりできる。


そう思ってリビングから出ようとしたときに、玄関のチャイムが鳴った。


「ああ、あがってもらってくれよ」

「え?誰?」

「誰って友達だよ。別にいいだろ、友達呼んでも」


あの人に友達なんかいたのかなと思いながら玄関に向かう。チェーンを外す前にドアスコープを除くと、そこには男の子が立っていた。やや低めの身長に、ぽっちゃりとした体。色白に眼鏡、ちょっと童顔。眉尻が下がり気味で頼りなさげな顔つきをしている。


「ト……柏くん?」


そこにいたのはうちの隣人、「かしわ 智明ともあき」。わたしより1つ年下。小学生まではうちによく遊びに来ていたんだけれど、中学からわたしが受験をして少し離れた中学校に行ってしまったために学校が別々になり、お互い一緒に遊ぶような年でもなくなってそこからなんとなく疎遠になっていた。


「あの、透お兄さんに電話で呼ばれて。面白いものがあるって」

「柏くんを?うちの兄が?」

「晩御飯前の時間に申し訳ないけど、お邪魔してもいいですか」

「それはかまわないけど」


うちの両親はいつも帰りが遅い。これぐらいなら、別に迷惑というほどの時間ではない。しかしなんで兄は柏くんを呼んだりしたんだろうか。実はわたしの知らないところでいまでも仲良くしているんだろうか。



わたしが柏くんを案内してリビングに戻ると、兄はテレビの前になんだか古くさいゲーム機を用意して待っていた。今人気のある家庭用ゲーム機と比べると本当におもちゃのような作りで(おもちゃだけど)、白と赤の機体は白い部分がクリーム色を通りこして黄土色っぽく変色していたりして、本当にこんなのが動くのか疑問だ。


「大丈夫だ、たぶんまだまだ使えるはず」


そういって兄はカセットを差し込んで、電源をパチンと入れた。すぐにはうまく映らなかったので、一度カセットを引き抜いて差し込み口のところになぜか息をフーフー吹きかけてから、また差し込むと今度はタイトルらしい画面が出てきた。でも、書いてある文字が読めない。画像が粗いわけではないけどアラビア語みたいなくにゃくにゃした文字で、日本語でも英語でもない。


「面白いものってこれですか?」

「ああ、そうだぞ。一緒にやろうと思ってトモくんを呼んだんだ」

「で、これなんなの?」

「これはな、なんと……」

「なんと?」


呪いのゲームだ、そういうと兄は悪だくみをしているかのようにニタリと笑った。

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