第八話 予測していた真実
中途半端で切れた奴の続きです。
続きだけど……
めっちゃ少ないです……
「要するに、僕の女性恐怖症をどうにかしようと思ってやった、と?」
あらかたの説明を聞いた結論がそれだった。
「まぁ、要約すればね。ああ、もちろん、だからと言って、別になんの感情もなしに、と言うわけじゃないから。瑞穂がお前の事を好きだからこそ、やったわけだし、最初は私もやめとけと言ったんだが、どうにも、惚れた弱みと言うか、盲目さというか、とりあえず、無茶というか、まぁ、どうしても、あんたのその困った病気を治してやりたいと言いだしてね。しかも、ショック療法。止めるに止められなくてねぇ、困ったものよ」
いや、困ったのは僕の方だ。
完璧に踊らされていたと言うわけだし。
もし、あそこで、鈴穂さんが止めてくれなかったら、確実に食われていた。
例え、僕が反応しなかったとしても。
いや、反応はする。
所詮、男だ。
本能が反応することは分かる。
「状況整理させてもらいました。とりあえず、病院に報告させてもらいます」
だからこそ、陰湿。
というか、許せないこと。
あまりにもひどすぎる仕打ち。
いたいけで繊細な少年の心を打ち砕く悪魔の所業。
これを許して置けるだろうか。
否、許せない。
「とりあえず、院長には、生体実験をさせられましたと言っておきます」
「いやぁぁぁ!!やめて、お願い、あの爺、人の弱みに付け込んで、極悪非道な仕打ちやり放題の糞爺なんだから、何されるか分かったものじゃないわ!!」
「で、瑞穂さんは教育委員会に、無理矢理自宅に押し込まれた挙句、薬を飲ませて、もう人には言えないような事をしようとしたと言っておきます」
「ちょっ!!それは、さすがに冗談じゃすまないわよ!!」
「二人とも?しっかりと反省してください」
僕は、にこりと笑ってそういう。
こちらに、身の危険をあそこまで感じさせたのだ。
自分もそうなればいい。
もちろん、本当に言う気はないが。
元々の原因は僕にあるわけだし。
僕が、女性恐怖症になんてならなければ良かったわけだし。
「分かった。交渉しよう。何が望みなの?!お金?それとも、私の身体かしら!!」
「身体!?分かったわ。私の身体好きにしてもいいわ。だから、この事だけは言わないで!!」
でも、なんだろう、これは。
女性恐怖症と言うか、女性不信に陥っても仕方ないような感じがする。
というか、ホントに僕が女性恐怖症と分かって言っているんだろうか。
もしそうなら、かなり問題ありだ。
とりあえず、女性恐怖症なんだから、身体目的になるわけがないだろうに。
ホント困ったものだ。
「もう、冗談よ。悪かったと思ってるわ。医者としてやっちゃいけないことだって分かってるわ。でも、担当医としては、貴方のその病気を治してあげたかったの」
医者なら医者の領分がある。
患者の事を一生懸命に考える医者が理想だろう。
だけど、考えすぎれば考えすぎるほど、時間はかかる。
そして、その分だけできる仕事も減る。
それは、救える人の数を減らすことにつながる。
だから、その二つを天秤にかけてバランスを取らなくちゃいけない。
患者の事を考えつつ、考えすぎない。
自分の能力の範囲内で患者とむき合う。
それが出来る医者が本当にいい医者。
まぁ、最低限の腕もいるにはいるが。
それでも、それが出来ない医者が名医とは言えないだろう。
そういう意味では、彼女の事を僕は認めていた。
まだまだ医者としては歳若だけれど、それでも自分の分と言うものを分かっているように感じられた。
今の自分に出来る範囲の事を――もちろん、時には必要な自分の限界以上の力の発揮も含まれる――しっかりとやる。
そんな彼女の事を僕は素直に尊敬していた。
例え、何年以上経っても尚、僕の病気が治せない事を含めた上で。
「気にしないでください。これは、僕自身が向き合わないといけないことですから」
これは、まあ、自分自身が向き合わないといけないこと。
彼女のせいにはならない。
「でも、一人で何でも解決できるほど人なんて物は強くないのよ?貴方だって分かっているはずよ?」
「それでも、誰かに手を差し伸べられたとしても、それでも、僕が向き合わなくてもいいって言うわけにはなりませんよ」
僕だって、全部何もかも一人で解決できるとは思っていない。
絶対に誰かの手助けが必要になるときはある。
だけど、だからと言って、弱さをいいわけにして、見えないふりはできない。
どんなに辛くても、苦しくても。
それが、僕自身に出来る僕の罪滅ぼしでもあるんだから。
「こら、難しい顔をしちゃだめよ」
「え?」
いきなりぎゅっと鼻をつままれた。
「何かと向き合うんだったら、もう少し余裕を持たないとね?じゃないと身が持たないわよ?」
そして、そう言ってにこりと笑う彼女。
瑞穂さん。
やはり、そういうところは叶わないと思う。
一瞬で何を考えているのかを当ててしまう。
こと細かくまでは無理だろうが、それでもおおよその見当はつけられてしまう。
「別に無理はしませんから大丈夫ですよ」
嘘。
絶対に僕は無理をする。
何が何でも手に入れたい物、守りたい物があったら、僕は頓着はしない。
自分の身体が悲鳴をあげようが何しようが無理矢理にでもつかみ取ろうとする。
だけど、そんな事を言いたくはない。
例え、すぐにばれる嘘であろうと、自分から進んでそんなことはいいたくなかった。
「はいはい、分かってるわよ。君がそういう子だって言うのはね」
彼女はぎゅっと僕を抱き締めると、頭をぽんぽんと叩く。
鈴穂さんも優しい表情で僕を見ている。
守られている。
思わずそう思ってしまう。
でも、それはきっと事実で、僕がどんなに逃れようとしても逃れられない現実だろう。
僕は弱い。
この二人に守ってもらわないと生きていけない。
そこまでは、言わないけれど、僕が僕でいられているのは、この二人による影響が大きいだろう。
それだけ、本当に良くしてくれている。
僕にはそんな価値などないと言うのに。
全ては自分が招いた業の結果。
それだけなのに。