表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

エピローグ

最終話です。

文化祭当日は、穏やかに、そして、綺麗に晴れた。

僕達は、そんな麗らかな天気の中、いろんなところを見て周った。

一緒に買い食いしたり、展示物を眺めたり、ゲームをしたり。

それは、どこにでもいるような男女の当たり前の行動だった。

どこにも、特別なものはない。

ただ、流れる時間は自然で、穏やか。

どこにも、刺激的でスリリングな物はない。

僕達は、奏穂が死んでから、初めて普通になれた。

「で、その手は何ですか?」

そう思ってた。

けれど、やっぱり、現実は優しくない。

やっぱり、ルリと一緒にいると、男子からの嫉妬の眼や、やっかみをうけるし、実力行使に打って出ようとする輩までいる。

だから、当然、あちこちに逃げることになるわけ。

そして、逃げた先が、ここ。

保健室。

「いや、まあ、どうも、ここ最近ご無沙汰で、身体が疼くのよね。一回どう?」

まぁ、どうなるかなんて予想できそうだけど、仕方ない。

逃げ場所はここしかないわけだし。

「いやです」

それに、ちゃんと拒否すればいいだけのこと。

今までのことを考えると、心苦しいけれど、それは彼女も同じ。

お互い、傷つき、そして、答えを出した。

僕が救われたように、彼女も救われたんだ。

だから、変に気を使う必要はないし、むしろ余計な事。

彼女を侮辱することだ。

「まぁ、いいじゃない」

「良くない!!てか、脱がすな」

するすると脱がしにかかる彼女。

何度も何度もしてきたことだ、手馴れた様子で、脱がされていく。

「いいじゃない。今フリーなんでしょ?だったら、問題ナッシングでしょ?」

しかも、彼女ももう僕も奏穂の事からは解放されてる事を知ってる。

相変わらず、『女性恐怖症』も『人アレルギー』は残ってる。

だけど、それもいつか消えるだろう。

『女性恐怖症』は元々奏穂が原因で出来た物。

失う事の恐怖から生まれたもの。

『人アレルギー』だって、奏穂と付き合って、奏穂を好きになってからは、関係なかった。

どんなに触れ合っても、僕は、彼女にアレルギーはでなかった。

穏やかな気持ちでいられた。

だから、もう僕は、それに恐れる必要はない。

だけど、それは、相手にも同じ事が言えるわけで、今まで、奏穂の事があって、及び腰だった彼女も、堂々と参戦できると言う事になる。

「だから、いただきまぶっ!!」

むちゅっとキスをしようとしたところで、救いの手。

誰かなんていわなくても分かる。

ルリだ。

「先生?こういうところで、こんな事しちゃいけないって常識ですよね?ユーキも、むざむざと食われそうにならないの」

瑞穂さんを引き剥がすと、そう説教すると、ついでに僕も嗜める。

ぐうの音も出ません。

まあ、自業自得だもの、言えませんとも。

「さ、外もそろそろ落ち着いてきたから、出ましょう?このまま、ここに居たら、欲求不満の校医に食われちゃうわよ?」

「オケ。食われるのは勘弁だから、さっさと行こうか」

でも、やっぱり助けてくれた事、それから、ちゃんと様子を探ってくれていた事を感謝。

僕は、彼女の手を取って、立ち上がる。

横には恨めしそうな眼をした瑞穂さん。

でも、その瞳にうつる感情は別。

それは、安堵。

心の底からの安堵。

「まあ、頑張りなさい」

苦笑気味に彼女はそういう。

何を頑張るのか。

今、目の前にある男子からの総攻撃だろうか。

それとも、これからの僕達の未来だろうか。

「はい。ありがとうございます」

そんなのは分からない。

だけど、どちらだろうと、それとも、それ以外の事だろうと、何だろうと僕は、僕達は頑張らないといけない。

生きている限り、それは絶対に必要なことだから。

「そう思うなら、今度、私の部屋に遊びにぶっ」

「そういうお誘いはお断りです」

彼女に対する感謝はある。

答えが出るまでの間、僕が僕でいられたのは、僕が崩れずにいられたのは、彼女がいたおかげ。

彼女と一緒にいたから。

だから、ものすごく感謝してる。

けれど、それとこれとは、やっぱり別問題。

「さ、行こっか?」

僕は、取った彼女の手を握り、歩みだす。

これから、始まる、また、今までとは違った新しい生活へと。

「ああ、そんなドSな夕貴もすてぶっ!!」

まあ、その道のりは前途多難そうだけど。


小さな部屋に少年と少女が居た。

これは、僅かな時間しか与えられなかった少女のお話から始まったお話。

始まりの少女のお話は、少女には救いを、少年には絶望を与えた。

少年は、絶望し、深い深い闇の中に堕ちていった。

そして、始まりの少女のお話から始まった次のお話。

そこでは、女性と少年と少女が複雑に絡み合った。

絡み合い、女性は新たな道を、少年と少女は救いを手に入れた。

女性は、嘆きながらも、悲しみながらも、それでも前へと進む。

少年と少女は、初めて出会った小さな部屋で、かくれんぼ。

始まりの少女と少年と少女。

彼らの願いは、確かに叶った。

例え、最初の願いの形から変質していたとしても、叶ったことには変わりはない。

「やれやれ、ルリの鬼さ加減を見たら、絶対ファンはドン引きだよなぁ」

「うっさい!!」

「いったいなぁ。全く、喜ぶのはドMぐらいじゃないのか?」

「なら、あんたもドMの仲間入りね」

小さな願い。

それは、決して特別な物ではなく、ひどくありふれた当たり前の物。

何にも縛られることなく、ただ、純粋に呑気にバカみたいに生きたい。

そんな願い。

「まぁ、でも、いい女だよ、ルリは」

少年は笑う。

バカみたいに、呑気に笑う。

「まぁ、あんたも、割といい男よ、ユーキ」

少女も笑う。

穏やかだけど、平和ボケしたように笑う。

それが、合図。

終わりの合図。

ひどくありふれたお話の終わりの合図。

そして、新たに始まるお話しの合図。

誰もが歩む普通の生活のお話しへの始まりの合図。

だから、静かに幕を。

二人のこれからを見守るために。

とりあえず、あとがきはまた後で書きます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ