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第一話 変革への序曲

「ごめんなさい。貴方と付き合う事なんて考えられません」

声が聞こえた。

鈴の音のような凛とした澄んだ声。

もちろん、声の主は分かる。

まあ、この学校では割かし有名人だ。

美人で成績優秀な御嬢様。

これで、有名にならないほうがおかしい。

もちろん、僕も憧れてたりするけど。

いや、やっぱり、美人は世界の宝だ。

美人は三日経てば飽きると言うけど、あれは嘘だな。

もう一年以上見てきた人間としては、飽きたことはない。

何度見ても、美人はいい。

それが、いつも一緒にいると言うんだ。

素敵な事じゃないか。

とはいえ、だからと言って、告白するつもりは毛頭ない。

残念ながら、僕には特攻魂なんてない。

神風特攻隊の事を素直に尊敬はしているが、真似は出来ないのだ。

悲しいかな、現代っ子。

そんな強い心なんて持っていないんです。

まあ、それ以前に、彼女には、もう一つ有名な噂があるんだけれども。

とはいえ、別にたいした噂じゃない。

これも、ある意味、ありきたりと言っちゃぁ、なんだが、彼女は今まで一度として、告白を受けて、オーケーを出した事がない。

とりあえず、一度もない。

それが、どんなイケメンだろうと。

まあ、彼女自身よく言っている事らしいのだが、

『美形なんて死ねばいいのに』

とまあ、自分の姿を棚に上げて、恐ろしい事を言っていたらしいのだ。

とはいえ、自分の容姿も気に食わないらしいので、ある意味筋は通っているんだろうけど、開けっぴろげすぎて、それを嫌っている人もいる。

まあ、有名税って奴だ。

なので、基本、イケメンは却下される。

だからと言って、量産型凡庸男子が特攻をしかけても、あっさり負ける。

というわけで、ただいま連勝記録を大幅に更新中。

なんにせよ、すごい事だ。

ちなみに、なんで、僕がそんな事を知っているのか、と言うと……

実は、僕と彼女は幼馴染なのだ!!

そして、昔、結婚の約束をしたのだ!!

……というくだらないルートはなくて、単なる偶然。

いや、偶然と言うか必然なんだろうけど。

とりあえず、今いるのは、あれだ。

第二教棟の校舎裏。

で、校舎裏と言えば、人通りが少ない。

というわけで、導き出される結果として、とりあえず人には見られたくない痴情を行う場所である。

まあ、基本は告白だが、たまに、いたいけな少年には、少々刺激の激しい情事が行われているときもある。

キスだが。

もし、あらぬ事を考えていた人がいたなら、教えてあげよう。

いくら、人通りが少なくても、それなりに人目はある。

隠れてこそこそキスぐらいならできるだろうが、それ以上の事なんて、できるわけがない。

もし、そんな事が出来ると考えていたなら、それはゲームのやりすぎだ。

もう少し、現実と妄想の区別をつけてもらいたい。

と、話がそれてきたが、そんな痴情が行われている場所に、なぜ僕がいるのかと言うと、簡単な話しだ。

とりあえず、静かな場所が好きなので、ここに退避しに来ているのだ。

さっさと家に帰ればいいと言われるかもしれないが、これが残念な話し、実は僕は電車通学なのだ。

しかも、運の悪い事に、たいして栄えていない街である、電車なんてものは、一時間に一本しか通っていない。

そして、そこで、導きだされる答えは、一つ。

電車が来るまで待っている、というわけだ。

ちなみに、駅は、学校のすぐ傍だ。

利便性を考えてくれてありがとう、学校。

などと、しみじみと思ったことも何度もある。

ただ、近すぎるが故に、暇つぶしが出来ない。

まあ、教室やらにいればいいんだろうけど、わびしいかな、僕には友人がいない。

いや、いないわけじゃないんだけど、バカして盛り上がれる友人がいないのだ。

それ以前に、バカ騒ぎを毎日するのが好きじゃない、というのもあるんだが。

やはり、バカ騒ぎは、たまに、に限る。

そんなわけで、こうして、退避しているんだが、いつもいつもいるせいで、こうした痴情を見てしまうわけだ。

もちろん、堂々といたらばれるから、隠れている。

とはいえ、それも、運良く見つけた、隠れ家なわけだけど。

それは、僕が入学してすぐの時だった。

とりあえず、安息を求めた僕は、静かに慣れる場所を探した。

すると、そこには、なんと……

秘密の入り口があったのだ。

まあ、実際は備品置き場かなんかだろうけど、それなりに広いスペースがあったので、そこを秘密基地としている。

小さいながらも窓があるから、換気も出来るし、蛍光灯もある。

退避するぐらいにはちょうどいい。

実際、お昼もたまにここで取っている。

もちろん、ドアが付いてるから外からは、何がいるのかなんて分かんないし、元々付いていなかった鍵も僕が付けたので、あけられる心配もない。

まあ、そこらへんで適当に買った安い錠前みたいな奴をつけているだけだから、力づくでやられたら壊れてしまうだろうが。

でも、そんな事をする奴はいないから、大丈夫。

卒業まで安穏とした生活を……

どがしゃぁぁぁぁ!!

不意に破壊音が聞こえた。

すぐ傍で。

「美形なんて死にさらせ!!どいつもこいつも見た目だけか!!」

ついでに、そんな絶叫が聞こえる。

しかも、いつも以上に大音量で。

「ああ、もしかして、僕の安穏な生活も、これでおしまい?」

現実逃避をしてみるという選択肢もあったけど、やめておいた。

状況が余計に悪化するだけのようだし。

さて、どうしたものか。

とはいえ、やることは一つしかないわけだが。

部屋の隅で家から持ってきたタオルケットで自分の身体を包んで震えることだ。

とりあえず、へたれと思った人間がいたら教えてあげよう。

女と言う生き物は……

化け物なんだよ。

それ以上でも、それ以下でもないんだよ。

いや、化け物以上はあるかもしれないが。

まあ、なんにしても、恐ろしい生き物なんだよ、女は。

だから、見つからないように隠れておくしかないわけだ。

「あんた、そんなところで何やってるのよ」

て、速攻で見つかってしまった。

まあ、覚悟はしてたけど。

ここ、狭いし。

「ふーん、そう、分かったわ。ここで、あんた覗いてたわけだ。変態ね」

しかも、聡明な彼女。

あっさり、状況を把握してしまったようだ。

しかし、凹む。

変態だなんて。

好きで覗いてたわけじゃないのに。

ただ、呑気に休んでいる僕の前で、勝手に痴情を行っていただけだ。

まあ、怖いから言わないけど。

「うわ、鍵までつけてる。つか、これ、あんたの私物でしょ?ここまでやるとは、犯罪よ?」

ついに犯罪者扱い。

もしかして、刑務所行き?

うーん、それは勘弁だな。

「……とりあえず、状況説明をさせてくれない?」

というわけで、とりあえず、歩み寄ってみた。

「変態が話し掛けないでくれる?」

『だが、彼女は聞く耳を持たなかった』

どこかで、懐かしいモノローグが聞こえたような気がする。

でも、彼女の言葉も当然と言えば当然か。

どこから、どう見ても変態にしか見えないし。

「いや、実は変態じゃないんだ」

というわけで、もう一度挑戦してみた。

「その姿と、この部屋の状態から見ると、変態以外なんでもないじゃない」

『説得に効果はないようだ』

また、懐かしいモノローグ。

ちくしょう、僕の明日はどっちだ!!

「……分かった。変態でいいよ」

そんなの知るか、というわけで、明日を見るのをやめて、諦める。

なんだか、面倒になってきたし。

まぁ、もし、問題になったら、適当に言い訳しよう。

そろそろ、帰らないといけない時間だし。

とりあえず、鍵を見てみるが、完璧にぶっ壊れているので、使えそうもない。

ただ、ドア自体は壊れていない。

だから、使おうと思えば使える。

まあ、ばれてしまった以上、使えそうにもないが。

そこはそれ、諦めるしかない。

とりあえず、僕はそろそろと彼女の脇を通って、帰途についた。

まぁ、見えなくなるまで、鋭い視線で見られていたけれども。


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