第十八話 辿り着いた答え
それが、最後の日記。
それ以降、書かれていない。
違う、書けなかったんだ、奏穂は。
次の日は、ペンが握れても、まともに字が書けなかった。
一生懸命に字を書こうとしても、字にならなかった。
最後の日記の筆跡だって、ぐにゃぐにゃ。
一生懸命なんとか字にしているのが分かった。
だからこそ、あんな事を、あそこまでたくさん書いたんだろう。
自分の思いを書き残したんだろう。
そして、その次の日、字にすらならなかったから、どんなに一生懸命に書いても、字にならなかったから。消して、書くのを止めたんだろう。
思いを全て、心の中に閉じ込めたんだろう。
そして、それから数日後、確かな日にちは、覚えてないけれど、確かに、彼女は、ペンも握れないほど、衰弱していた。
ペンも握れない、動けない、そんな生活は、いったいどんな物なんだろう。
こうして、今、僕が当然のようにやっている動作、それが出来ない世界なんてどんなものなんだろう。
全く、予想が出来ない。
分からない。
でも、奏穂の世界はそうだった。
ただ、話すことしか出来なかった。
身体を動かすことなんて、ほとんどできなかった。
だけど、それでも、彼女は笑顔だった。
触れ合う度に、幸せそうだった。
だから、僕も笑えたんだ。
だから、僕も幸せだった。
どんなに別れが辛くても、悲しくても、それでも、僕は、彼女と一緒に居られた。
彼女が、いよいよ危険になったとき。
そんなときに、彼女は言った。
『ねえ、ユーキ、お願い。延命措置はしないで』
作られた笑顔の中には、罪悪感が、ありありと浮かんでいた。
当然だ、彼女だって、自分が言っている事が、どれだけひどいことなのか、良く分かっている。
分かっていて、それを言っているんだ、辛くないわけがない。
『死ぬときは、綺麗でいたい。無様な姿をさらしたくない』
それは、彼女の誇り。
最後まで彼女らしくあるためのプライド。
『それに、もう、これ以上、皆を苦しめたくないの、だからお願い』
そして、それ以上の優しさ。
だから、僕は頷いた。
ちゃんと書類もある。
だから、僕がそれを認めようと思った。
それを認めてやらないといけないと思った。
最後まで彼女らしくあるために、彼女の誇りを傷つけないために。
そして、最後まで、彼女は彼女らしく誇りに満ちた姿で逝った。
その後、どんなに、苦しかったとしても、僕はそれを後悔していない。
絶対に、間違っていたなんて思わない。
例え、犯罪だろうと、人殺しだろうと、僕はそれを否定しない。
裁かれるべきだと思っても、犯してはならない罪だと思っても、それでも、その選択肢を選んだ事を間違ったとは思わない。
彼女のためにも。
日記を閉じて、布団の中にもぐりこむ。
答えは、見つけた。
僕は、奏穂の願いを叶えたい。
そして、僕自身も、救われたい。
だから、答えは出た。
ひどくありふれて、情けない答えだけど、それでも、間違っていないような気がする。
僕がたどり着いた答えは。