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第九話 揺ぎ無い答え

「結果だけ聞くわ、どうなったのかしら?」

月曜日。

僕は、多少迷ったが、結局秘密基地を選んだ。

絶対聞かれると分かってはいたが、だからと言って、ややこしくなる可能性大な保健室へと行く気はどうしても起きなかった。

「まぁ、取って食われるような事だけはなかったよ」

「へぇ、意外ね。なんとか守りきった、って事かしら?」

「まあね」

とりあえず、ここは適当にお茶を濁すしかないだろう。

まさか、本当の事なんて言えない。

まあ、そもそも、女子相手に言うようなネタではないんだけれど。

それでも、言ってしまった事だから、どうしようもない。

後悔後立たず、とやらだ。

本当に自分でも思うがデリカシーのかけらもない人間だな、僕と言う人間は。

「にしても、何が気に入らないわけ?分不相応な美人じゃない。それとも、性格が悪いとか言うわけ?」

そして、ついでに言うと美人の申し出を断る変人。

「いや、そんなことはないよ。うん、瑞穂さんはとってもいい人だからね。ホントにまっすぐな人」

「じゃ、家事が全然だめ、とか?」

「ううん、部屋はすっごく綺麗に片付けてたし、料理も上手。毎日ぴっしりとしたシャツを着ているところから、洗濯とかアイロンがけもばっちりのはず」

「じゃあ、何が気に食わないのよ」

そうなのだ。

彼女は完璧と言えば完璧なのだ。

仕事をやらせれば、校医の仕事はしっかりとこなすし、家事も万能で、性格も多少S気が強いけど、悪い人じゃない。

そして、極めつけはスタイルのいい美人。

文句のつけようがないのは、確か。

だから、彼女の言うことはいちいち分かる。

何故、彼女を拒否するのか。

何故、そんなに嫌がるのか。

理解できるわけがない。

僕自身、何がいけないのか分からないぐらいなのだから、他人してみれば苛立ちを隠せないのは良く分かる。

だけど、それでも、やはりどうしても、僕は彼女の手を進んで取ろうとは思えないのだ。

「分からないよ」

偽らざる本心。

納得させる手段がないのなら、それを言うしかないだろう。

嘘を付くのが元来へたくそな僕だ、適当な嘘を付いてうまく誤魔化せるとは思えない。

「何がいけないのかは分からない。でも、分からないから、何かするわけにはいかないんだよ。瑞穂さんは、外見じゃなくて心を見て、一緒に居た時間、空間を見て、気持ちをぶつけてきてくれている。だから、見た目とかそんなんじゃなくて、一緒に居た時間や空間、ぶつけてくれている心を見て、それで決めたいんだよ」

でも、言える事だってある。

真剣な気持ちをぶつけてきてくれている。

適当な気持ちなんかじゃない。

僕の病気とも言えない物のくせに、未だに治らない物を知りながら、それでも、それに臆することなく、気持ちをぶつけてくれた。

それを、適当な気持ちで返したくない。

後悔しないためにも。

真剣な気持ちには真剣な気持ちを、それが僕の信念。

まあ、だから、逆に適当なら、こっちも適当、そんな感じの反応をすることも十分にあるのだけれども。

「ふーん、中々考えてるのね。でも、冗談抜きでその言葉臭いわね」

「悪かったね。自分で言ってて、恐ろしく恥ずかしかったよ」

でも、そうやって茶化されると、本当に恥ずかしい。

素直な気持ちなだけに余計に。

「まあ、聞いてて気持ち悪かったけど、でも、いい事だと思うわよ?それこそ、私の顔や身体目当ての胸糞悪い奴らに比べたらね」

それでも、言うだけの価値はあったらしい。

まぁ、僕としてはそんなものと比べられるのはたまったものじゃない。

でも、と思わずにはいられない。

僕が多少変わっているから、そうなっているだけで、そうじゃなければきっと僕も彼女の言う『顔や身体目当ての胸糞悪い奴ら』になっていたかもしれない。

僕が、女性恐怖症じゃなければ、きっと何も考えなかっただろう。

何も考えず、ただ可愛いから、綺麗だから、スタイルがいいから、それだけで選んだりしていたかもしれない。

だから、それを否定することは出来ない。

たまたまそうならなかっただけで、そうなる可能性は確かにあったのだから。

それにやっぱり美人さんは大好きだし。

否定する資格なんて持ち合わせていない。

「ありがとう」

だから、今の僕に言えるのはせいぜいその程度の事。

否定も肯定も出来ないそんな中途半端な言葉。

まさしく今の自分を表している。

立ち上がりながらも前へと進めていない、進もうとしていないそんな現状。

自分の過去への決別が出来てない、やりきれてないそんな中途半端な現実。

もしかしたら、そんな自分だからこそ、伸ばされた手を握り返せないのかもしれない。

いつまでも、後ろ向きな自分がまっすぐ前を向いている彼女の傍にいられるわけがない、と、そんな自信なんてない、と、そして、去られたときの悲しみと出来た心の傷と向き合いたくない、と。

もしそうなら、本当に情けないだろう、僕と言う人間は。

自分の事しか考えてない卑怯で最低の人間。

生きている価値なんてない。

死んでしまったほうがいいだろう。

だけど、そんなことを考えたくはない。

例え、僕の本当の姿がそうだったとしても、それでも、僕は自分を信じていたい。

僕の事を好きになってくれた彼女のためにも。

そして、自分のためにも。

踏み出せるかもしれない一歩のためにも。

そのためには、自分の事ぐらいは信じてやろう。

そう思った。


これにて、第一章終わりですww

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