プロローグ
少女はいわゆる美形、というものが嫌いだった。
もちろん、綺麗なお人形と、毛並みの綺麗な動物なんかは大好きだ。
ただ、人間に関して言うと、美形と言うものを見るたびに、恐ろしいほどまでの嫌悪感があった。
その原因は、全て、家族。
というか、ぶっちゃけ姉だった。
少女の家系は、古くから伝わる武家の一族で、それはそうとう裕福な家庭であった。
そして、お金持ちにはありがちに、それはたいそう美形な両親がいて、自分を含め、家族全てが全員美形だと言う一般庶民が聞いたら、とりあえず、嫉妬で殺せてしまうんじゃないかと危惧するぐらい恵まれていた。
そして、美形にありがちに、傲慢だった。
というか、単にわがままだった。
とりあえず、彼女の姉は、自分の美貌をいい事に、群がる男子を下僕のように使いまわした。
その姿を見て育った少女は、それだけで十分ダメージはあった。
けれど、それだけだったら、まだ嫌悪感を抱くまではいかなかっただろう。
お金持ちの美人とはそういうものなのだ。
そう思い込んで、自分もそれに倣っていただろう。
しかし、そうならなかったのは、彼女に群がる美形たちのせいだった。
とりあえず、幼少の時から如何なくその美貌を振りまいて、男性陣を篭絡していた彼女である、当然もてる。
もちろん、美形たちも、我先にと飛びつく。
しかし、その口説き文句がいけなかった。
いや、彼女がおかしかっただけなのかもしれないが、どちらにしろその口説き文句が原因だった。
『ふっ、俺のような男には、君のような人じゃないとダメなんだ』
『僕と同じレベルの美しさを持つ君は、僕といるべきだ』
『君の美しさは、私の美しさを更に磨かせてくれるだろう、一緒にいてくれないか』
などと、とりあえず、頭がとち狂っているとしか思えない口説き文句を堂々と吐き続けたのだ。
確かに、言わんとしていることは分からないでもないが、あまりにもお粗末。
ナルシストにも程がある。
しかも、それが延々と続くのだ。
彼女が嫌いになっても仕方がない。
中学にあがる頃には、美形を見るのでさえ嫌になった。
当然、美人である自分の事も大嫌い。
いっそのこと整形して、ぐちゃぐちゃにしてやろうかとも思ったが、うまいいいわけが浮かばないのでやめておいた。
両親共々、整形には反対派だからだ。
とはいえ、唯一の救いは美形万歳、じゃないところだけだろう。
まあ、もちろん、本音は美形に越したことはない、ということだろうが。
なんにせよ、整形も出来ない彼女は、当然美形のまま。
最後のあがきとお手入れも適当、化粧もしないし、身だしなみも整えない。
そうしようとしたが、あっさり邪魔が入って、美形のまま。
武家の御嬢様としての嗜みを冒涜する、とのことで、これまた、両親に却下されてしまったのだ。
ある意味不遇と言えば不遇なのかもしれない。
もちろん、一般庶民にしてみれば、おそろしく贅沢な悩みなのだが、知らぬは本人ばかりなり。
そんな悩みを持つ少女がいた、そんなある日のとある場所。
細かくは、高校二年生の文化祭ちょうど一月前の放課後の学校の第二教棟の校舎裏であるが。
そこで、とある少女は、一人の少年に出会う。
それは、そのとある少女にとって運命的な出会いとなる……
といいな、と思ったりする、そんな少女の以外と少女趣味な思いから出来上がった物語である。