仕事、そしてオカマへ。
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神・悪魔・精霊・幽霊・妖怪・宇宙人・未来人・異世界人………そういった“怪奇”は確かに存在する。
まぁ、流石の俺も、宇宙人だとか未来人、異世界人なんかは見たこと無いが。
逆を云えば、それ以外は瞳に写したことがあるわけで。
しかし。
大多数の一般人《見えない人》にとっては、寧ろ俺の様な存在こそ怪奇に見えてしまうのだ。
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夜より暗い羽。
それでいて宝石の様に煌めく黒。
草木も眠る丑三つ時。
一匹のクロアゲハが夜空を舞っていた。
「――! 居たのだよ、ミカゲ!!」
クロアゲハに負けないくらいの黒い魔女服に、自分の身長より長い銀髪をなびかせた美幼女が、寝静まった街に不釣り合いな大声を上げる。
「わかったから、メア。あんま大声出すな、近所迷惑になるぞ」
俺は美幼女――メアに、走りながら注意を促した。
そう、現在銀髪をなびかせているメアと俺は走っているのだった。
真夜中に。
勿論夜の運動会というわけではない。
お化けの学校に入学した覚えもないし、幼女とニャンニャンしたいようなロリコンでもない。
じゃあ何で俺達は走っているのかと云うと、クロアゲハを追い掛ける為だ。
否、正式にはクロアゲハが追っている存在を追い詰める為である。
一般的に人間には“体力”と“霊力”という二つのエネルギーが存在する(知力とか経済力なんかは別問題なので省く。決して俺が、馬鹿だとか貧乏だなんてわけではないんだからね!)
誰でも体力と霊力は持っているのだ。
よく、私は霊感が全くないから霊力ゼロだなんていう話を耳にするが、それは運動音痴の奴が体力ゼロというのと同じ様な意味になる。
つまり、運動音痴だからといって短距離走や持久走が出来ないわけではないように、霊感が無くとも霊力が無いわけではないのだ。
かと云って、誰もがオリンピックに参加出来るかと云えばそうでは無いわけで、霊力の面でも持って生まれた才能や積み重ねてきた努力というものが過分に関わってくる。
俺の場合、物心付く頃には幽霊や妖怪等の怪奇を見ることは出来ていたが、霊力の絶対量には恵まれていなかった。
霊力の絶対量――即ち、己が保持出来るエネルギーの最大値である。
当たり前の話だが、霊力の絶対量が高ければ高い程、持続的に力を行使出来る時間や瞬発的に発揮出来る力の強さが大きくなる。
故に怪奇を退けたり祓ったりするには、霊力の絶対量が高い方が有利なのである。
実際、この“業界”ほぼ霊力の絶対量で上下関係が築かれている。
また霊力の絶対量は、競走馬の様に遺伝による影響が大きい為、昔から退魔師や陰陽師を生業としてきた“旧家”が幅を利かせている業界でもある。
前置きが長くなってしまったが、特に名門の生まれでもなく霊力の絶対量に恵まれているわけでもない俺は、必然的に退魔師には向いていない。
それなりの努力を積みある程度の実績を重ね、現在はこの業界で飯を食えるようにはなったが、それでも俺が担当する仕事なんてたかがしれたものばかりだ。
だから今回の仕事も内容は、俺達の目の前を走っているネコをとっ捕まえることだし。
「このままじゃ、逃げ切られてしまうのだよ……っ」
メアが苦しげに声を上げる。
そりゃ、そうだ。
ネコと駆けっこして勝てる人間なんてそうそういやしない。
ましてやメアは、女の子なうえにまだ十歳の子どもだ。
体力的にもかなりキツいはず。
メアの為を思うのなら、ここは減速乃至一休みすべきだろう。
しかし、ここで追跡の手を弛めればネコを捕まえるのに更に時間が掛かってしまう。
朝には俺もメアも学校に行かなければならない。
なのでなるべく早めに、この仕事は片付けてしまいたいのだ。
「メア」
俺はメアより五メートル程先行すると、しゃがみ込み――所謂おんぶをする格好をとった。
「ミカゲ?」
メアが眉を寄せる。
きっと俺の格好の意味がわからず怪訝そうな顔をしている……のではなく、自分が足手纏い扱いされていることに不満を抱いたのだろう。
「そんなことするならっ、君一人でっ、追えばいいだろっ」
俺の読みは当たったようだ。
メアは顔を真っ赤にして(走っていたのもあるが)、怒りを顕わにしている。
だが、それがどうした。
「そんなに叫んで何死に急いでんだい? 愉快な奴だなぁ」
「な……っ、君という奴は! ボクは自分のワガママで――」
「そうだな、俺の仕事に無理やり着いて来ているのはお前さんのワガママだよ」
メアの叫びを途中で切る。
メアが俺に着いて来ているのは、何も今回が初めてと云うわけではない。
そしてメアが俺の相棒と云うわけでもない。
では何故着いて来ているのかと云うと、それはメア自身が望んだからだ。
理由は聞いていない。
でも俺に頼み込んできた時のメアの真剣な表情から察するに、伊達や酔狂で云ってきたわけではないのだろう。
そう思った俺は、詳しく問い詰めずメアの頼みを呑んだのだった。
勿論、全ての仕事にメアを同行させてはいない。
この業界なかなかに危険が多く、年間の死亡件数も半端無いのだ(もっと恐ろしいのは、年間の“行方不明者数”なのだが)。
メアを同行させるのは、比較的安全と事前にわかっているものに限っている。
それらを踏まえて俺はメアに語り掛ける。
「お前さんが望んだんだ。怪奇に関わるのは危険と承知の上で。俺に迷惑が掛かるのを承知の上で。
そうだろ?」
「う……うん」
「だったら、最後までやり遂げろよ! 足手纏いになるのが嫌だ? 足手纏いなんて初めからだろうが! それもわかっていてのワガママだったんだろ!」
十歳の少女相手には、キツい云い草だということはわかっている。
それでもこの娘の親代わりとして、怪奇に関わる先輩として伝えておかなければならないのだ。
自分の想いを貫く大切さ、を。
すぐに諦めてしまうことの愚かさ、を。
何より親しい人に遠慮されることの寂しさ、を。
「ほれっ」
お尻の上に置いていた両手を振って、メアを促す。
メアはおずおずと、俺の首に両手を回ししがみつくる。
しっかりホールドされていることを確認すると、俺はひょいっとメアを押し上げ大勢を整え立ち上がった。
「ごめんなさい、そしてありがとうなのだ、ミカゲ」
「莫迦。この程度のことじゃ、謝罪も感謝もいらないんだよ」
鼻声のメアに、出来る限り何ともない様な軽い口調で答える。
ま、流石に鼻水服に付けんなよなんて軽口は叩かないけど。
「む、いつものミカゲらしくないのだよ。いつもだったら『鼻水服に付けんなよ』とかデリカシーの無い一言を云いそうなものなのに」
「うるせい。喋っていると舌噛むぞ」
メアと出逢って一年。
また一つ、彼女との距離が縮まったような気する。
俺は背中に温かな重みを感じつつ闇の中へと走り出すのだった。
すると闇の中でクルさんが『そういう所が甘いって云うのよ』と、呆れていた。
いやはや、最近の幻影は妙にリアルで困るね――――後で覚えておけよ。
◇◇◇◇◇◇◇
「勿論、嫌に決まっているじゃない御影くん」
「え? 何が『嫌』だって、クルちゃん?」
「ふふ……、ドンペリ開けてくれたら教えてもいいですよ」
「えー……給料日前にそれはちょっと……」
◆◆◆◆◆◆◆
黒蝶――、クロアゲハ。
俺の行使出来る数少ない霊能力の一つで、系統的には召喚・使役系になる。
似た能力に式紙や使い魔、精霊召喚等がある。
俺の黒蝶と式紙や使い魔の違いとしては、召喚を行っているかどうかだ。
式紙や使い魔は鬼や悪魔といった存在を喚び出し、依り代(有名どころは、陰陽師が使うヒトガタの紙切れみたいなの)に降ろして使役するのだ。
これに対して黒蝶は、俺の霊力を依り代に込めて使役している。
乱暴に云ってしまうと、式紙や使い魔は生物で俺の黒蝶はロボットだな。
次の交差点を右。
その後、突き当たりを左。
あとは道なりに進めば目的地!
メアをおんぶしながら爆走中の俺は、頭にこの近辺の地図を思い浮かべ黒蝶を動かす。
ネコを目的地へ誘導する為に。
黒蝶から逃げる様に走るネコは、俺の目論見通り交差点を右に曲がり目的地へと近づいていく。
「その……重くはないかね、ミカゲ?」
ネコと一定の距離を保つよう走っていると、メアが耳元で呟いてきた。
「プッ」
思わず吹いてしまう。
「な……っ、何を笑っているのだね!?」
「いや、メアもちゃんと女の子してるんだなぁ、って思ってさ。パパは、そんな君の成長がとても嬉しいよ」
「誰が君なんかの娘なんだいっっ!!」
「そろそろ目的地だぞ」
「話をそらすんじゃないっ!!」
羽毛の様に軽いメアを背負っている俺の前に、石で出来た何百段という階段が姿を現した。
俺達に追いかけ回されたネコが、石段を駆け上がろうとする。
そこに暗闇から、ゴツい二本の腕が伸びネコの胴回りに巻き付いた。
「つ~かまえ、た」
次いで聞くものを震い上がらせる、おどろおどろしい声が。
最後に腕と声の主である、巫女服を着たボディビルダーもかくいう浅黒ハゲマッチョが出てきた。
「いつ見ても、あの生物は生理的に駄目なのだよ……」
メアが口元を抑えてうめく。
それは人間として当然の――否、ネコも真面目に嫌がっているところから全ての存在にとっての当然の反応だよ。
だって俺も気持ち悪いもん、あのオカマ野郎。
「なあ、ミカゲ。アレは大丈夫、なのかい……?」
メアが“アレ”と聞くのは、オカママッチョ(略してオカマッチョ)に抱き締められて紫色になっているネコ……のことではない。
そもそもネコが紫色をしていたのは、元からだ。
【カース・ド・キャット】。
インドやエジプトの方に伝わる怪奇で、日本で云うところの招き猫に近い存在だ。
もっともカース・ド・キャットがもたらすのは、不幸や不運なのでどちらかと云えば貧乏神や疫病神に近いのかもしれない。
そんなわけで、メアが心配していたのは、不幸の象徴をがっちりホールドしている、オカマッチョの方である。
「あー……、まぁ……、本来カース・ド・キャットと直接接触なんてデンジャラスなことしようもんなら、相当な呪いが降りかかるはずなんだけど……」
「けど?」
「まぁ、あの人だし大丈夫なんじゃないの?」
「そんな根拠も何も無い話で納得してしまえる自分が、ボクは悲しいよ」
俺達は二人して、巫女服オカマッチョに捕まったカース・ド・キャットがやがて泡を吹いて気絶するというカオスな出来事を呆然と見続けたのだった。
「さて、ご苦労様だったわねん、二人共」
オカマッチョが粘り着く様なおねぇ口調で、感謝の言葉とウインクを飛ばしてきた。
全力でかわす。
「がうっ……っ」
運悪く当たってしまったメアの全身に鳥肌がたった。
恐ろしい破壊力である。
「うぅ……まだミカゲにおんぶして貰っていればよかったのだよ」
強烈な一撃を受けたメアが、膝を付き、頭を垂れる。
「まあ、何なのこの娘!? さては泥棒猫ねん! 御影ちゃんはアタシのものなのよんっ……身も心も」
おい、発言には気を付けろよ、変態!
お前さんの心無い一言が、俺の社会的地位を失墜させてしまうんだからな!
「ほ、本当なのかい、ミカゲ!?」
「んなわけあるか! デマに決まってるだろうが! だから、そんな怯えた目をしながら後退るなっ」
俺とコイツの間にそんな気持ち悪い縁はない!
「本当……なのかい?」
イマイチ信じられない、といった感じのメアに俺は強く頷いた。
このオカマッチョ――本名、土御門:鉄心《つちみかど:てっしん》と俺は元請けと下請けの様な関係である。
鉄心が依頼された怪奇に関する仕事を、俺が解決し鉄心から報酬を貰う。
今回のカース・ド・キャット捕獲についても、鉄心から貰った仕事だ。
内容としては、何者か(恐らくは趣味の悪い金持ちだろう)が秘密裏に日本へ持ち込み(密猟)、それが逃げ出してしまった、と。
そのままにしておくと、どんな悪影響が出てしまうかわかったもんではないので、鉄心の所に捕獲して欲しいとの依頼がきたのだった。
勿論、俺は鉄心の依頼主等についての情報は一切与えられていなく、ただただ鉄心の所へカース・ド・キャットを持ってくるのが仕事内容だった。
「やっぱり御影ちゃん達に任せて正解だったわねん」
石段に腰掛け、泡吹いているカース・ド・キャットの首根っこを掴んでいた鉄心がしみじみと云う。
あぁん?
「だって仕事をお願いしてから、二十四時間もしないうちに捕まえてきてくれたじゃない?」
「事前にカース・ド・キャットの霊力の残滓(毛)を貰っていたからな」
黒蝶は対象の霊力を追うことが出来るから(怪奇、人間問わず)、こういった捜索・追跡はお手の物なんだよ。
それにカース・ド・キャット自体が、東京都内の比較的近くに居たしな。
「そ・れ・に。これを下手に退魔師とかに頼んじゃうと、こんな風に無傷で連れてくるのは無理だったと思うのよん。て云うか、殺しちゃってたんじゃないかしらん?」
ま、退魔師は殺すのが仕事だからな。
「だが、その点は退魔師しではなく“探魔師”に頼めば解決する話ではないのかい?」
俺の隣にいるメアが、尤もらしいことを云う。
確かに彼女の云う通りだ。
だが……。
そもそもメアの云うところの探魔師とは、退魔師からもじったもので、怪奇の調査や研究なんかをする者(つまり俺みたいなの)のことを指す。
「ノンノン、わかっていないわねん」
チッチッチ、と指を振るオカマッチョ。
実にウザい。
見ればメアも、苦虫を噛み潰したかの様に眉を寄せている。
十歳児になんちゅう表情をさせやがんだよ。
「だって――一流程度の探魔師じゃ、自身が無傷でカース・ド・キャットを捕まえるなんて芸当無理でしょ」
鉄心が残酷なまでに、無表情で告げる。
退魔師と探魔師。
たった一文字違うだけの両者の間には、その実途方もない壁が立ちはだかっているのだ。
退魔師とは、実際に霊能力を行使して怪奇と戦う者のことである。
しかし探魔師の方は、究極的には霊能力を行使出来ない、大学で民俗学の講師をしている者でも含むことが出来てしまう。
退魔師になれなかった様な落ちこぼれの霊能力者が、探魔師になったりもする。
要は退魔師にとって探魔師は、侮蔑の的であり嘲笑すべき存在と云っても過言ではない。
それが格差社会の現実ってもんだ。
俺自身も霊能力ではなくこれまで体験してきたとある特異な経験、その経験を基に積み重ねてきた実績・判断基準とかに依るところが大きい。
故に鉄心の云い分は納得出来るのだが、な~んか素直に受け止められないんだよなぁ。
「何よん、変な顔しちゃって? アタシはただ褒めただけじゃないのよん」
そこなんだよ。
鉄心の元で仕事をこなすようになってから、三年近くが経つがこの程度の仕事で褒められたことなんか一度も無いぞ、俺?
非常に面倒臭い予感がする。
ひしひしとする。
なので――
「さ、話も終わったし、さっさと帰ろうかメア!」
俺はメアの手を握ると、くるりと踵を返して逃走を図った。
「ちょっと、待ってよん!」
が、カース・ド・キャットを捕まえている手とは逆の手が俺の肩へ伸び万力の様に絞めてきた為、逃走は失敗に終わってしまった。
チッ……。
「ホント御影ちゃんの危機管理能力は素晴らしいわよねん――でも、に・が・さ・な・い♪」
「どう云うことだよ……?」
逃げられられそうに無いことを悟った俺は、諦めて鉄心に向き直る。
その際メアを自分の背中に隠しつつ。
メアには、面倒事を押し付けられたくないからな。
「じ・つ・は……、アタシの神社今人手不足なのよん! それで巫女さんのアルバイトを募集してるのん」
鉄心が後ろに聳える石段の先を指差す。
鉄心の格好を見て貰えばわかる――わけないな。
そもそも見ると、吐き気を催すし。
それは兎も角。
この変態、石段の上に建っている神社、葉月神社の神主兼巫女をしているのだ。
尤もこの神社、鉄心が勝手に建てた物で信仰する神も居なければ、勤めているのも鉄心だだ独りだけである。
一応は恋愛成就を掲げているが、男の同性愛限定の為かなりニッチなものとなっている。
その道の方々にとっては、まさにサンクチュアリと云うのだから恐ろしい話である。
で、そんな所で俺達に働けと?
「他を当たってけれ」
俺は素気なく云う。
だってヤダもん。
コイツの知り合いって、何だかんだ難癖付けて俺の尻とか触ろうとしてくるし。
勿論メアにもやらせるわけにはいかない。
情操教育に問題有りだ。
「よく云うわよん。真夜中に連れ出して、怪奇絡みの事件に巻き込ませているクセに――――あぁん、ウソよ! だからお願い! 無言で去って行かないで、御影ちゃ~ん!」
さよなら。
何とか鉄心のホールドから抜け出した俺は、大股でずんずん彼から放れた。
◆◆◆◆◆◆◆
「よかったのかい、鉄心の頼みを無視しても?」
葉月神社から離れ、おぞん荘への帰り道メアが半ば予想通りの質問を投げかけてきた。
だから俺も予め用意していた解答を告げる。
「へぇ、メアはそんなに俺の女装(巫女さん)姿が見たいのか? ふぅ~ん」
「気持ちの悪いことを云わないでくれたまえっ」
「じゃあ、何か? メアは自分が巫女さんのコスプレをしたかったのか?」
――魔女コスだけでは飽き足らず。
との一言は流石の俺も自重した。
メアの魔女服一式には、冗談で触れてはならない強い想いが籠もっているのだから。
「そんなわけもあるか!! 大体キミのことだ、“魔女コスだけでは飽き足らず”とかって思っているのだろうけど、ボクにコスプレの趣味は無いのだよっ!!」
メアといえども女のカンは侮れないなっ!
その後もメアは「今日という今日はキミのボクに対する誤った見識を正してやるのだよ!!」と鼻息荒く「荒くなどないっ!!」荒くなく、唾を飛ばしながら「唾も飛ばしてなどないっ!」――えぇい、一々地の文にツッコミを入れてくんなよ!
「だったら事実無根の状況説明を入れるなっ!」
俺達は互いに罪を擦り付け合いながら、家路を急いだのだった。
ま、予定通り俺はメアの関心を逸らすことに成功したのだった。
メアの関心を逸らしたのには、勿論それなりの理由がある。
なんせ俺達の知り合いには、バイトを探していて尚且つ巫女服が似合いそうな大和撫子(貧乏系)がいるのだ。
彼女に話を振らない手はない。
上手くいけば彼女に恩を売ることが出来るし、何よりオカマッチョじゃない美人の巫女さを見てみたいじゃないか。
などという百パーセント己の欲望からくる企み故に、メアに語るわけにはいかなかった。
でも、仕方ないじゃないか。
宵乃宮:靜《よいのみや:しずか》の、巫女服姿を見てみたいと思うのは当然の反応だと思う。
そして
――神社今人手不足なのよん――
一体どういうことだ?
どうして急に忙しくなる?
確かに今月葉月神社では夏祭りが行われるが、その分の人員やなんかはもう確保しているはず。
そもそも毎年やっている行事なんだ、その辺の抜かりは無いだろう。
というか、根本的に何が忙しくなったのだろう?
……何か嫌な予感がする。
俺の人生経験からいって、こういう時のカンは莫迦にならないものがある。
おそらく鉄心も何かしら引っかかるものが有ったから、一般的なアルバイト募集では無く俺やメアに直接云ってきたと思われる。
仕事として俺に依頼するには、不確定過ぎるしかし見過ごすわけにはいかない、そんなところだろうか。
「放課後、もう一度神社に寄ってみるか」
鉄心から詳しい話を聞く為に。
靜に、バイトの話を伝えても大丈夫かどうかも確かめておかないといけないし、な。
「ん? 何か云ったかい?」
俺の呟きが耳に入ったメアが、こちらを見上げながら小首を傾げる。
一々仕草が可愛いなぁ、もう!
俺はメアが不意に見せる仕草にときめきながら、頭をポンポンと撫でたのだった。
…………安全性の不透明なものに、メアを巻き込むわけにはいかない。
メアの柔らかな髪の感触を楽しみつつ、俺は決意を新たにするのだった。