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時間

作者: 東馬 薫


容赦ない日差しが照りつける。


蝉の声さえも溶けて消えそうな暑さだった。


昭和中期の建てられたであろう建物からは、子供の歓声が響き渡る。


所々錆びた古いピンボール台

すでに時代遅れのゲーム台

トタン屋根の下には両手に駄菓子を抱えた子供達が一喜一憂している。


ある者は、杏アイスを食べ、別の子供はきな粉を口の周りにつけながら笑っている。


入れ替わり立ち代り駄菓子を買い求めそして笑っていた。


店主の老人は子供達に釣銭と駄菓子を手渡しいつも笑顔だった。

店の奥はすぐに居間になっておりそこには老人を見つめる老婦人の姿があった。


二人はいつも一緒にいた。

店を開ける時間は11時と決まっており閉めるのは午後7時。


数多くの子供を見つめ、多くの笑顔と歓声に包まれていた。


ある時年のころは5年生ぐらいの男の子と女の子が毎日夕方通うようになった。

二人は仲良くでも照れくさそうに駄菓子を選んでいた。


男の子は駄菓子を口に咥えながらゲームをし、女の子は駄菓子を食べながらそれを見守っていた。


時より、二人はなにかしら話し、とても楽しそうだった。


老夫婦はその二人がとても愛おしかった。


来る日も来る日も二人は店を訪れ、楽しい時間を過ごしていった。

もちろん老夫婦もそれを見守るのが楽しみになっていた。


それから月日は流れ、その子達は店を訪れなくなった。


老夫婦はすこし寂しかった。


そんなとき老夫婦は二人でゆっくりと流れる時間の中で外の景色を眺めていた。

多くを語る必要は二人の間にはなかった。


お互いの存在が幸せの形であったのだろう。

時よりお茶をすすりながら世間話や店を訪れる子供の話をしていた。



歳月が流れ




トタンの屋根の錆びはいっそう赤い範囲をひろげている。

店を訪れる子供はあの頃に比べると減った。


時より訪れる子供達に相変わらずの笑顔と駄菓子を渡し、年代物の入り口の引き戸が

風によってカタカタとなっていた。




ある秋の夕方



二人の男女が駄菓子屋の立て付けの悪くなった引き戸を開けた。

20代後半であろう二人の男女は店の中をゆっくりと見回し駄菓子を選んでいた。

店主は、なにかのセールスかと思ったが、駄菓子を選ぶ二人の笑顔はどこかで見た事のある

笑顔に見えた。


二人は、時より歓声を上げながら両手一杯の駄菓子を店主の元へ出した。

店主はそろばんを出し、一つ一つ計算をしていく。


値段の計算も昔に比べたら遅くなったと店主は照れくさそうに呟いた。


二人の男女はにこやかな笑みで返した。



計算がおわり袋につめ、二人に手渡すと男性がその駄菓子のうち一つを口に頬張った。


その姿を見ていた女性は男性の口のまわりについたチョコをハンカチでぬぐっていた。

男性は照れくさそうに店主に礼をいい店を二人で出て行った。


店主は二人の笑顔を記憶の中に求めたが、おぼろげにしか思い出せなかった。


ただ、二人の笑顔を見ると自然と落ち着いた気持ちになった事は事実だった。




二人が店を後にし、また店は静寂を取り戻す。



店主は居間に戻り、お茶を啜る。


昔と変わらず人生を一緒に歩いてきた伴侶の方を向いた。


昔と変わらず笑顔を返してくれていた。






ただ、そこに姿はなくあの頃の笑顔のままの写真立てがそこにあった。





店主は照れくさそうに伴侶に笑顔を返した。













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