教室にて。
屋上にて。の、その後です。
「おはよ、沖野さん。」
次の授業の準備をしようと机から教科書を出していた私のもとに、
朝から、こいつは無駄にさわやかな笑顔でやってきた。
「おはよう。何か用?」
「うわ、冷たいな。用がなかったら来ちゃダメ?」
屋上で初めて話して以来、こうしてたびたび違うクラスの私のところまでやって来るようになった彼、佐伯奏多。何度もこうして話しかけられ、友達にはいつ知り合いになったの!と問い詰められ、ほかのクラスの子からは、まさか付き合ってるんじゃないよね?ときつい目で見られた。わが校の王子様!とふざけた呼び名がついているだけあって佐伯君は人気者だった。そんな彼が、妙に私に構うせいで誤解されることが多くなった。彼は、「沖野さんの反応が俺のツボにはまるんだよねー」と訳の分からないことを言っていた。つまり、私をからかって楽しんでいるのだろう。
静かな学校生活を過ごしたい私の周りは、彼と関わるようになってから少し騒がしくなってしまった。
美形な人種の相手は妹だけで十分だ!と心の中で思い、彼に怪訝な顔を向けるが、気にした様子もなく「今日の放課後、図書委員の当番だったよね?遊びに行くから〜」という言葉を残して去って行った。
はぁ〜と思わずため息を漏らしてしまった私に、隣の席の瑞希が「王子と話してそんな顔してるの絵里だけだよ」
とあきれたような顔で話しかけてきた。
「佐伯君が悪いわけじゃないけど、あの人と居ると周りの視線が痛いんだもん」
「まぁしょうがないんじゃない?皆の王子様だし」
王子様って…ここは日本のただの高校ですよ。こんなとこに王子がいてたまるか!
「確かにかっこいいとは思うけど、話してるとただの男の子だよ。(時々笑顔が嘘くさいけど…)」
「あの顔で、成績良し、運動神経良し、おまけにやさしいとなると女の子は夢を見ちゃうんだよ。絵里も、屋上に閉じ込められたとき助けてもらったんでしょ?携帯で人呼んでもらって。ピンチに現れるなんて王子そのものじゃん!私も助けられたーい!」
「感謝はしてるけど…」
してるけど、私は静かに暮らしたいのだ。ただでさえあの妹の姉というだけで、屋上での出来事のように厄介ごとに巻き込まれてしまう。まあ、あの時はもっと妹の元彼をいたわる言葉を選ばなかった私も悪いのかもしれないが。
放課後、図書室で佐伯君にあったら、もうちょっと周りの目を気にしてと言おう。
そんな決心をした私は、今日も真面目に授業を受けるのだった。
屋上にて。だけのつもりでしたが、やっぱり続きを書きたくなり
さっそく書いてしまいました。あと一話で完結しようと思います。