優先順位が変動した結果
「貴方、このままでは我が家は終わりよ」
フラヴィの言葉にベイセルは何を言われたのかわからないとばかりに眉を顰めた。
「知らなかったの。でも知らなかったじゃすまされないの。このままだと我が家は潰されるわ」
「落ち着け、一体何があったというのだ」
「あの子が……いいえ、あれがとんでもない事をしていたの!」
フラヴィの言うあれ、がランベールの事だと理解したもののそれだけだ。
あの子、と言っていたのにそれが次の瞬間にはあれ、に変わっている時点でフラヴィの機嫌が相当悪い事も理解できたが、原因はわからない。
「あれは我が家にいなかった。最初からそうだったって事にならないかしら」
「本当に落ち着け。存在を抹消しろと? あまりにも物騒すぎないか」
「あれのせいで私たちまで潰されるかもしれないのよ!?」
きぃっ、と甲高い声で言うフラヴィに、ベイセルはひとまず温かいお茶を用意するように使用人に告げる。
現状がどうであれ、フラヴィが落ち着いてくれないとロクに話も進まないと感じたからだ。
妻――フラヴィ曰く、最近友人たちの様子がどこかよそよそしいのは感じていたとの事だ。
だが、フラヴィ本人は何かをした心当たりはない。
社交に参加していても、今までは友人たちと和気藹々と話に花を咲かせたりもしていたのに、ここ最近はフラヴィの姿を見るとそそくさと、それとなく他に用があったかのように立ち去られてばかりだった。
ねぇ私何かした? なんて疑問を投げかけるより前に立ち去られてしまうので、もやもやとした感情が残るばかりだ。
手紙を出してみても当たり障りのない返信が来ればいいが、返事すらない事もあった。
その後返信のなかった相手と遭遇した時に聞いてみれば、忙しくて忘れていたと言われ、ごめんなさいねと謝罪はされたが会話は早々に切り上げられ立ち去られる。
どう考えても避けられている。フラヴィとてそれくらい理解はできた。
避けられていても、原因がわからない。
何かをしたとしてもフラヴィには自覚がないので、謝罪をしようにも何に対して謝ればいいのかがわからなかったのだが――
「私の友人たちのほとんどがコーデリア繋がりなのは、話したわよね?」
「あぁ、ゼンネル家には世話になっているからな」
ベイセルも頷いた。
コーデリア・ゼンネルは社交界の華とまで言われているし、そもそもベイセルとフラヴィの結婚だって彼女の紹介と言える。
コーデリアが橋渡しをしてくれなければ、ベイセルの家とフラヴィの家とでは婚約の話すら出なかっただろう。
フラヴィは学生時代、いや、それ以前からあまり友人に恵まれなかった。
引っ込み思案で人見知り。それ故に同年代の友人を作ろうにも上手くいかず王都の学園に通う事になったフラヴィは独りぼっちだった。
そんなフラヴィに手を差し伸べてくれたのが、コーデリアだ。
彼女は多くの友人に囲まれて、フラヴィとは正反対の少女だった。
けれどもコーデリアと共に学園生活を送るようになって、フラヴィも徐々に引っ込み思案も人見知りも改善されて、そうしてコーデリアの紹介でベイセルと出会った。
今のフラヴィがあるのはコーデリアのおかげといってもいい。
コーデリアが助けてくれなければ、フラヴィはきっと今も人間関係を上手く築けず結婚だってマトモにできたかも危うい。親が持ってきた縁談の話であったとしても、きっと向こうから断られたか、断られなかったとして、仮に結婚できたとしても今のように愛する人と幸せな結婚生活が過ごせていたかはわからない。
以前までのフラヴィなら自分の考えだってマトモに口に出せなかった。だからこそ、そういう――お人形のように言いなりになる妻を求めている家であれば引き取ってもらえたかもしれないが、その場合フラヴィが幸せな結婚ができたかは……まぁなかっただろう。
学園を卒業後すぐにベイセルと結婚して、子を授かった。それがランベールだ。
コーデリアもまた学園を卒業後に結婚していたが、しかし子が生まれたのはランベールよりも後だった。
ランベールよりも一つ下の子、ゼンネル家の跡取りであるヴィクトル。その二年後に生まれた、ランベールの三つ下の子、ソニア。
ランベールにもその時弟ができた。それがニコロだ。ソニアと同い年の子。
こどもたちを交えて交流していた時に、コーデリアがランベールのお嫁さんにうちの子なんてどうかしら? なんて言うものだから、フラヴィは名案とばかりに飛びついた。
ソニアはコーデリアによく似た可愛らしい少女で、将来はきっとコーデリアのような素敵なレディになると思えたし、そんな少女が嫁入りしてフラヴィの義理の娘になるのであれば、それはむしろ願ってもない事だったからだ。
ゼンネル家と繋がる事でマドラン家にも益がある。
だからこそベイセルも反対などしなかった。
ベイセル以上にフラヴィの喜びようったらなかったくらいだ。
フラヴィにとって大親友でもあるコーデリアと、子どもたちの婚姻という形でより繋がりを得る事になるのだから。
フラヴィは常々ランベールには婚約者であるソニアを大切にするように言っていたし、ランベールもそこは理解していたはずだ。
流石に婚約者同士の交流に親が出ずっぱりでは気まずいだろうというのも理解できている。
だからこそフラヴィはランベールの上手くいってる、という言葉を信じていた。
信じていたのに……
「全然大丈夫じゃなかった。大丈夫なんかじゃなかったの」
「一体何があったんだ」
「あれはね、婚約者と上手くいってるって言いながら実際何も上手くいってなんてなかったわ」
「上手く関係を築けなかったという事か?」
「いいえ、築くつもりもなかったみたいよ」
「どういう事だ」
互いの相性が悪かった、だとか、考え方の違いで衝突してしまった、だとか。
ベイセルが想像したのはそういうものだが、しかしフラヴィは嗤う。そのじっとりとしてどこか嘲笑めいたものに、ベイセルは、
「ランベールは一体何をしでかしたんだ」
そう聞くしかなかった。
「イボンヌ」
「ん? 彼女がどうかしたのか?」
フラヴィの口から突然出てきたその名前は、ベイセルにとっても知っている名だ。
ベイセルの従兄のところの娘。少しばかり身体が弱くて、あまり外には出てこない娘だ。
学園にはかろうじて通っていたようだが、度々授業を休む事になる、と聞いたおぼえがある。
「あれはね、ことあるごとにイボンヌのお見舞いだの、心配だからだのと言って婚約者とロクに交流なんてしていなかったの!」
「なっ……んだって……!?」
「嘘じゃないわ」
フラヴィが嘘を吐いているとは思っていない。
だが、ランベールが本当にそんな事を? という思いもあった。
「そのせいでうちは大変な事になってるのよ。婚約の話はなかった事にした方がいいとまで言われてるわ」
「だがその話はまだ家に持ち込まれては」
「時間の問題よ!」
ベイセルの言葉を遮るようにフラヴィが叫ぶ。
「あぁもう、そうなったらおしまいだわ。あれは何を敵に回しているかもわかってないのよ。
ソニアに対して不快感を持たせただけじゃない。コーデリアだっていい顔をしないし、それどころか。
婚約が本当になかった事になって、そうなったらどうなると思うの。
婚約が消えた件をコーデリアは周囲に説明するでしょうし、そうなればコーデリア以外の友人たちだってコーデリアの側につく。
友人の娘を蔑ろにした、なんて言われて、そうしたら本当の意味で私は友人たちから排斥される。
学生時代に散々助けてもらっておいて恩を仇で返した、なんて言われて……友を失うだけじゃない。その友だった相手が全部敵に回るのよ!?」
フラヴィだって自分がそちら側の立場であったなら、間違いなく敵に回る。
もしコーデリアに良くしてもらっておきながら、しかも婚約と言う家同士の繋がりを得る事ができたくせにコーデリアの子に対して粗雑な扱いをしていた、なんて聞かされたら。
恩知らずと罵るだけで済むはずもない。
そんな相手がコーデリアの優しさを消費していたとなれば、徹底的に追い詰めて二度と人前に出られないようにしてやろうとさえ思っているのだ。
その徹底的に追い詰めてやろうと思った相手がまさか自分になるだなんて、夢にも思っていなかったけれど。
フラヴィであればそのような愚かな真似など決してしなかった。
まさか実の子どもがやらかすとも。
最近友人たちに距離を取られているというのは薄々感じていた。いたけれど心当たりなんてなかった。
だから何かの間違いか、たまたま機嫌が悪くて関わらないようにしようとしているとか、そういう風に考えていたのに。
ランベールがソニアを蔑ろにしていた事実が広まって、それでこうなってしまったなんて気付けなかったのだ。
ランベールがもっとあからさまに両親に反抗するような子どもであったのなら、フラヴィももう少し目を光らせていたかもしれない。
けれども婚約者同士の交流として会う日にでかけていって、遅くなる前には帰ってきていたから。
ソニアとの間に何かあって機嫌が悪そうな状態で帰ってきたというわけでもなかったし、根掘り葉掘りソニアと何をしていたかを聞くのは野暮だとわかっていたからこそ、婚約者との事を聞かれた時の「問題ありません」「良好です」といった答えを信じていたのに。
しかし実際はそれすらも嘘だった。
「出かけてすぐにイボンヌの事が心配だからなんて言って早々に立ち去って、あれはイボンヌの所に入り浸っていたのよ」
「それが本当ならどうしようもないが……その、それは真実なのか?」
「真実に決まってるじゃない! 手紙だってロクに書いてなかったって聞かされて、私どういう顔をすればいいのかわからなかったのよ!?
折角丁度いい年齢になってから結んだ婚約なのに、その最初の方からあれはイボンヌばかりを気にかけていたんだから!」
関係を壊すも何も、築く以前の話だから娘はなんとも思っていないのよ。
でも、ね? このまま婚約を続けたところでそちらばかりが得をするだけ、というのも……ねぇ?
うちは搾取されるだけを良しとするような家じゃないの。
フラヴィの脳裏に久々に会えたコーデリアの言葉がよぎる。ゼンネル家の人脈から得られる恩恵。マドラン家にとってその利は大きい。ベイセルやフラヴィだけでは築き上げる事ができないだろう繋がりが確かにあるのだから。
「……わかった。まずはランベールに確認を取ってみる」
「そんな悠長な!」
「だが相手の言い分も聞かねばならない。それがどれだけ愚かな言い分であったとしても」
既にフラヴィの中ではランベールの事など実子というのも口に出したくないくらいだが、夫であるベイセルの言葉にも一理はある。
「お任せするわ。でも私は遠慮しておくわね。穏便に済ませられる気がしないもの」
今この場にランベールはいないが、それでもフラヴィの中では怒りが渦巻いて嵐のようになっているというのに、本人を目の前にしたら罵倒するだけでは収まらずこちらの手が痛くなるまで叩いてしまうかもしれない。
ランベールの言葉に耳を傾けるのも難しいだろう。
それがわかっているからこそ、事情聴取は夫に任せる事にした。
出かけていた息子が帰ってきて本当ならすぐさま事情を聞いてほしいくらいだったが、その前に夕食を済ませる事となった。
フラヴィはこんな状態で夫と息子たちの顔を見ながら食事をするなど無理だと判断して、夕食は部屋に運んでもらう事にした。
今頃食堂で、夫と息子たちはどうしているだろうか。
和気藹々と……は想像できないので、恐らくは静かに食事を済ませているのかもしれない。
食事をしながら事情を聞くような事はしないだろう。
醜聞になるかもしれない可能性が高い話題だ。使用人が近くに控えているとはいえ、それでも耳にする人数は少ない方がいい。であれば、給仕がそれなりにいる場で聞く事はないはずで。
食事の後に恐らくは……と考えたところで、フラヴィの気が休まるわけでもない。
だってもし。
もしこの先二人の婚約がなかった事になってしまったら。
その原因はどう考えてもランベールにあるのだ。
コーデリアが仮に「今回は残念だったわね。相性が良くなかったのかも」なんて軽い感じで言ったところで、フラヴィとて今までのようにコーデリアに接するのは躊躇う。
もしコーデリアが気にしていなくて、これからも貴方の事は友人と思っているわ、なんて言ってくれたとしても、無邪気に喜ぶような年齢なんて生憎フラヴィはとうの昔に過ぎているのだ。
どう考えてもゼンネル家との距離を少しずつ置くしかないだろうし、そうなればコーデリア経由で知り合った友人たちとの距離も徐々に離れていくだろう。
それ以外の新たな友人を作るにしたって、ランベールとソニアの婚約が駄目になった話が確実に足を引っ張る。
あぁ、貴方あの集まりから排除されたの。それで今度はこっちに擦り寄ろうと? なんて言葉が直接放たれるとは思いたくもないが、明らかにそういう目を向けられるのは間違いない。
フラヴィの心臓に毛でも生えていて厚顔無恥にもコーデリアと今までと同じように関わる、という事ができたとしてもだ。
その場合コーデリアの友人たち――フラヴィの友人たちでもあるのだが――の反感を買う。
あんなことがあったのに……なんて陰でコソコソ言われて、コーデリアにはわからないようこっそりひっそりフラヴィへの態度が変わっていくに違いないのだ。
フラヴィがそれを気にしない図太い神経の持ち主であれば何も困らないが、残念ながらフラヴィはそのような図太さを持ち合わせてはいなかった。
表向き平気な振りをしてコーデリアと関わり続けたところで、周囲の友人たちの声は心に深く突き刺さる。
そうなれば遅かれ早かれフラヴィの心はズタズタに傷ついて壊れるだろう。
となるとやはりコーデリアと距離を少しずつとっていくしかなくなるが、そうなるとフラヴィの友人関係は全滅。新たな友人関係を築くにしても――とここで考えが同じところをぐるぐる巡っている事に気付いて、フラヴィは無理矢理その考えを振り払った。
幼い頃は友人を上手く作れない事が悩みの種だった。
コーデリアと出会った事で友人たちが多くできた。
だが、その友人たちを失ったとして。
果たして新たな友人ができるのか。人脈を築けるのか。
もしかしたら自分は昔から変わっていなくて、友人を作ろうにも作れないままなのではないか。
コーデリアの助けもあったから今は多くの友人がいるけれど、コーデリアと離れたら他の友人たちも間違いなく縁が切れるだろう。
それは既に、ランベールがソニアと婚約者としてマトモに関わっていないところから証明されてしまっている。
部屋に運んでもらった夕食を憂鬱な気持ちのまま食べ進めるも、食欲なんてほとんどなかった。
今後の事を考えるだけで胸が重苦しい。
今日のメニューはフラヴィの好きな物が多く出ていたにも関わらず、これっぽっちも味を感じられなかった。
――結果として。
ソニア・ゼンネルとの婚約の話は消えなかった。
ただその相手がランベールからニコロへと変更にはなったけれど。
コーデリアもソニアもそれで良い、となったからというのもある。
ランベールは跡継ぎの立場を追われる形となった。
なんでもベイセルが確認をしたところ、ランベールはこの婚約をとても軽く考えていた様子だったのだ。
どうせ最終的に結婚をするのなら、今は好きなようにさせてくれたっていいだろう。
そんな風に考えて、イボンヌを優先し続けていた。
ソニアはコーデリアに似て闊達とした印象のある少女だ。
少し勝気に見える部分もある。
フラヴィからするとそれはとても頼もしく思える部分であったのだが、ランベールには生意気そうという風にしか見えなかったのだとか。
ロクに関わりもしないくせに、あいつはきっとこうなんだと決めつけてその思い込みが本当なのだと信じて接する事すらしなかったランベールは、後継者として不適格とベイセルも判断したようだ。
まぁそうだろう。
人間である以上思い込みをしてしまう事はあっても、それが真実だと思ったまま突っ走るようでは困る。
その思い込みが事実であるのかどうか、自分できちんと確認をした上でそうだったならまだしも、思い込んだところで思考停止していたのだ。
そんな風に他の家々とも関わってやらかされたらあっという間に家が潰れるかもしれない。
そんな相手を次の当主にはできない。
ニコロとソニアは同い年なので、婚約の変更をするにしても大きな問題はなかった。
ニコロは次の当主の座が転がり込んできて少しばかり驚きはしたようだが、ソニアが婚約者だと聞いて嬉しそうにしていたので、こちらは上手くいくだろう。
互いに苦楽を乗り越えて行けそうで何よりである。
ではランベールはどうなったかと言うと。
婚約者を蔑ろにしてまでイボンヌを優先していたのなら、彼女の傍に好きなだけいればいい。
それがベイセルの下した決断である。
イボンヌは健康とは言い難い少女だ。
だからこそランベールの庇護欲をそそったのかもしれない。
けれどもそれを理由に婚約者であったソニアを放置していい理由になどなるはずがない。
跡取りの座から降ろされたランベールはイボンヌの夫として婿入り――などできるはずもなく。
そもそもイボンヌは身体が弱く結婚したところで子を産めるかもわからないのだ。
彼女が後継者として家を継ぐなんて事にはなり得ないし、いずれは療養のため保養地などで過ごす事も考えられていた。
ランベールはそんなイボンヌの身の回りの世話をする事となった。
婚約者を放置してまで足しげく通っていたのだ。
これからは好きなだけ彼女の面倒を見ればいい。
一応家から完全に除籍されたわけではないけれど、次に何かやらかせば即座に除籍され平民となる。
現状ギリギリ貴族であるけれど、その肩書はほとんど何の役にも立たないだろう。
イボンヌ付きの従者として、今後の人生を捧げる事でベイセルは手打ちとしたのである。
イボンヌがランベールの事をどう思っているかは知らない。
ランベールが傍にいる事を良しとするのならそのまま。そうでないのなら、ランベールには他の仕事場を与えて去ってもらう形となる。
何故ならイボンヌはランベールに婚約者ができていた事すら知らなかったし、そもそも婚約者と会う日に足を運んできていた事すら知らなかったのだ。
いずれ知った時に彼女がランベールを疎むようなら、その時は引き離すしかない。
ベイセルから今後について聞かされたフラヴィは、ようやくそこで安堵したのだ。
このままランベールを置いておけば、コーデリアの友人たちにしてフラヴィの友人たちがマドラン家に何かしら仕掛けてきただろうから。
ランベールにかけていた教育の数々が無駄になったという事実にフラヴィは嘆きたい気持ちだったが、それでも最悪の結果は回避できた。
なんたってコーデリアの人脈はフラヴィなど足元にも及ばないのだ。彼女が不快に思っていなくても、周囲が勝手にコーデリアのために、という考えで行動に移るかもしれなかったのだ。婚約の話が駄目になっていたなら間違いなくそうなっていた。
もしそうなっていたのなら、マドラン家などあっという間に没落まっしぐらだったと断言できる。
安堵の息が自然と漏れたが、しかし同時にフラヴィは気を引き締めた。
これで何もかもが終わったわけではない。
ニコロとソニアはきっと良好な関係を築く事ができるだろう。
だが、それで何もかもが帳消しになったと考えるのはあまりにも早計だ。
ランベールによって落とされた信頼が完全に回復したわけではないのだから。
とはいえそれに関してはそこまで問題にならないとフラヴィは思っている。
だって大切な親友の娘なのだ。嫁いできてくれるのなら、大事に扱わなければならない。
いくらほとんど関わらなかったといっても、それでもランベールの影がちらつくような事にならないように。
フラヴィにとってもランベールがいたという痕跡を感じ取りたいわけではない。
「そうね、まずはお部屋の模様替えかしら……新しくしてしまえば、思い出を感じるような事もないでしょう」
名案だとばかりに呟いて。
そうしてフラヴィは使用人たちを呼び集めたのであった。
元々なかっただろうけどこの一件で確実に嫁いびりは起こらない。
次回短編予告
娘が死んだ。手を下したのは娘の母だった。
そしてそれを男は見ているだけしかできなかった。もし男が動いていたなら、間違いなく自身も命を落としていただろうから。
次回 罪の形
親子は似るというけれど、こんなところは似ないでほしかった。




