第三話 「黒焔は消えない」
魔族側です
闇の奥で、黒焔が燻っている。
バルゼリオン・ドラク=モルガは、まだ死んでいなかった。
半身が焼け落ちている。
右角は折れ、左翼は炭のように崩れかけている。
黒焔の侯爵と呼ばれた魔族の姿は、もはや原形を留めていない。
だが心臓は鼓動していた。
ゆっくりと。
執念のように。
「……融合」
喉の奥から血を吐きながら呟く。
あの瞬間。
六色が混ざった。
理が軋んだ。
それは破壊ではない。
回帰。
「やはり“核”は生きていたか……」
周囲の闇が蠢く。
下位魔族たちが距離を保って跪いている。
「侯爵閣下、撤退は成功いたしました」
「王都へ移送中との情報」
バルゼリオンは嗤う。
割れた口元から黒い煙が漏れる。
「人間は愚かだ」
災厄指定。
管理。
監視。
封じれば封じるほど、核は圧縮される。
圧縮された力は、いずれ爆ぜる。
「王家はまだ知らぬ」
あの少年の融合は“暴走”ではない。
未完成な正統。
かつて魔族と人間が同じ理を共有していた時代。
属性は分断されていなかった。
混ざるのが自然だった。
それを分けたのは王家だ。
「均衡を偽った者たちめ」
バルゼリオンは思い出す。
古い契約。
裏切り。
分離。
六色の力は、本来ひとつ。
それを裂いたのが王族の祖。
少年は裂け目。
世界の縫い目。
だからこそ“歪みの核”。
「回収する」
低く宣言する。
殺すのではない。
奪うのでもない。
覚醒させる。
あの劣等感は鍵だ。
自分を低いと信じている限り、融合は不完全。
だが受け入れれば。
理は崩れる。
黒焔が揺らぐ。
傷がゆっくりと再生していく。
遅い。
だが確実に。
「王都へ向かう」
下位魔族が震える。
「今の御身では危険です」
バルゼリオンは笑う。
「危険なのは、あの少年だ」
視線を上げる。
遠く王都の方向。
地下深く、封じられた六色が脈打っているのを感じる。
あの夜。
爆ぜた瞬間。
一瞬だけ見えた。
光でも闇でもない、透明な色。
融合の先。
「アレン・ルシアス・ヴァルディス」
名前を覚えた。
「お前はまだ、自分を知らぬ」
黒焔が静かに燃える。
魔族は敵ではない。
少なくとも、彼にとっては。
王家こそが。




