レポートを読もうと思った
蒼は決意した。必ずや転移能力を我がものとし、カッコいい転移能力者系美少女冒険者になってみせると。そして友達100人作ってみせると。
転移能力を我がものとするためには、研究機関のレポートから転移能力のイロハを導き出さねばならない。
蒼は難しい顔をしてノートパソコンの電源をつける。
机の上にはコップ一杯の茶色い液体を用意した。『コ』からはじまる茶色いアレである。猫のイラストが描かれたマグカップに入っている。
パソコンが開いたらURLをクリック。
画面に研究レポートが表示される。タイトルは『転移能力発動時の空間判定に関する観察報告』。役に立ちそうだ。
レポートの内容が難しくて眉間に皺がよる。
最初の数行でつまづいてしまった。
ノートとペンを机に置き、天井を見上げる。
名詞も分からないし動詞も分からない。
困ったときはコピペしてAIさんにぶん投げる。
『転移を使うときの発動できるかどうかの判断や、転移先の空間――』
AIさんの要約を読んでいると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
回数は2回。弟の翠である。
「なんか届いてたよ」
翠が持ってきたのは小さな段ボール箱。
何かネットで買ったっけ?
箱を開けると、中から出てきたのはスマホのガラスフィルム。そういえば昨日ポチッたわ。
ダンジョンで転んでスマホを割ったが、家に帰って確かめたら割れていたのはガラスフィルムだけだった。だから自分でフィルムを付け替えるべく、ネットショッピングでポチッたのだ。
スマホのガラスフィルムを付け替えるという一仕事を終えた蒼は、マグカップに入った飲み物を口に含み、味わう。
窓から差し込む四月のぽかぽか陽気。
時刻は1時半。お昼ごはんを食べてお腹いっぱいのところに、おやすみ日光ビームを受ける。さらに口に含んだ飲み物が血糖値を上げ、蒼を夢の世界に誘う。
§
蒼はカッコいいポーズを構え、転移する。
転移先は自由自在。前に後ろに、横に上に。
ゴブリンを見つけて、転移で近づく。
急に近づいて来た蒼に驚いたゴブリン。そいつの死角に即座に転移。そのまま『忍・殺』。
そして決めポーズ。ゴブリンから吹き出した血液は、戦隊モノの爆発のように蒼のカッコいいポーズを彩る。
ゴブリンを倒すと、地面にゴゴゴッと階段が現れ、その先にはボスが居る。
転移でボスを翻弄し、ノーダメで倒す。
ボスを倒したらなんかいっぱいドロップした!
組合の買取所で買い取ってもらったら10億兆円で売れた。
買取所のおっちゃんには驚かれて「また、なんかやっちゃいました?(初回)」をすることができたし、受付の綺麗なお姉さんには褒められた。あと友達もできた。100人くらい。
ずっと買い食いがしてみたかったので、アイテムを売って儲けたお金で買ってみた。コンビニでホットスナックを買う。両手いっぱい。
こんなにあっても食べれないので、周りの友達に配る。そのうち手渡しするのが面倒くさくなって、花咲かじいさんのようにばら撒きながら帰宅する。
家には弟の翠がいたので、口にホットスナックを突っ込んであげると感涙の涙を流す。
「ありがとう姉さん。いや、姉様。俺感動したよ。姉様はとても立派な人間だったんだね」
弟と周りの友達からの尊敬を一身に集め、満足しながら自室に戻る。
しばらくすると、弟が「夜ご飯だよ、姉様」と呼びに来る。
§
「――ご飯だ――」
ハッ!
気がついたら、周りにいたはずの友達100人がいない! そもそも部屋に入らない。
ボスを倒して手に入れた10億兆円がない! そもそもそんな単位はない。
「夜ご飯だよッ、姉さん」
部屋の外で弟が呼んでいる。
弟の呼び声により、夢の世界から現実世界へ引き戻された蒼は時計を見る。
現在時刻は20時ちょうど。夜ご飯の時間だ。
ノートパソコンに目を移すと、どうやらスリープモードになっている。適当なキーを押してあげれば、難しいレポートの要約を終えたAIさんがこんにちは。
一体このAIさんは何時間放置されていたんだろうか。心なしか、要約終わりの句点が「呆れてものも言ない」と言ってるように見える。
弟にすぐ行くと返事をして、パソコンに向き直る。
AIさんの要約には目を通さずに、シャットダウン。
仕事の成果を数時間放置された挙句、見られもしないAIさんの気持ちやいかに。
蒼は再び時計を見て、ため息をつく。
今日やった事といえば、スマホのフィルムを付け替えたくらい。
なんと虚しい一日か。
少し残ったコーラを飲んで、ドアを開けて部屋から出た。




