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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
新人冒険者ひっそりと爆誕

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1mm

 1mm。

 1mmから始めようと思う。


 前に転移能力を使ってみようとした時、一気に10mくらいの転移をイメージしていた。転移能力が発動しなかったのはそのせいじゃないか。

 家に帰って、ネットでスキルが発動しなかった理由を調べていて思った。


 どうやら、スキルは使い慣れるにつれて自由度が上がる。能力の威力や範囲も思いのままに。


 冒険者組合が公開しているスキルの詳細は、ある程度使い慣れた状態のものなんじゃなかろうか。そう考えて、ガチガチのガチの研究機関の実験レポートを見ることにした。

 非常に優秀な睡眠導入剤だったので、諦めて普通にネットで調べてみる。


 珍しいからか転移能力の情報は転がっていなかったが、他の能力では、最初に能力を使う時はスキルの効果に個人差があるらしい。

 例えば、最もポピュラーなスキルのひとつ、『火属性』。攻撃に火の属性を付与したりできるシンプルなスキルだけれど、最初に使う時の効果は人によって大きく異なる。

 手がほんのりと温かくなるだけなこともあれば、手から炎がでることもある。しかし使い慣れればみんな同じように使いこなせる。


 そして何より、スキルで出来る範囲を大きく逸脱している場合は、そもそもスキルが発動しない。

 本来手を温めるくらいしかできない人が手から炎を出そうとしても火属性は発動しない。つまり、本来数センチしか転移できない人が10m転移しようとしても転移能力は発動しない。


 だから1mmから始める。

 そして少しづつ距離を伸ばしていく。目指せ10m。

 最初は10mでも短いかなと思っていたけれど、よく考えたら数mだろうと転移ができるのは絶対強い! あとカッコいい!



 前回転移の練習に使おうとした、開けた空間で転移に挑戦してみる。


「いざ! て~ん~い~!!」


 ふたたび行われる、へっぴり腰での格好良さそうなポーズ(笑)での転移宣言。目的は体を1mm移動させること。


「!?」


 何かに見られたような気配を感じてキョロキョロとあたりを見渡すが、周りには誰もいない。

 今の感覚は――そう、近所のおばちゃんが飴ちゃんの獲物を探すときのあの視線のようだった。捉えられた獲物は飴ちゃんを握らされ、さらに大根とかの野菜まで手渡されちゃうぞッ!


 転移が発動した感じはしない。


 カバンからポケットティッシュを出し、足の下にティッシュを敷く。つま先とティッシュの端が重なるように踏んでおく。

 たとえ1mmだとしても流石に転移したら気付くとは思うが、転移を発動したあとに足元を見て、つま先がティッシュからはみ出していたら転移が発動したという証拠になる。


 天才的な確認方法を思いついた蒼は、手を組んでうんうんと何度も頷く。将来は研究者になれるかもしれんね。

 何度も頷いたせいですでに足元のティッシュがズレていることには気付いていないようだ。


 もう一度やってみる1mm転移。

 足元を見て、転移する前にすでにティッシュがズレているのに気付く蒼。

 ティッシュを直し、本日二度目の挑戦。 面倒くさくなったのでもう掛け声は出さない。



 転移したようには感じなかったし、足元のティッシュもズレていない様子から発動していないと考えて良さそう。

 また転移は発動しなかった。

 それに加えて、また見られた感じがした。頭のてっぺんから足の先までじっくり観察されたような感覚。さっきよりも正確に見られている感覚を感じ取ることができた。見られてはいるが嫌な感じではない。


 ひとつの可能性を思いついてもう一度転移をしてみる。

 今度は1mmじゃない。10mだ。


 やってみても、何も起きない。

 当然、発動しないことは元から承知の上。

 10mの転移と1mmの転移の大きな違いは見られている感覚があるかどうか。

 10mだと見られている感覚がないが、1mmだと見られている感覚がある。これは転移ができるかどうかの判定なんじゃないだろうか。

 そもそも転移のできる距離を超えている10mでは転移が行えるかどうかの判定が発生せず、1mmは転移できる距離だから判定が発生している。私はそう考える。


 蒼は頭がこんがらがってきたので、カバンの中からスマホを出してメモ帳アプリを開く。

 分かりやすくメモするためになんか例でも出したいなと思いながらメモを書く。


『10m→判定しない/1mm→判定する』


 天才的な例を思いついちゃったぜ、という顔をしてさらにメモメモ。


『転移しようとしているのを「飛行機に乗って南国に行きたいな」と考えている状態だとする。10mの場合は海辺から南国の方を向いて「行きたいな」と言ってるだけ。1mmの場合は空港に行ってそこから南国に向かおうとしている』


 筆が乗ったのでさらにメモメモ。


『判定は保安検査みたいなもの。海を見ているだけの人は保安検査を受けないけど、南国には行けない。空港にいる人は保安検査という判定を受ける。1mmの転移に失敗したのは、保安検査で引っかかたようなもの』


 メモを書いて、研究者っぽい気分になった蒼は満足して帰ることにした。

 見られている感覚が転移できるかどうかの判定であるという仮説が正しいかどうかは分からないが、正しかった場合は判定をクリアしないと転移が使えない。

 どういう状態で転移ができるのかとかは、研究機関のレポートとかにいっぱい例がありそうなので、今日のところは帰宅する。


 ダンジョンから帰る前にもう一度だけ転移を使ってみようと思い、発動!

 何も起きない! 見られている感覚はある!

 仮説が正しいかもしれないという予感に、ンフフと満足げな蒼。

 ンフフと妖しく笑いながらも、出口に向かって歩き出す。


 ンフフと笑っていたせいでつまづく蒼。とっさに両手をつく体。

 左手に持っていたスマホは画面から地面に叩きつけられる。岩のような質感の床に叩きつけられたスマホ。

 スマホの画面にクリティカルヒット。画面に2000のダメージ。


 画面は割れた。

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