閑話:クールビューティー飯島の悩み
飯島は桜元町にある冒険者組合支部の受付嬢だ。
冒険者組合の建物はダンジョンの入口を囲うように建てられる。もちろん、桜元町支部の建物の中にもダンジョンがある。
ゴブリンばかり出てくるゴブリンダンジョンである。
ダンジョンは探索する人間の数が増えるほどに成長して大きくなる。逆に人が来なければどんどん規模を縮小させる。
ゴブリンは魔石が小さく、高価なアイテムを落とさないため、ゴブリンダンジョンにはあまり人が来ない。
しかし、一部の層に売れるゴブリンのドロップアイテムは、高額ではないもののそれなりの価格で取引はされる。そのため完全に過疎という訳では無い。
そんな大きくも小さくもないダンジョンの受付は飯島を含めて三名。
ダンジョンの中では少ないほうだが、ゴブリンダンジョンには十分な人数であった。
はじめましての冒険者がやってくると、受付の職員の誰かしらが担当になる。担当になると、その冒険者がやってきた時は必ずその職員が相手をする。
休みの日は他の人が臨時で担当する。
過去、担当職員というルールがなかった時に、美男美女の受付だけ仕事量が多いという問題が発生してしまったためだ。
飯島は組合というものが発足した当初から受付嬢として働いていた。仕事量が多い側の職員であった。
元々は組合の本部で受付嬢をしていたが、増え続ける仕事量が嫌になって、新しく発生したダンジョンの支部に転勤を願い出た。その支部がここ桜元支部である。
あまり人が来ないから仕事が楽なのは良いけれど、楽すぎて暇なのよね。そう思っていたとき、その少女は現れた。
ほとんど喋らず、基本笑顔。物音立てずに動く、まるで幽霊のような少女だった。
関係ないが、飯島はホラーが苦手である。邦画洋画に限らずホラー映画は見ないし、小説、漫画、ゲームも無理。
あるとき友人に騙されて一見そうは見えないホラー映画を見せられたとき、大声で泣きわめいてしまった。DVDをレンタルしての映画鑑賞だったが、映画館でも人目を憚らず泣きわめいたであろう。
飯島嘉代子、23歳の夏のことである。
一切覚悟しないで見たその映画は、飯島にとってトラウマになっている。ハートフルストーリーに見えるジャケットと、それを分かっていて持ってきた友人が悪い。
関係のないことだが、トラウマとなっている映画では、ずっと静かに笑顔で佇んでいる少女が出てくる。
ハートフルストーリーだと思っていた飯島は、「わあ、お人形さんみたいに可愛い女の子」とか考えていた。
そして全く関係ないが、その少女が実は幽霊で、気付いたらいつも後ろにいて、最後に主人公たちを殺すのだ。笑顔で。しかも幽霊なのに物理攻撃。めっちゃ痛そうだった。
返り血で真っ赤に染まった少女はその笑顔のまま、グルンと首を回してカメラの方へ、音を立てずに近づいてくる。そこから先の記憶はない。
本当に関係ないことなのだが、飯島が新しく担当になった蒼という少女は、気付くと側にいるし、常時笑顔だし、ほとんど喋らない。
冒険者の中では珍しくない変人だが、冒険者の中では珍しいタイプの変人だった。
怖いとかではないが、担当を代わってもらおうかとも考えた。
しかし、飯島には今までこの場所で積み上げてきた実績がある。仕事のできるクールビューティーという飯島のイメージは、本部で働いていたときからサボらず真面目にやってきたからあるのだ。
飯島は若干の苦手意識を持ちつつも「まあよく見ればただの可愛い女の子だし、大丈夫か」と考えた。
マジのガチで怖いとかではなかったが、ゴブリンの返り血で真っ赤に染まった蒼が音もなく目の前に現れた時、飯島は恥も外聞もなく泣き叫んだ。
飯島は苦手意識を持ち、「音を立てないで動くのやめてくれないかな」と思っている。




