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ダンジョン時代と人見知り  作者: 酉名酉丁
新人冒険者ひっそりと爆誕

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2/7

冒険者デビュー

 冒険者組合での大奮闘から2日。

 蒼の中に燻った寝ても冷めない興奮は、2日も経ってきたことろでだいぶ落ち着いていた。

 消えていない、しかし消えそう。そんな興奮の炎に薪をくべるべく、お気に入りのラノベの新作を読む。ファンタジーの炎はファンタジーで燃やすのだ。


 読む作品は『異世界に転生してはじめましての土地だけど、なんか気づいたらみんなと友達になれて幸せな異世界生活を過ごしてます~勇者も魔王もみんな友達~』。web小説投稿サイト『小説家は寝ろ』に投稿され、最近書籍化された話題作だ。



 弟がリビングに降りてきて、ソファでゴロゴロしている姉を見咎めるが、気にしない。


 そんなことよりもラノベの方が大事。今回の友達候補は狂気のマッドサイエンティスト。夜な夜な人をさらって人体実験しているやつだ。友達になろうとか正気の沙汰ではない。


 ポテチを貪りつつ、ページを1枚1枚めくっていく。


「ポテチを食いながらソファで寝るな!」


 そんな弟の声で活字から目線を上げる。昨日も一昨日も一昨昨日も同じことを言われた気がする。


 せっかくいいところなのに。

 今、ヒロインが攫われて人体実験を受け、腕が4本になったところなのだ。いったい作者はどうやって主人公とマッドサイエンティストを友だちにするのか。お手並み拝見である。


 目線をラノベに戻した姉に、弟は堪忍袋の尾が切れたらしい。掃除機でソファに落ちたポテチの破片と共に服を吸い始めた。ただの嫌がらせである。


 「こいつはいけねえ」と、ラノベとポテチを持って自室に避難。

 しっかり者の良い弟だが、お姉ちゃんの扱いが悪いのが玉に瑕か。



 §



 主人公がマッドサイエンティストと仲良くなり、一緒になってヒロインの腕を増やしていた頃。

 弟が部屋をノックした。回数は2回。わざとである。


 弟の翠が持ってきてくれたのは、冒険者組合からの封筒だった。

 右手に封筒、左手にポテチとコーラ。お姉ちゃんの合否結果を肴に楽しむ気満々である。


 この封筒の中身で合否が決まるのか。

 蒼は唾を飲み込む。

 翠はコーラを飲む。


 えーいままよっ。

 蒼はベリベリと封筒を開ける。

 翠はバリバリとポテチの袋を開ける。


 微妙に緊張感がない室内。そんな中現れた「合格」と書かれた紙。


「これで私は冒険者だ!」


 胸の内から喜びが溢れる。

 蒼はドヤ顔でガッツポーズ。

 翠は真顔でグーパン。

 蒼の鳩尾にクリティカルヒット。2000のダメージ。


 蒼のドヤ顔は結構うざい。

 翠が反射的に殴ってしまう程には。


 うずくまる蒼、「つい、やっちまった」という顔の翠。流石に翠も姉を心配する。

 こんな感じだけど二人は仲が良い。



 その日の夕食。

 両親に合格通知をドヤ顔で見せる。

 天然気味のお母さんは「あらあら」とお祝いの姿勢。対して、もともと反対していたお父さんは渋々という様子で、それでも頑張りを褒めるように頭を撫でる。


 お祝いのために夕食が少しだけ豪華になった。デザートにイチゴが追加されたのだ。

 自身の好物が追加されて蒼は満面の笑み。翠もイチゴが大好きなので満面の笑み。

 母は好物のイチゴに笑顔。父も渋い顔を緩めてイチゴに笑顔。

 みんなイチゴが大好き。なんなら週3で食べている。お祝いとは。



 §



 次の日、蒼は冒険者組合桜元支部に訪れていた。桜元町は蒼の住んでいる町で、この支部は冒険者登録をしに来た場所だ。家から支部まで徒歩10分。


 蒼はここに冒険者免許を受け取りに来た。免許を提示することでダンジョンに入れるようになる。蒼はIC定期券のように使うのだと理解した。


 美人な受付嬢から薄灰色の免許証を手渡される。

 同じ失敗は二度もしない。今回はちゃんと説明を聞いた。


 冒険者免許を手に入れ、冒険者となった蒼。


 免許を手に入れたらやることは1つ。ダンジョンに挑戦。

 入場ゲートのようなところで免許をかざすと、ピッという音がしてゲートが開く。この先はもうダンジョンだ。


 ゲートを通ってすぐに、鞄からナイフを取り出し構える。

 ダンジョン内は弱肉強食、油断すれば死ぬ。脳内のベテラン冒険者蒼がそう助言する。

 脳内ではシュバッ、実際はモタモタ。鞄の中で充電器のコードが絡まっていた。

 ダンジョン2回目の蒼は、どちらかというと食べられる方がお似合いかもしれない。



 ダンジョンという異空間ができてから、日本では銃刀法が緩められた。持ち歩かない人が大半だが、街中で10人に声をかければ1人くらいは何かしらの武器を持っている。

 人気なのは刀。今や日本のどの家庭にも一本は日本刀があるという統計も出ている。世はまさに日本刀ブーム。まともに扱うことができる人は一体どれだけいるのだろうか。

 蒼も「日本刀カッケー!」と思ったが、扱う技術もなければ、振り回すだけの力もないので諦めた。



 ダンジョンの中は薄暗くて、しかしなんの問題もなく周囲を見渡すことができる。

 既に人間の常識が通用する場所ではなく、無から生物が生まれる。それがモンスター。


 モンスターを倒すと人知を超えた力が手に入る。原理は分かっていない。

 ゲームっぽくスキルと呼ばれているその力は、人類の科学力をぶっちぎりで超越した。

 火を出したり水を出したり、物理現象を無視したり。


 蒼も試験の時にゴブリンを倒し、とあるスキルを手に入れた。

 世界で十数人しか持っていない珍しい能力。そのスキルの名前は『転移』。自身とその周りのものを移動させる能力。

 このスキルを手に入れたとき、ひょっとして自分は主人公なんじゃないかと思った。


 目を閉じて自身のスキルについて念じると『転移』と浮かび上がってくる。


 慣れていないうちの、ダンジョン外でのスキルの使用は推奨されていない。

 だから蒼は試験の日から今日まで、能力を使うのを我慢してきた。

 せっせと薪を焚べながら、興奮の火を維持してきた。それを今、ここで解放する。

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