13話:これから高校一年生
4月10日、今日は高校の入学式。
現在時刻8:30。入学式まであと三十分。
蒼は爆睡をかましていた。
リビングでは食事を終えた翠がお茶を飲みながら一息ついている。お皿の上に残っているのはきれいに食べた魚の骨のみ。
朝食を食べ終わってもまだ起きてこない姉を呼びに行くかと席を立つ。
いつまでも起きてこない姉を呼びに来た弟。
その声で飛び起きる姉。
蒼は目覚まし時計を見る。
時刻は8:34。
まだあと25分もあるじゃーん。入眠。
起きたことは扉越しに確認した弟。
しかし、しばらく待っていても部屋の中で人が動いている音は聞こえない。
もしかして、二度寝。
これは強引な手に出るしかない。
扉をバーン! 電気をピカーン! 布団をバッサァー!
慣れた手つきで姉を叩き起こす。
§
現代アートを体現した寝癖を整え、鏡の前には美少女が降臨。
それに満足、ご飯で満腹。
本日の朝食はハムエッグと白米、味噌汁。今となっては腹の中。
家を出るまで20分ほどかけて、現在時刻は8:53。
しかし問題はない。高校まで徒歩5分。距離だけで高校を決めただけはある。
私立桜華高等学校。
よくある普通の女子高。
制服が少し可愛い。それくらいしか蒼は知らない。だって距離だけで決めたんだもの。
比較的新しい校舎。
数年前に施設を一新したらしい。隣にいる父からの情報。それに「へぇ」と母。
蒼は高校の敷地内に入ってから緊張しっぱなし。
周りに知らない人がいっぱいいるし、慣れてない場所だし。
借りてきた猫のように大人しい蒼。
両親と離されたタイミングで借りてきた猫感が限界に達する。もはや語尾にニャンがつきかねない。
前日から妄想していた予定では、近くの子に声をかけて友達になるつもりだった。
しかし今の蒼にコミュニケーションは厳しい。まともな自己紹介ができるかすら怪しい。
緊張しているうちにホームルームが終わり、次は体育館での入学式。それもまた緊張しているうちに終わる。
そんなのこんなで、緊張している間に入学式すべてが終わっていた蒼。当然友達なんて作れていない。
入学式が無事終わり、蒼と合流した両親。いざ徒歩5分の帰路につかん。お父さんは「入学祝いになにか買ってあげよう」と言ったけれど、入学式が終わっても未だにまともな思考を手放している蒼の耳には届いていないだろう。
緊張してしまった蒼の脳が思考を放棄し、体が自動で動くそのさまをゾンビと形容しそうになったお父さん。娘に対する言葉ではないなと踏みとどまる。
体は自動モード。その状態で帰宅。
帰宅後はしっかりと手洗いうがい。自動モードでも抜かりはない。
まだまだ終わらぬ自動モード。ソファに腰掛け背筋を伸ばし、手は膝の上、顔には微笑。電源の入っていないテレビの画面が黒く微笑を反射する。
姉の蒼を見た翠。人見知りってこんな挙動するんだ、と興味深げ。
真っ暗な画面を見つめながら微笑を浮かべている姿は少し怖いので、テレビをつけてあげる。
流れ始める夕方のニュース。
ダンジョン関連のことについて触れている。冒険者の死亡率がどうとか、そのうち五割がモンスターだとか。
翠は興味がないし、興味を持ちそうな蒼は微笑中。
チャンネルは変わり、犬猫特集。
これなら微笑しながら見ていても不思議じゃないな、と満足した翠はそのまま自室へ。
夕食の準備をしている神楽坂ペアレンツ。
テレビで流れる犬猫特集。微動だにせずそれを見守る娘。
すごく準備がやりづらい。できれば息子に戻ってきてほしい。
§
家族四人が席につく。今日は蒼の入学式だったので、いつもより豪華な夕食。
我が物顔のハンバーグ。キザな2枚目エビフライ。異色のダークホス海鮮丼。いつもの味噌汁だけが安心感を与えてくれる。
食い合わせどうなってんだ。翠は思った。
困惑を誘う良い香り。それが蒼を現実の世界に引き戻す。
目の前に並ぶハンバーグ、エビフライ、海鮮丼、味噌汁。さらに自分の分だけ用意されている焼き魚。
もしかしてこの焼き魚は、本日の主役である私に対しての入学祝!?
夕食の食い合わせは謎だが、すべて蒼が好きなもの。
ハンバーグ、うまい! エビフライ、うまい! 海鮮丼、うまい! 焼き魚、うまい! ハンバーグとエビフライと焼き魚のたびに白米食いてえ。
誤魔化すように味噌汁。うむ、うまい。
友達を作ることはできなかったが、好きなものをお腹いっぱい食べれた今日は素晴らしい一日。
お腹いっぱい。緑茶を飲みつつ一息つく。
食後にはデザート、もちろんイチゴ。
~第一章 完~




