第7話
「おめでとう」
「君は願いを叶えたんだ」
冷える体温の傍らで、誰かの嘲笑が耳打ちする。意地の悪い声。ぶ厚い仮面を被っているようだった。
何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。痛みの伴わない願いなど、ただの理想でしかないんだ。それでも、願わずにはいられないことがある。
ふと、あの顔を思い出す。随分と遠くに行ってしまった、とても言葉で言い表せないあの顔を。どんよりとした雨雲の空に、僕はそれに向かって手を伸ばした。そして、失ったものを醜くも実感した。
「…して」
誰かの声が聞こえる。僕を責めているんだろうか。なら、ありがとう。僕に構ってくれて。でも君は、それで幸せが掴めるかい?
僕はここに居るよ。暫く、ここに居る。
1
六月になって、だいぶ暖かくなってきた。今日はというと、久し振りに怜奈さんと仕事に出掛けている。といっても、歩いて行ける距離だ。最後に遠出したのはゴールデンウィークだっただろうか。相変わらず、オカルト関係の旅行だった。仕事熱心なのか、根がそうなのかは知らない。でも、どうしてこんな所を回るのか訊いたことがある。
「うんとね、探しもの」
それ以上は、教えてくれなかった。レディの秘密は高いらしい。僕が払えるようになるまで、彼女は覚えていてくれるだろうか。
「ここだね」
隣の足が止まる。目の前に広がるのは、使われなくなった小学校だろうか。古くなった壁や囲いが、いかにも怪しげな雰囲気を漂わせている。きっと夜に来ていたら、僕でも幽霊が見えるかもしれない。怪奇現象が嫌でも起きそうな、寂しい建物だ。
「…入ろうか」
入口の柵を押し開けて、彼女は校舎へと入っていく。薄暗い廊下を進んでいき、適当な所で曲がって、教室へ踏み入った。並んだ椅子の中から一つ選んで、誰もいない部屋の席に座る。僕は近くに寄って、彼女を支えられるようスタンバイする。
「維歩君、危ないようなら逃げてもいいからね。私のことは気にせず」
「何度も聞いたよ。その言葉」
そしてスイッチが切り替わる。この間、彼女は無防備だ。だから僕が守らなくちゃいけない。そんな非常事態、起こらないだろうけど、念のためだ。
窓から光が差し込む。照らされた横顔に、僕は思わず見とれてしまう。その明暗が、彼女を神秘的に映し出すから。
「…ん」
…気のせいか、足音が響いているような。そう感じている間に、音はいっそう大きくなった。確信を持つまで、気付いてからほんの数秒の間だった。
近付いてくる。何者だろうか。こんな場所に、他にも人が居るなんて、変だ。
音が増す。得体の知れなさに、身構える。僕に何ができるか。何のプランもない。通り過ぎてくれ。そう願った。
姿が見えてくる。外見は、一般的な大人。顔は影になってよく見えない。何か、腰の辺りからギラギラと反射するものが映る。
「うっ…」
思わず声が漏れる。包丁のような、刃物を携えていることに気付いた。その人は、こちらに顔を向ける。
「…」
じっと様子を窺う。おそらく普通じゃない。いや、もう確かなんだ。下手に刺激しない方がいいだろう。
…でも、音が、集まってる気がする。ここに来るのか。奇妙だ。気味が悪い。怜奈さんを起こして移動するべきか。逃げ場がなくなる前なら。
「っうっ…」
その足が、こちらを向く。すると人格が豹変したように、刃物を構えて真っ直ぐ走り込む。陰からも人が現れ、この部屋に、瞬きしている間に四人の狂人が入り込んだ。
「えっ…」
整列された机を荒々しく押しのけて、怯む様子もなく迫ってくる。痛みを感じている様子もない。躊躇ない動作に反応する暇はなく、既に彼女の胸には刃物が突き刺されていた。
「…あぁ、ああ」
刃物が。それも何本も。
「あっはは、いーひひ」
血飛沫が飛び散っている。複数の刺し傷から、勢いよく飛び上がっている。遺体は椅子から転げ落ち、その上に黒い体が覆い被っている。僕はその外で、唖然と立っている。
どうしよう。どうしよう。とうとう可笑しくなってしまったらしい。何の罰だろう。誰が僕を狂わせたのか。
突き立てられる先端から液体がこぼれ落ちる。黒ずんだ赤色が日を受け、僕の情緒を掻き乱していく。
とても、攻撃的な色だった。
「いーひっひ。ひぃ。うわぁぁあああああ」
気が動転して、僕は隣の人山を尻目に部屋から逃げ出した。何もかも置いていって、空っぽのまま、遠ざかろうと足を踏んばった。青ざめた顔で廊下を駆け抜ける。校舎から飛び出して、地面を蹴って、日だまりを前に、吹っ切れた。
感情が、停止した。そして自分を思い返す。今を思い起こす。僕は。…僕は。
「…うう」
涙が溢れてくる。何に対してなのか。怜奈さんを喪ったことだろうか。守れなかったことか。それとも、逃げ出してしまったことだろうか。悲しくてたまらない。悔しくてたまらない。自分の不甲斐なさに、苛立ちが込み上げる。
「駄目だよ、維歩君」
ああ、幻聴か。そんな声まで聞こえてきて、つい後ろを振り向いた。
「ちゃんと逃げなくちゃ」
暗い玄関の向こうから響く声。ガラス張りのドアを開け、白日のもとにその姿を晒す。
それは天使か。怪物か。真っ赤に塗られた女性を前に、僕は答えを探す。手には園芸用の手鎌らしき物を握りしめている。ずっと鞄に入れて持ち歩いていたのだろうか。その鞄も、返り血で染まっている。
それはニコッと微笑んで、手に持っている物をしまう。
「大丈夫? 怪我はない?」
そんな言葉を浴びせてくる。
「どうして…」
涙が止まらない。嬉し涙かな。そうあってほしい。
「どうしてだろうね。あの死体は私を狙っていたのかな」
そうじゃない。でも、それでいい。元気なら、それで。良かった。良かった。本当に、良かった。
「あれは、何だったのかな」
答えなんて、分かる筈もない。あんな人間離れした行動に、意味なんてある筈がない。自暴自棄の、おかしくなった頭に考えがあるなんて思えない。そうでなければ、こんなこと、何の得がある。
「あれは取り憑かれた死体だよ。何が入っていたかは分からないけど、私が目当てだったんだろうね」
「…どうして?」
「私は媒体だから。みんな私が好きなのよ。入れ物になってもらいたくて、探していたのかもね」
「怜奈さんを?」
「依代を」
危険があるとすれば、僕はてっきり、外からの襲撃なんかじゃなくて、怜奈さんが暴れだしたりするのかと想像していたんだ。取り憑いた霊が中で暴れだして、外から抑え込む役割だと思ってた。それが外から人間の皮を被って、殺しにかかるなんて。誰が予想できただろう。
怜奈さんは、大丈夫の一点張りだった。私は普通じゃないからと、そう寂しい声で言葉を漏らした。聞き返すことは、しなかった。
彼女はこのまま家に帰ると言う。何か手伝えることはないか考えたけれど、そっとしておくのが最善だと思った。気を遣わせてはいけない。僕の優しさは、一方的じゃいけないんだと、その時気付いた。
そして一人で歩く帰り道。血だらけの怜奈さんを見たのは、これで二度目になるんだと。あの時も今日と同じだったのかな。でもあの時は、確か傷を負っていなかった。でも意識が朦朧としていたんだっけか。付いていった方が良かったのかな。そんな考えが、頭の中でぐるぐるする。
ベッドに潜る時、僕は考えるだろう。隣で突き立てられる彼女を浮かべて、僕に何ができたのか。僕はどうすればよかったのかと。あの理不尽から彼女を守るには、どうすればよかったのだろう。正解なんて有るんだろうか。
…どうして。どうして、彼女は平気なのか。あんなの、即死の筈だ。普通じゃないと、それで片付けられる話なのか。やっぱり強がっていたのだろうか。本当は、瀕死の状態だった? いや、それは違う。近くで見た時、弱ってはいなかった。だから僕は、安堵したんだ。
…。殺人事件も、そんな感じなのかな。もう忘れてきていたけど、ああやって、一方的に殺されたのかな。それとも、他にもああやって、取り憑いた死体を倒した者がいるとか。
怜奈さんは、出てきた時、鎌を握っていた。身を守る為だったのか。その準備が事前にされていたのか。ならあれは、初めてのことじゃないのか。一体何を、彼女は抱えているのだろう。
もう二度と、彼女を失いたくはない。あの悲しみは懲り懲りだ。僕が強くならなきゃ。最後まで、投げ捨てないように。
掴んだ手を、離さないように。
2
「お嬢様!」
帰宅早々に、爺やが駆けつけて騒ぎだす。大丈夫。それは私の血じゃないわ。みんな分かっていることでしょ。
「お風呂、沸いてる?」
「…ええ」
「そう」
荷物を下ろして、洗面所に向かい、衣類を剥ぐ。あの鞄、お気に入りだったのになと、少し残念な気持ちになる。次はもっと大きめのにしよう。
シャワーで汚れを落とす。皮膚に付いて固まった血液が、半ば溶けて足元へ伝っていく。水圧で取れないものも、爪で擦って取り除く。
いつも思う。これはまるで、私にしがみついてくる人たちみたいだと。それを私は、消し去ろうと望んでいるんだと。私は綺麗でいたいのよと。
誰か、私を救ってはくれないか。
「…なんてね。無理な願いよね」
湯船に浸かる。足を伸ばしてリラックス。目を閉じて、蒸しっぽい空気を楽しもう。一人になれる癒しの時間。一方で、自分のことを嫌でも考えてしまう時間でもある。一人きりになるとすぐこれだ。気が逸れていないと、私はやっていけない。自分で自分が嫌いな人間。
リビングに出ると、爺やが片付けて待っていた。中の荷物がテーブルにきれいに並べられ、その中には勿論あれも有る。血は拭き取ってあったけれど、鞄はもう替えた方が良さそう。
「お嬢様、ちゃんと話して下さい。我々は家族なんですから、一人で抱え込むのはもう止して下さいと、何度も申しておりますのに」
「分かってるよ。爺、今日は違うの」
あれは私を狙っていたんだ。維歩君には適当に嘘を並べて誤魔化したけど、私が殺したのは間違いなく生きた人間だった。頭の方には、おそらく細工がされてあるんだろう。誰が寄越したかは大方見当がつくけれど。
牽制か。それとも、本気で仕留めるつもりだったのかな。なら、私のことを見誤っていたようね。次はもっと大胆に、大がかりで来なさい。殺るならいっそ、一思いにしないと。
…そうじゃなきゃ、私の不幸も募るばかりよ。
「お嬢様、聞いていますか?」
「大丈夫よ。ねぇ、爺。今日も私、彼に助けられたわ」
生きた人間なら、殺すのに躊躇いがあると読んだのでしょう。実際、それは当たっている。けれど無抵抗なわけじゃない。私には頼れる家族がいるから。こういう時に、頼もしい子がいる。もう私は一人じゃないのよ。
「…私がいなくなっても、仲良くしてあげてね」
「お嬢様…」
笑顔を見せてから、部屋を出た。みんなも笑ってくれればいいのにね。家の子たちは、素直じゃない子ばかりだから。
ごめんね。そしてありがとう。みんな、お元気で。
3
黒塗りの車内で、男が二人並んでいる。いつもと同じ面子だ。語るまでもない。
「あれはお前らの仕業だろ」
やけに不機嫌な男が、運転手に投げ掛ける。
「そうだ。上の指示だよ」
「…、俺の言いたいことは、分かるよな」
ぴりついた空気の中でも、黒服の男は冷ややかに対応する。
「それを俺に言って、気分でも晴らす気か」
「うるせぇ」
相変わらず、二人の仲は悪い。
「どうやら失敗したようだな。我々が想定していたよりも、彼女の生命力は凄まじいものだったらしい。その程度は、お前に匹敵するのではないかと議論されるほどに」
「…うるせぇよ。俺には関係ないだろ。これ以上巻き込もうとするな」
態度が悪化する。聞き相手は、それも想定の上だと言わんばかりに、無表情を貫いていた。
「聞けよ。伝達だ」
窓の外を向く男に、淡々と話す。
「お上の決定だ。今度は大胆にやるそうだ。詳しいことは下っぱにゃ伏せられているが、今月中にも実行する気らしい。きっと人目にも付くだろう。聞いてるか、無減。身内の行動には注意しておけ」
「ああ、分かってるよ」
そんなのは、言われる前から知っていた。知っていて、この半年を迎えてきたんだ。
「なら俺は降りるよ。俺も俺で、やれることはやるつもりだ」
車が止まって、ドアを開け放つ。閉める際に、車内に残る男を睨み、言い放った。
「覚悟しておけよ。もしもの時は、戦争だ」
4
数週間後、梅雨の迫る時期になって、空気がじめじめしてきた。どんよりとした雲が一面に広がり、日中なのに薄暗さが付きまとっている。
今日は午後から雨が降るらしい。母さんにそう言われても、面倒だから傘は持たなかった。
散歩に行く。暖かくなってから、出歩くことが多くなったように思う。去年までは例の公園ぐらいしか寄る場所はなかったが、今では母さんの言葉なしでも何となく外出することもある。これも怜奈さんのおかげなのか。心の持ちようが変わったようだ。
湿っぽい、生ぬるい風が肌をかすめる。散策日和ではないけれど、寒いよりかは全然いい。外の風景を見ていると、僕の知らない何かに気付けるかもしれないと。新しい発見が、僕に興奮を与えてくれることが時々ある。
考えもないままに、道を進んでいく。見慣れた風景がうんざりするほどに続いていく。何かが僕に降ってこないか。何かに気付かされることはないか。灰色の街路が、色付くことはないのだろうか。
僕は一体、何を求めているのだろう。感覚的な何かを期待して、このまま歩いていくのか。僕の足は、どこへ向かう。終着点は、果たしてあるのか。具体的な目標などなしに。
風景を横目に、この半年を振り返った。色々あった半年だ。怜奈さんに出会い、それから、ひねくれ者のベイスさんも顔を会わせるようになった。父さんの秘密が明かされていって、除霊を手伝うことも、一緒に出かけることもあった。最近怖い思いはしたけれど、結局は何事もなく過ぎている。全てが、好いように進んでいる。
僕はここで、幸せを掴んだんだと思う。この何気ない日常が、僕の願いの行き着く先だったのかもしれない。
この曇天の向こうにも、きっと変わらない日々が待っている。それで満足じゃないか。みんなが幸せで、何事もなく暮らしていける。
僕もあれから、学校には慣れてきた。孤立しない程度に何とかクラスの輪に入っているし、受け答えにも対応しつつある。これまでの孤独な不安は、この半年で大分薄れたんだ。もう僕に、怯えるものも、生き辛さを覚えるものもない。ずっとこの日々が続きさえすれば、それでいいのに。
でも、僕も歳をとる。いつかもう、終わってしまうんだ。それは中学校に上がる頃か。それとももっと、ずっと近くにあるのか。
行く宛もなく、歩みを続ける。このままの速度を保って。終わらなければいいのにと、真っ直ぐな道路を通過していく。
すると道が開け、左右に視界が広がる。僕の過去と未来が、横から流れていくような、そんな風景。車の通りは、今はない。人が疎らに行き交い、活気がないのは雨のせいか、なんて考えてみる。
行く人に視点を当てる。みんな、知らない顔だ。言うまでもないことだけど。
彼らは今、何を感じているのだろう。この日常に、喜びを見つけているだろうか。一体この世に、どれ程笑顔を作る人が居るか。下を向いて行く人は。平和とは、…平和とは、得難いものなのか。それは理想だと、誰かが言っていた。多分、ベイスさんだろうか。本当に、諦めて良かったのだろうか。
視界の隅で、何かが揺れ動く。何だろう。自然と目を向けた。
向こうの道から、何かが近付いてくる姿。揺れ動くのは、乱れる髪と、衣服の裾か。近付いてくるにつれて、事の非常さを訴えかけてくる。何かに追われているのか。後ろを振り向いては、乱暴に腕を振り、息を乱し、前後に揺れている様子が窺える。
大きくなっていく影が、輪郭を作り出し、顔を鮮明にさせる。それが怜奈さんだと判った時、時間が止まったかのように、僕の中で思いが溢れだした。
数週間前。目の前で刃物を突き立てられ、赤い飛沫が舞った記憶。僕のすぐ傍で、理不尽に奪われていく恐怖。そんな景色が、心を支配しようとしている。
あんな思いはもう御免だ。僕から幸せを奪っていくなんて許せない。もう一度あれが起こったとしたら、我慢なんてできるものか。
まさか、とは思っていた。立て続けに彼女が狙われるなんて。ただ急いでいるだけではと。そう思いたかった。なのに目に広がった姿は、僕に残酷さを見せびらかす。先回りして、夢を打ち砕いていく。
焦燥感に駆られて、僕は走り出す。一秒でも速く彼女を掴まえるために。何ができるかなんて知らない。ただ、一緒に居たかった。もう目の前で、あんなのを味わうのだけは嫌だから。
「怜奈さん!」
声をあげる僕に気付いた様子だった。こっちを見て近付いてくる。その顔は、何かに怯えているよう。顔色も悪い。何が迫っているのか、僕には何も分からなかった。崩れた笑顔に、彼女の弱さと、儚さを感じとれるだけだった。
大通りを斜めに渡っていく。距離にして十メートルあるかどうか。僕の足で何歩かかるだろうか。
目の前にはもう、すぐそこまで居るのに、距離が遠く感じた。彼女は足を休める様子がない。このまま僕を、通り過ぎていくのではないか。不安が頭の中を過って、僕は怜奈さんに向かって手を伸ばした。
数メートル。この数秒が、とても長い。何もかもゆったりとしていて、急ぐ僕を嘲笑うかのように、意地悪をしてくる。
彼女が手を伸ばす。多少の安堵が胸に広がって、心に僅かばかりのゆとりが生まれる。息のあがった白い顔色を正面に据えて、僕の左手はその手を掴んだ。
掴んだ。その瞬間、視界が真っ白になって…
5
少年が走り出すのを、男は端から覗いていた。予測できない、急な動作を繰り返す少年。嫌気が走ったが、頼まれた手前、責任を持つ気ではいた。彼を見失わないように、自分も距離を詰めていった。
維歩はどうやら、走ってくる女性へと向かっているようだ。何が見えているのか、虚ろな脳味噌で恐怖を拒絶しているようにしか思えない。そんな女性と、あいつは面識でもあるのか、振り向いてくれと声をかけている。
その必死さに、反吐が出る。何が大切なんだ。何を守ろうとしているのかと。いかれた連中だ。そう、突き飛ばしたかった。俺とは違うと。俺はこんなじゃないと。そんなプライドがあった。
怯える女性が、錯乱した少女が、少年にすがるように寄っている。挙動不審に。クスリでもキメているか、さもなければ幽霊にでも取り憑かれているかのようだと思った。本当にそうなのかなんて知らない。関係ないことだ。
子どもが迎えようと車道に飛び出る。その無意識に追った目が、そこで、主観に陥ってしまう気がして、嫌な予感がした。自然と視点がいく。何だか不気味に感じた。
まるで吸い込んでいくように。誘導されているように。周りの見えなくなる時は、既に危険な状況なんだ。手品の常套手段なんだ。謀にはもってこいのセッティングじゃないか。
その掌の上に、もし自分たちが居るなら、目的は何かと考える。敵がいるとすれば、いかれた不安定要素でもない限りは、あの黒服共だろう。
ただ、奴を敵に回すほど、彼らも博打好きではないだろう。…俺を陥れようにも、まだ探りが足りない筈。そんなリスクを背負う馬鹿はいない。
なら、目当ては、あの変わった女の方か。一体あれがどんな人間なのかは知らないが、死にたがっているのなら放っておけばいいのに。勝手に狂って自滅するなら、そんなのに、なぜ自ら手を下しに来るだろうか。
ああ、その女も、車上に出ている。その時ポツリと、白い線が視界に映って、やっと意識が周囲に向いた。疎らの人だかり。この中に危険が潜んでいるか。いや、分からない。
すると微かにエンジン音が聞こえてきた。どこからか。いや、どっちからか。突っ込む気だろうかと推測する。本当に黒服であれば、有り得る話かもしれないと考える。その行動力を、政治的にも経済的にも保持しているのなら、可能ではある。
ただ、いくら考えようと、その必要性が理解できない話ではあった。そんな目立つことをする意味も、親切にも処分しに来る理由も。
…いや、そんなのはいい。俺はしなくちゃいけないことをすればいいんだ。いくら飛ばしてこようが、この距離なら俺の方が早く追い付く。そんな自信はある。
ポツポツと雫が垂れる。少年を目掛けて距離を詰め出した。
前方の二人組は、道路の真ん中で交わろうとして。
少年が手を差し伸べる。利き手の左手だ。
女性も、その少年の手を握った。
そして、
「……」
その光景に、目を奪われた。
ほんの数瞬だった。その数瞬だけ、気が飛んでいった。瞳に映る半身の姿に。左側に、思いがけない顔を見た。そして、その右手が、気付けば動作を終えていた。
その数瞬の視覚情報が、心を大きく揺らがせてしまった。自分の優位性が忽ちに失われたと、気付くのが遅れた。
我に返るも、地面を踏む足が力んで仕方ない。戸惑いを抱えて、平常の動作を保てずにいるんだ。精神的には抑えているつもりでも、体の反応が追い付いてこない。衝撃から立ち直れていない。
悪循環が思考を過り、状況をいっそう厳しくさせる。この数秒に、プランを詰めなければと。何が最善か。ここで戻るべきか。だが、この先の顛末を見なければ、何も生まれないのではないか。
…まだだ。俺の目的は少年だけだ。押し退ければ一人は助かるかもしれない。
間一髪で、少年のもとに行き着く。そして脇に手を回す。惰性で側方へと跳び退けるが、車体が体をかすめ、衝撃が全身を襲っていった。その衝撃は、前方に倒れたはずなのに、なぜか後ろに引っ張られるようだった。重心が宙に浮いた感覚がした。
何故だ。反射的に首が向く。
吹き飛ぶ女性の体。その肩から腕へ、手へと繋がって、少年の体へ。左手が伸びていた。繋いだままなのか、二人分の重さを背後へ引っ張っていた。俺は首根っこ掴まれたように、その衝撃のベクトルに抗えずにいた。意識だけが、今に追い付いていた。
結果、二人に引っ張られるように、背中から地面に強打した。車体はというと、ただ真っ直ぐに通り過ぎていく。
だが体を起こすと、前方にまた車体が見える。今度は大きい。大型のトラック。跳ねる次は、潰しにかかるらしいと。
この狂気は一体何処からくるのか。それほどまでに奴らは、こいつらを殺したいと切羽詰まっている状況にあるのか。それとも、この日に何か特別な意味が込められているのか。これが運命だと、何かの法則だと、そんな超自然的な考えに飛躍しそうになって、考えを止める。
急いで、倒れる少年の腕を引っ張る。焦って、もたつきそうで、苛々が募る。分かってはいる。だが力ずくでも離れないんだ。絡まったように、握ったままの手が離れようとしない。
「クソッ」
差し迫る無機物に圧されて、遂に切断を試みる。もう迫ってるんだ。猶予がないんだ。轟音が背後から襲ってきて、地震の錯覚さえもわき上がっている。
右の掌から刃物を取り出し、その柄を握る。握るが、視界の隅で眠っている顔が、先程の光景を呼び起こしてくる。何か危険を訴えている。このままでいいのかと。このままがいいのかと。誰がこんなことを望むだろう。…いや、あいつは望んでいる。あいつは、このことを知っているのだろうか。
俺は、誰を選べばいいのだろう。誰の幸せを守れば、正しいことをしたと…。
「また、この繰り返しかよ。クソッ」
響いてくるノイズの中で決断を決めかねる。誰かに委ねたくとも、誰も、自分の代わりにはならない。だから…。
目を瞑って、真上に刃を持ってくる。冷たい粒が頭に落ちる。重低音の響きを他所に、自らのペースを作り上げる為に。
右手は掴み、左手はポケットに。いつもの、そのくねった重心の偏りでいい。どこを切るかは運次第だ。だが、できれば真っ直ぐに振り落とそうと思った。女はここに置いていくとしても、それが公平じゃないかと、つまらない正義を抱えた。もう無駄だとしても。
俺のせいじゃない。これは、俺が奪ったわけじゃない。
垂直に腕を振り、重たい刀身は何かを断ち切る。感覚が右手の先から伝わってきて、不快感を覚えた。
切ったのは少年の腕の方だった。手首の辺りを、バッサリと。だが、感傷している暇もない。すぐさま体を担いで、路側へと避難した。間一髪。本当にギリギリだった。またも轢かれる寸前で、判断が、遅いんだ。俺は。
そして、いよいよ本格的に、雨が降りだした。車はまだ何台か飛び出してくるが、予想の通り、目当ては向こうの方だったらしい。アスファルトに血肉を染み込ませるように、車輪が遺体を挽いて、すり潰していく。疎らながらも通行人が悲鳴を上げ、それを聞いた野次馬も集まり出す。真新しいものを見るために。人の死を、臓物を、見世物に。騒ぎながら、同情を装いながら、それでも奥底では、話題になると楽しんでいる。興奮している。そんな人で、現場が埋め尽くされようとしていた。
結局、人はそんなものだ。だから、善悪を語るのも不毛なんだ。価値観を押し付けるのも、自分は止めようとしている。だから、どうか一緒にしないでくれ。俺の正義を。信条を。大切なものを。守りたかったものを。
どうか、俺を解った気にならないでくれ。
身の安全を確保したところで、公衆電話をかける。相手は一人しかいない。呼び出し音に、奴は直ぐに反応した。
「もしもし」
「俺だ」
「分かってるよ。それで、どうだ。維歩は」
「…まあ、命は無事だが」
「無事だが?」
「…左手を、切った。手首から、パックリ」
「そうか」
「ああ」
「良かった」
良かった?
本当に、これで良かったのだろうか。声を聞いて、改めて胸に、黒い靄が広がった。
「…悪い」
電話を持つ手を降ろし、もう一方をポケットに入れ直す。扉を開け、外に出て、冷たく湿った空気を肺にいっぱいに吸った。歪曲した黒い背中を、普段とは逆に反らして。降りつける雨空を仰いで、心を休めたかった。
目蓋を閉じる。雫がその上に弾けて消えていく。儚い正義だと、身に沁みている。分かっているんだ。けれど、これは治りそうもない。これがもしかしたら、本物と呼べる俺なんだろうか。
そしてまた、垂れ下がった受話器を取って、現実へ向き合う。
「これで頼まれた事は終わったが。…なあ、テクト」
「ん?」
その世界には、無残に崩れ散った亡骸がある。感情を殺して、心を殺して、他人と割り切って横目で眺めても、それでも思い返してしまう。あれほど無慈悲な行いが、あっていいのか。あの女性が、何をしたというのか。
「彼女は、一体何者だったんだ?」
そう、訊かずにいられなかった。しかし返ってきた答えは、あいつには似つかない冷たいものだった。
「彼女は七年前、そして、今回の連続殺人事件の容疑者だよ。ニュースは見るだろ、アイル。奴ら、彼女を黒と断定して、排除に踏み切ったらしい。これまでも何度も試みてはいたようだが、まあ上手くいかず、いよいよ今回、強行策に出たらしい。結果はこの通り。人目についたが、とりあえずは成功だと思ってるだろうな。俺は家で、今報告を聞いているところだ」
「…そうか」
「アイル」
「何だ?」
「…有り難う。本当に、有り難う。直ぐに迎えを寄越すから、一緒に乗ってくれ。もう少しだけ、俺に付き合ってくれ」
付き合ってくれ。その声の余韻が、暫く頭に残った。俺は結局、何の主体性もなく、流されてばかりなんだ。他の人よりずっと、惨めったらしい生き方をしているようだ。ああ。駄目だな。こりゃ。
通話が切れて、ただ耳を休ませた。ザアザアとアスファルトを打ちつける音。重力が生み出す荒々しくざらついた響きに身を任せて、思考を停止させたかった。雨で髪が濡れていく。まるで心身共に洗われているように気持ちが好い。
浄化の雨だ。勝手にそう思うことにする。この両腕にも伝って、穢れを洗い流してくれそうだ。脳を初期化されるような。誰かの恵みにありついたように、心に潤いを与え、胸に静寂を作り出してくれる。澄んだ水面のような光景が、今、目蓋の内に広がっている。この心地好さに浸って、ずっと立っていたかった。
女はそれからも何度か轢かれて、数十メートル引っ張られていった。臓物をさらけ出して、もう人の形をしていなかった。
黒ずんだ血の海。轍を抜けたところに、人の左手が浮いている。他は乱雑に引きちぎられ、潰されている中で、その左手だけは奇跡的に形を残していた。いくらか損傷があるものの、それが何か分かる形に。そして、それが左手だということに、何だか運命みたいに思えて、ふと足が運んでいた。
それは華奢な手だった。子供のものか、女性のものか、俺には知識がないから判別できなかった。もしかしたら俺が切り落とした腕かもしれないと、そう思って拾おうとした。治ればいいな、なんて考えもあったのかもしれない。
腕を垂らし、血溜まりに触れる。指の先が暗い赤に浸ると、そこで不意に、変な感覚に陥った。
初めは感情だった。恐怖。不安。孤独。とにかく、追い詰められた感覚が近いと思った。それが自分を染めていって、どこかしら声が聞こえてくるような、だが実際には声などしていないと理性が訴える感覚が現れる。意識が混濁し、このままでは抜け出せないという恐怖が自分の胸から芽生えていた。
これは不吉なものだ。良くないものだと、体が拒否反応を示している。頭痛。耳鳴りもする。これが怨念って奴だろうか。何か影が見えて、見つかりそうだ、憑かれたそうだと思った。そこでやっと、腕を引っ込められる意識が返ってきた。
ただ血液に触れただけで、こんな怪奇現象を見るなんて理解できない話だ。そんなオカルトめいた幻覚になんて付き合いきれない。信じない。だが、それでもこれは、やはり人に害を与える、嫌なものと蓋をしたかった。そうやって理解を自分から遠ざけた。
なぜだろうか。ふと、あの時のことを思い出した。最後に仲間を喪った時。自分は側で、あの人が息を引き取るのを見守っていた。いや、守ってなどいない。ただ、眺めているだけだった。何も助けられなかった。何も背負えなかった。そんな思いが、なぜか今、発作のようにわき起こる。
その後のことは、よく覚えているんだ。あいつと大喧嘩して、弾き出されて、それでこうなってしまった。今思うと、あの時が自分の分かれ目だったと気付ける。誰かに代わって思いを継ごうなんて、自分には向いてなかったんだ。人の為だなんて言い張って、結局俺は偽善者でしかなかったんだ。自惚れたんだ。だからああなった。それが教訓になって、今の自分を作ってしまった。
左手の回収に戻る。素手で触るのに抵抗が生まれて、適当にくるむものを探しにいく。何とか近場で織物を手に入れて、それでその手を拾って包んだ。繊維が簡単に赤に染まっていき、支えている手にも血液が触れる。また、あの嫌な幻覚が邪魔をする。それでも先程よりは曖昧で、気分も慣れていった。
天を仰ぐ。黒い渦が涙を垂らす。これで、晴れてしがらみから解放されたわけだが、果たしてこれからをどうしたらいいのか。とりあえずは、転がってるあれを回収して、旧友の頼みを終える。その後に、自分には何があるか。
今回で、何か解決したのか。俺の用は済んだが、何か知らないところで、話の幕が閉じたような予感がした。
昏睡の少年を横目に見やる。彼は、じっとしたままで、何も反応を示さない。
「あるいは、これから幕が上がるのか」
まだ何も、終わってはくれないらしい。
6
声が聞こえてくる。意識の奥深い場所から、ぼんやりと。あれはいつのことだったろうか。その声の君に尋ねたいんだ。
「…して」
最近よく聞く言葉。靄のかかったように、その前が思い出せない。僕に、何か願いがあるのか。それとも僕を責めているのか。
ありがとう。僕を見てくれて。僕に構ってくれて。こんな僕を、相手にしてくれてありがとう。
…君は。君は、幸せかい。幸せを掴めたかい。それとももう、君は居ないのかな。
あのね。僕の話を聞いてよ。僕は今、幸福の中に居るんだ。いつかはなくなってしまうって分かってる。けど今は。今は…。
真っ暗な画面が現れて、キーンという響き。耳鳴りらしい。どうやら夢を見ていたようだ。あの声が幻だと分かるから、これが現実なんだ。でも何で、真っ暗なんだろう。もしかして夜なのか。あれ? いつから僕は眠っていたんだっけ。何してたんだっけ? 思い出せない。思い出せないのが、とても不安になる。
おかしい。何か、体が動かない。何も見えないし、何も聞こえない。聞こえるのは耳鳴りだけ。もしかして僕は、もう死んでいるのか。このままずっと、ずっとこのままなのか。そんなの、寂しい。誰か、誰か居ないと、僕は。
…目蓋を開けると、ねずみ色が飛び込んだ。憂鬱な陰が辺りを囲んでいて、零れてくる雨がじめじめして嫌だった。
ああ。濡れてる。冷たい。汚い。僕は何でこんなところに、寝っ転がって倒れてるんだっけか。確か怜奈さんを、手を握ろうとして…。
首を下に曲げ、自分の体を眺める。泥で汚れた衣服。びちゃびちゃになって、着心地が悪い。
僕の左手は…。彼女を握ったはずなんだ。
手を上げて、確かめようとする。その腕は、ぐるぐる巻きに布が被せられ、赤く滲んでいた。
「………ぇ」
指が動かない。冷たいから感覚がないのか。でも何だか短いような。あれ? おかしいな。おかしいよね。だって右手は、ここまであるのに…。
「ぅああ」
喉元から悪魔のような声が飛び出る。事実を拒絶したい衝動。悲痛の雨音が鳴り響く。
痛い。痛い。心が。体が。何があった? 僕はただ、あの手を握って。
「…起きたか」
聞き慣れた声が近くからする。足音がしてきて、ピチャピチャと、水の跳ねる軽い音が重なっている。やがて僕の視界に、淀んだ空を遮るように映り込む。暗い服の、冷たい顔。息をしていないと思うぐらい、静かに感じられた。
「暫くじっとしていろよ。貧血に低体温症だ。左手の損傷もあるが、跳ねられて全身を打ってるんだ。内臓の方は見えないからな」
道路の真ん中に出て、あの後跳ねられたのか。だから記憶がないのか。
「…怜奈さんは?」
「…」
「怜奈…さん、は…?」
「…あれのことか」
沈黙の後、指を指す。僕の視界には腕の根元までしか入らなかった。その方向は、僕の頭のてっぺんへ回っていた。
後ろ首を縮めて、上を向く。体が重くて、思うように動いてくれない。それでも何とか、何とか上目で捉える。
…………あれは。
一体、何だろうか。人混みのその奥に、暗い物体が転がっていた。小さくてよく見えないけれど、いくつかあるようだ。みんなどうして集まっているのか。貴重な物? シャッターを切って、ざわざわと話し込んでいた。
「……あれは?」
「…死体だ」
「誰の?」
「…お前が一緒に居た、女の」
背筋が凍りついた。そして、目から涙が溢れ出した。止まってくれない。悲しみも。時間も。この雨のように。嘘だ。嘘だと言ってよ。そんなきまりの悪い顔をしないで、僕にもっと、夢を見させてよ。
「…悪いが嘘は、苦手なんだ」
「嘘だ」
「…ああ。嘘だ」
その顔でそう言われたら、信じるしかないじゃないか。もっと笑ってよ。大丈夫だって。心配しなくていいって言ってよ。
顔を覆いたい。何も見たくないんだ。両手を上げて隠そうとしても、失ったものを痛感させられる。現実は無慈悲に、僕を責め立てる。
ああ。寒い。もう夏なのに、酷く冷える。誰のせいかな。雨のせいかな。事故のせいか。僕のせいか。誰かのせいと押しつけて、早く楽になりたかった。僕でもいい。僕が悪いんだ。飛び出したから。だから彼女も轢かれたんだ。
僕が巻き込んだ。僕が居なければ、彼女は助かっていたかもしれない。今も笑顔で、振り向いてくれたかもしれないのに。
僕は何がしたかったんだ。助けたかったのか? 手を取って、どうするつもりだったのだろう。何が僕に、できたのだろうか。
「…僕は、無力だ」
その顔が、静かに僕を見つめている。石像のような、冷たい岩肌。その頬にも、雨水が伝っている。
「…僕は誰も、守れないの?」
あの時ベンチで見たように、言葉より強い思いが僕を襲う。同情だろうか。哀れみって奴かな。僕の目には、彼の薄暗い瞳が映る。
「…君は、誰だ?」
「……何? それ。変だよ」
「…」
「…維歩だよ。無減、維歩。」
僕を見て、何を思うのか。こんな無価値な自分を。
嫌だな。どんよりしていて。湿っぽくて。明日には青空が見えるだろうか。光が見たいな。
「維歩、君は何を願っているんだ?」
「…願い。…僕はただ、幸せを願った。でももう、掴めそうにないや」
誰かの幸せは、誰かの不幸の上に成り立っている。
「良かった。これでもう、不幸の仲間入りだ」
こんな僕でも、誰かの役に立てたかな。あの笑顔の向こう側に、僕は行けただろうか。




