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7.竜と旅人の夢

 クレイは眠り続けた。深い眠りだ。うなされることもなく、安らかな寝顔だった。

 サブリナは枕元で一晩中クレイの顔を眺めていた。

 クレイは夜中にぽっかりと目を開けた。寝ぼけ眼で瞬いた後、何かを探すように視線を動かす。

 そうしてサブリナを見つけると相好を崩した。

「夢を、見ていました……。海が見える家で、名前を呼ばれて……サブリナが……」

 寝言のようにつぶやいて、また眠りに落ちる。

「うん、いい夢だね」

 サブリナは、そっとクレイの頬を撫でた。

 いつか貴方のその夢を実現させたい。それが私の夢になる。


 翌日、サブリナは神殿の中庭に出た。クレイと出会った場所と似ているなと思った。

 ベンチで休んでいると、クレイが現れた。しっかりした足取りで近づいてくる。

「よかった。体は平気か?」

 声をかけると、クレイは暗い顔をした。

「何があったか聞きました。私のせいで貴方が怪我を…」

「もし怪我をしたのがクレイだったら、私は『私のせいで』と思っていたよ」

 悔恨の言葉を遮って、サブリナは笑った。クレイは、両手を挙げて降参した。

 促されて、サブリナの隣に座る。

「竜になっていた間は記憶が断片的なんです。でも、サブリナの言葉はちゃんと聞こえていました」

 サブリナは頭を抱えた。なかなか恥ずかしいことを言った気がする。

 穏やかな風がクレイの長い髪をさらっていった。

「……私は以前、あなたが行きたいところへどこまでも行きたいと言いました。今は少し違う望みがあります」

 サブリナは、クレイを見上げて瞳を揺らした。彼は心を決めた顔をしていた。

「世界中を旅して、貴方が一番安らぐ場所を探しましょう。そこで、私と一緒に生きてください」

 それは、探さなくても今ここにある気がした。だから、サブリナはそこに向かって飛び込んだ。

 抱きしめ合う二人を祝福するように、どこかで鳥が羽ばたいた。

「うん。ずっと一緒だ」

 涙まじりの声に、クレイはサブリナの顔を覗き込んだ。溢れそうな涙を、目に力を入れて止めている。

 彼女の強いところも弱いところも、愛おしいのだと思う。

 頬にこぼれ落ちた涙に、そっと唇を寄せた。ーーーそのとき、クレイの体が光に包まれた。

「「え?」」

 次の瞬間、サブリナの目の前には竜がいた。竜は、驚いたように固まっている。

「クレイ!私が分かるか!?」

「はっ!サブリナ!」

「よかった、言葉は通じるな」

「で、でも……」

 クレイは絶句した。自分の体が分からない。サブリナは、彼が言えなかった言葉の続きがよく分かった。

 一体なぜ、と。

 サブリナは、ため息をついた。やはり旅は、一筋縄ではいかないものだ。



第1幕終わり

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