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3.かの人の正体

 オーリウィル・オリービア伯爵は、夜会中に時間を設けてくれるそうだ。彼の体が空くまでは、しばし休憩時間となった。

「なんだか拍子抜けだ」

 通された個室で、サブリナは呆けたように言った。

 令嬢たちにいじめられたり、ダンスで恥をかいたり、王族に粗相をしてしまったりと、そんな想像をして1週間を過ごしたのだ。それなのに何事もなくあっさりと終わってしまった。

 あとは伯爵と話して、竜人の国への行き方を教えてもらうだけだ。

「オリービア伯爵はどんな人なんだ?クレイは、面識は?」

 サブリナが尋ねると、クレイは首を横に振った。会ったことはないらしい。「ですが、」と続ける。

「竜人との交流がある人ですから、この国の貴族には珍しく、柔軟な人物だと思いますよ」

 この国の貴族がどんなかは知らないが、サブリナは少し安堵した。先ほど会った国王を想像したのだ。オリービア伯も、あれくらい気さくな人なのかもしれない。

「失礼します。オリービア伯爵がお見えです」

 扉のノックの音と共に、王城の騎士から、オリービア伯爵の入室が告げられた。

 クレイが許可すると、扉が開く。

 現れたのは、細身で若い貴族の男だった。彼がオーリウィル・オリービア伯爵だ。

 細い縁の眼鏡に切長な目。きっちりと後ろに流された短髪。

 礼儀に則って挨拶を交わす。無駄な雑談や無難な微笑みは一切ない。

 サブリナはなんとなく、かつて働いていた商家の経理担当に似ていると思った。彼は神経質な人だった。

 ソファに座って早々にオリービア伯爵は言った。

「陛下との挨拶を拝見しておりました。そこで貴方が本物のクレイ・クロウリー殿下だと確信し、この時間を設けさせていただいた次第です」

 疑り深いのか、慎重なのか。しかし悪びれもせずに正直に話すところは、サブリナには好感が持てた。

 クレイが丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございます。三年間お待たせしてすみません」

「いえ。竜人の時間感覚は我々と少々違いますから。ウォールート国にも問い合わせたのですが、『大丈夫だろう』としか返答がなく。貴方の手紙がきたときは安堵しました」

 伯爵はテキパキと早口で喋るので、おっとりとしたクレイの口調とテンポが違いすぎた。サブリナは目を白黒させる。

「サブリナ嬢にも感謝します。囚われていた殿下をお助けいただいたとか。並の人間にできることではありません。例の村の教会について神殿に確認したところ、数週間に告発があって調査中だそうです」

「いえ、私は」

「とはいえ平民の女性となれば竜人国への随行は難しいでしょう。殿下には騎士を数人手配します。出立はいつになさいますか」

 クレイとサブリナは同時に立ち上がった。伯爵の流れるような言葉を止めたい一心だった。

 ただ、二人とも言葉が出なかった。

 サブリナとしては、クレイが護衛をつけて母国に帰れるならお役御免だ。クレイとしても、サブリナの自由を奪っている後ろめたさがなくなるはずだ。

 けれど、本音では二人の旅を続けたかった。

 立ったまま黙って顔を見合わせる二人に、オリービア伯爵は首を傾げた。

「どうされました?急ぐ旅でないなら、しばらく王城に逗留されてもいいのではないですか?部屋を用意しましょう。ああ、急ぎなら明後日には発てるよう手配します。他に何か必要なものは?」

 ツラツラとまるで台本を読み上げるようだ。伯爵は言葉だけでなく思考も止まらなかった。

「なにか懸念がございますか?もしかしてお二人、恋仲になったとか?我が国と違ってウォールート国は身分制度が緩いですが、王族としてはどうなんでしょう。とはいえ我が国の女性が相手となれば私にも責任がありますね」

 彼の思考はとんでもない方向に飛んでいった。

「ままま待ってください!違いますから」

 サブリナは両手を突き出して止めようとした。クレイはポカンとしている。

「ああ失礼。実はサブリナ嬢も貴族だったりするのでしょうか。ひとまず今夜お休みになるお部屋へご案内します。寝台で寝る時ってその羽どうするんですか?」

 伯爵は全然待ってくれなかった。こちらの言葉が、彼に全く響かない。

 サブリナが困り果てた顔でクレイを見ると、彼は諦めたように笑った。

「竜人はみんなうつ伏せで寝ます……」

 結局、伯爵の質問攻めのうち、まともに回答できたのはそれだけだった。

 オリービア伯爵は、竜人族との交流がある、国一番の変わり者だったのだ。

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