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PURGEー89 天敵!!

 自身の異能力によって床に倒れているしかなかった黒葉が、突如身体を起き上がらせて太刀を受け止めた。精道は目の前の事実に驚き、汗が流れた。


「貴様、どうして起き上がれる?」

「解除したって事なのかな? 自分でも、分からないけれど……」


 そう、この事態は黒葉自身にとっても驚きだった。当の本人も、精道の異能力については理解していない。本当に偶然、何かのきっかけが起こって重さを取り払うことが出来たのだ。

 だがたまたまとはいえ、重さを取り払えたことには何か理由はある。黒葉は精道に睨みは聞かせたまま考える。


(がむしゃらに動こうとして動けたという事は、俺の異能力で解除で来たって事なのか? どうにしても、動ける今のうちに攻撃を!)


 黒葉は掴んだ太刀をそのままにすることで精道の攻め手をなくし、今度こそ無力化しようと黒葉は手を伸ばした。

 だがここでも、何故か何もない空中で壁に当たったかのように手が止まってしまう。


(やっぱり触れられない)

「甘い!」


 精道は動きを止められた黒葉に手を触れ、彼の身体を再び重くした。


(やっぱり重くなる……だけど俺の異能力なら……)


 黒葉がふと自分の周りに手を回すと、自分の身体の傍も空中で手が止まった。


(俺の身体も見えない何かを纏ってる。奴や木花さんも同じものを纏っているんだとしたら!)


 殴り掛かる精道の攻撃を太刀を放しながら後ろに回避する黒葉。精道は二度も自身のかけた重りを外された事に驚き、同時にイラついて舌打ちを付いた。


「こいつ、また動きが!」

(まさか、俺の異能力に気づいたっていうのか? いや……)


 精道の異能力は『大鎧(ヘビーアーマー)』。自身、及び触れた相手に目には見えない大鎧を纏わせる能力だ。自身の防御力を上げる事はもちろん、相手に着せることで一気に重量を増やし、大きな混乱をもたらすことが出来る。


(気付いたところで、俺が着せた大鎧をそう簡単に外す事など出来ないはず。どうやって?)


 通常であれば、精道の着せた大鎧は実際の武士が着ていた着方と同じものであり、そうすぐに外せるものではない。

 だが精道は知らなかった。目の前にいる黒葉が、その点において異常だという事に。


 精道が警戒を強める中、黒葉は真正面に飛び出して来た。その速力は大鎧を着せられているものとは明らかに違う軽快なものだ。


(やはり鎧を外している! だが奴がどんな異能力を持っていたとしても、俺の鎧はそう簡単に破壊出来ない! 一枚でダメなら、今度は十枚でも二十枚でも重ね掛けして潰してやればいい!)


 判断を決めた精道は、次に黒葉が自分の間合いに入った瞬間に動き出し、お互いに勝負に動いた。

 大鎧の重ね掛けをし、重さで潰しにかかろうとする精道。そんな彼に対し、黒葉は正面から左手を伸ばす。


(馬鹿め! お前の異能力のカラクリが分からなくとも、お前が俺に触れられない事実は変わらない。俺の方がお前に触れて、今度こそ終わりだ!)


 音尾が目を震わせて見つめる中、男二人の内、一人の手が相手の身体に触れた。だが触れる事が出来たのは、精道ではなく黒葉の方であった。


「行くぞ!」

「ナッ! 何故俺に触れることが?」


 精道は知らなかった、黒葉の異能力を。()()()()()()()()()()()()()()()悪癖を持つ、『分解(パージ)』の力を。

 意識した上でのその効果は、見えない大鎧を突破するなんて柔なものじゃない。元々着ていた衣服や手に持っている太刀でさえ弾け飛び、その場には布一枚残らないまさに無防備の姿にされた。


「馬鹿な……俺の鎧が、こんなにも簡単に……」

「理屈は分からないけど、お前の異能力は何かを自他に着せるものなんだろう? 初めて思ったよ。自分の異能力が嬉しく思う事なんて!」


 精道に突き付けられた事実。黒葉は、自分にとってこれ以上ない『天敵』であるということだった。

 防具も武具も手元から離れてしまった精道に、黒葉は後方に引かせていた右拳を握り締める。


「音尾さんの悔しさ……御伝流(がでんりゅう)への侮辱の数々! こんな部外者の拳一つじゃとても間に合わないものだと思うけど……」


 精道は目の前で堂々と振るわれる拳を前に、自身の状況への困惑から動きが遅れてしまった。

 次の瞬間、黒葉の拳は精道の顔面をめり込む程に強く激突し、力強く吹き飛ばしていた。


「一発殴らなきゃ、気が済まない!」


 黒葉の怒りの一撃は、精道を壁にぶつけ穴を開けてしまう程の威力があった。その上で精道は頭を畳に激突させて気絶。同時に音尾が着せられた大鎧も消滅し、彼女の足を駆け出させた。


「春山君!」

「木花さん……本当に良かった。間に合って……」


 音尾に声をかけている最中、黒葉は突然力の糸が切れたのかのように足元がふらつき、気を失ってしまった。体制が崩れる彼を音尾が駆け寄り受け止めようとするも間に合わず、一緒になって潰れてしまったのだった。


 意図しない形で音尾の胸に頭を乗せて眠る黒葉。音尾は最初恥ずかしさに顔を赤くしてしまうも、すぐ彼に対する感謝が溢れて来たのだった。


「ありがとう。また、助けてもらっちゃったね……」


 この勝負、黒葉の勝利で幕を閉じたのだった。

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