PURGEー8 初任務!!
上層部から送られてきたメールに気付いた途端、それまで気まずい雰囲気で朝食を食べていた三人の気持ちは一瞬にして切り替わった。
全員が一斉に立ち上がり、最低限の準備を整えつつメールの内容を確認しようとする黒葉だったが、その前に小隊長である信乃が声に出して読んだ。
「今回の任務は、保護区域から出てしまった異世界生物の保護です! 市街地に侵入してしまったので早急に保護をお願いしますとのことです」
次警隊は異世界間において罪を犯した犯罪者を逮捕することを基本に、各隊ごとにそれぞれ特殊な役目がある。
黒葉達が所属する六番隊がいるのは『生物の世界』。この宇宙にいる様々な種類の生物達が諸事情によって元の世界に帰れなくなった動物、侵略活動に利用されていた怪獣、禁止実験に利用されていた植物などが保護され、生活している世界。
黒葉達の特殊任務は、この世界に住んでいる生物達の世話や、異世界生物の保護も含まれているのだ。
各小隊の住処がバラバラに置かれているのは、それぞれの近くに動物の保護区
(次警隊に入っての初仕事。緊張する……いやダメだ! それで足を引っ張っちゃいけない! 気を引き締めて無事こなすんだ!!)
頭の中で自らに気合を入れて拳を強く握る黒葉。体も心も準備を整えた彼は信乃に今回の仕事の具体的な内容を聞いた。
「それで、今回保護する生物は一体何?」
信乃はメールの文章をもう一度読んで確認しながら答えた。
「ええっと……あ、スライムだって」
「了解。スライム……ん? スライム!? スライムってあのスライム!!?」
「はい、私達がゲームでよく見るあのスライムだよ」
なんだか聞いた途端に心の何処かでテンションが下がってしまった黒葉。そんな彼の脇腹にリドリアの肘打ちが入り、諫められた。
「気を引き締めなさい! どんな生物にもしっかりせっする。この仕事はそうじゃないとでしょ!?」
「はい……すいません……」
ごもっともな言い分に反省した黒葉。信乃はそんな二人に少し笑みを浮かべてしまうも、リーダーである自分が気を緩ませてはいけないと口角を下げてもう一度気を引き締めて玄関に立った。
信乃は扉の横にある小型のタッチパネルに触れて操作すると、扉の枠が一瞬光り輝いたように見えた。
「これって?」
疑問を浮かべる黒葉にリドリアは呆れたような顔をして説明した。
「アンタ説明聞いてなかったの?」
リドリア曰く、信乃の近くにある機器は操作することで座標を指定し、扉を開けた先の空間をワープさせる代物らしい。
保護区内の仕事ならダ普通に外に出るのだが、今回の場合は情報を元に探すしかないため、数分前にスライムが確認された場所に転移する手はずになっているのだ。
「それじゃあ行きましょう! 森本小隊、初任務です!!」
信乃が扉を開き、三人が外へ出る。ここで黒葉が外に出て見た光景は、確かにクオーツに家に連れてこられたときとは明らかに変わっていた。
広い道の中。天井にはアーチがあり、左右には様々な個人経営店が並んでいる場所。俗に言う商店街のそれだ。黒葉が後ろを振り返ると、自分達が出てきた場所には扉は消え、細い路地があった。
黒葉がまだ慣れない転移に対し少々興奮気味な反応を見せる中、信乃は黒葉とリドリアの前に出て振り返った。
リドリアが再び黒葉を諫めて前を向かせると、信乃が二人に手の動きも交えながら説明を入れた。
「十五分前、右手の先にある八百屋で発見されたのを最後に姿を消したとのことです。私達はここで一時解散し、発見次第連絡をお願いします。それでは、よろしくお願いします」
信乃の説明が終わるのを合図に三人は一時解散した。
迷子のスライムを探す簡単な仕事と黒葉はそう高をくくっていた部分があった。だが実際に探し始めると、人も物も多い商店街の中での半透明な小型の軟体生物一匹の捜索はかなり至難の事だった。
(人に聞いても周辺を細かく見回しても全然見つからない……舐めてた。スライムの事……)
既に一時間経過気を張り続けている黒葉は、疲れで注意が散漫になっていたのか近くの物陰にて何かが動いた事に気が付かなかった。
一方のリドリア。歩きながら周りを見る彼女の瞳は何故か少し光り輝いていた。
これも彼女の『幸鳥』の能力の一つ<鳥目>。鳥が持つ鋭い視力を起動させ、人間には見えないはるか遠く、細かいものや動きまでが視認できる。
もっとも普段の人間の姿でこの視界を維持するのはかなり疲労するため、適時休憩を設けて細かく切り替える必要があるため、そう便利なものという訳ではないのだが。
「ふう……スライムって変形できるし狭いとこは入れるし半透明。だけど……」
リドリアは右に視線を向けたとき、店の間の路地の奥の闇に微かに動く何かを視認した。
「見つけた。そこね」
リドリアは足を走らせてすぐに路地の中に入り、鳥目を解除してもハッキリ目標が見える距離にまで近づいた。
「こんな行き止まりの路地の中で見つかるなんてラッキーね。さ、アタシに大人しく捕まってもらおうかしら!!」
見ようによっては小動物相手に上から目線で威張っている中々にシュールな光景になっていたが、初仕事が自分の力で調子良く進んだ事実が彼女を調子付かせているのだろう。
リドリアが一人スライムを追い詰めていたころ、彼女の連絡を受けていないために別の場所を捜索していた信乃の元に一通のメールが届いていた。
「メール? 追加通達?」
さっそくメールを広げた信乃。ここで内容を見た彼女は目を丸くし、そして一気に焦らせた。
「マズい! この情報が本当なら……リドリアさんが、危ない!!」
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