PURGEー79 技術!!
闘技場にて信乃と音尾による激戦が繰り広げられている中、元々森本小隊用に用意されていた部屋の中に一人残っていたレジア。
彼女は遠くからとはいえ明確に音尾に睨みつけられたことで、少々気が落ちていた。
そんなレジアは、頭の上に手を置かれてはじめて下手に自分以外の人物がいることに気付いた。
「誰ですか?」
「随分としょげてるわね。アタシに負けたの、そんなに悔しかった?」
レジアが顔を上げて見たのは、身体に包帯を巻きつけたままのリドリアだった。隣には、廊下から戻って来たのであろう複雑な表情の黒葉の姿もある。
「あら、何を言っているのかしら? 私はそんなことで悔しがったりしませんわ」
「へえ、その割には凹んでいるように見えるんだけど?」
リドリアの意地悪な表情に黒葉の方が呆れてしまう。レジアはここでリドリアからは視線を逸らし、不貞腐れつつ素直に告げた。
「そんなんじゃありませんわ。ただ、小隊長に睨まれたのが、答えただけです」
「小隊長? アンタ何したのよ」
「勝たせてあげたかっただけですわ。少しでも有利になればと、貴方方の小隊長に、春山隊員と木花小隊長の仲を教えて上げただけで」
「はい!?」
「え! 関係って何!? 知り合いなの二人!?」
「ああいや、そのことは……とりあえず今は置いといてくれ!」
ここに来て新情報を告げられ、表情が一気にパニックになるリドリア。黒葉は何とか抑える中、レジアは続けた。
「あの人は、この戦いに勝たなくちゃいけないんです。でも、やはり卑怯な事は認めてくれないのですわ。そういうところに、私達は惹かれたのですが」
レジアの眼差しを見て、リドリアは彼女が本当に音尾を慕っている事を感じた。
「そう。アンタが惹かれるなんて、中々に魅力のある小隊長なんでしょうね。
でも見ての通り、勝負はもうじき私達が勝つわ。剣術使いが剣を取られたんですもの」
それはそれ、これはこれとばかりに現状を告げるリドリア。しかしレジアは彼女の言葉を鼻で笑ってみせた。
「はたして、それはどうでしょうか?」
レジアの自慢げな台詞に、視線を闘技場の方へと戻すリドリアと黒葉。
同時刻、信乃は異能力によって奪い取った音尾の太刀を振り上げ、反撃を仕掛けていた。
至近距離。それも音尾は技の最中に太刀を奪われた形になり、数瞬動きが遅れている。信乃にとっては絶好の機会。観客も含め、誰もがそう思っていた。木花小隊の面々以外は
「<御伝流 紫陽花>」
音尾は太刀をなくした拳を握り、信乃の攻撃よりも素早く連続で拳を叩きこんだ。想定外の鋭い攻撃に信乃は防御出来ず、全て直撃して太刀を落としてしまった。
「太刀を奪えば隙を作れると思ったのでしょうか? 残念ながら、武器をなくしたときの対策もある」
隙を突こうとし、逆に手痛い攻撃を受けてしまった信乃。吐き気を感じ膝を崩す彼女に、音尾は太刀を拾い話しかける。
「位置操作の異能力、素晴らしいと思います。しかし私の技術は、そういう異能力に対抗するために出来ている」
「技術?」
信乃は音尾が自身の技の事を『異能力』ではなく『技術』と呼んだことに引っ掛かりを感じた。音尾は良い機会と感じたようで、自ら語り始めた。
「『御伝流』は、私の異能力ではありません。多世界での異能力を持つ敵に対し、能力が弱い、持たない者が対抗するために編み出された武術の一つです。故に、様々な異能力に臨機応変に対応出来る」
説明を交えつつ再び太刀を構える音尾。直後に彼女は『牡丹』を繰り出すが、信乃は当たる寸でのところで瞬間移動し、回避した。
(かわした。まだ異能力を使う余力が残っているとは、流石は小隊長になった人だ)
信乃のタフさに感心する音尾。対する信乃の方も、先程の説明で思ったことを率直に聞く。
「技術……では、貴方の異能力は別にあるのですか? 黒葉君の小学校時代のクラスメイトなら、皆何かしらの異能力を持っているはずです!」
「ッン! ……えぇ、多分」
音尾の台詞に一瞬間があった。信乃がここでも拭い切れない違和感を感じる。しかし今は戦闘中、信乃は気持ちを切り替えて勝利への策を改めて巡らせる。
(太刀を奪っての不意打ちは防がれてしまった。今も隙のない身の構え、本当に鍛え続けた事が伝わってくる。そんな人に決定打を打つには……)
一方で音尾も、信乃への対策に頭を回していた。
(彼女の余力はどのくらいなのか? ここで桜吹雪を使っても、位置入れ替えをされれば今度こそこちらにダメージが入りかねない。
とはいえ、紫陽花を直撃した身体で異能力の連発は出来る余力はないはず。だとすればここで決めるには……)
音尾は左手で鞘を持ちつつ太刀を納刀し、俗に言う『居合』の構えを取る。しかし膝は曲げておらず、事前に信乃が瞬間移動をしたときに方向転換出来るようにしてある。
「次で決めます」
音尾からの宣言。言葉の重みからか、ハッタリでない事が伝わってくる。だが信乃の方も、異能力を発動する際の構えを取る。そして彼女も、鋭い目つきで音尾に告げた。
「私も、次で決めます!」




