PURGEー7 信乃!!
部屋の鍵を開けて現れた、丸みを帯びた優しさを感じる目付きに艶のある長い黒い髪を三つ編みに纏めて右肩にかけた清楚な美少女。胸の大きさはリドリアのように大変立派という訳ではないが、スレンダーなボディもまた魅力的だ。
そんな女性と出会って早々にお互いの名前を呼んだ黒葉と信乃。二人はお互いに広がった口を抑えることなく話を続けた。
「驚いた! まさか春山君がここにいるだなんて……よかった、合格したんだね」
「それはこっちの台詞だよ。小隊長が後から来るとは聞いていたけど、まさか委員長が来るだなんて」
「もう、その呼び方はちょっと前までのお話よ。高校も卒業したんだし」
片目を閉じて右手の指を軽く差しながら指摘をする信乃。黒葉はそんな彼女のしぐさが可愛いと思いながらも自身の後頭部に手を当てて軽く謝罪をした。
「アハハ……ごめん。ちょっと癖が抜けなかった」
「フフッ……全然そこは大丈夫。でもなんだかちょっと安心したな。私初めて小隊長をすることになったから、どんな人が来るのか不安だったの。知り合いが来てくれたのなら心強いから」
「心強いだなんてそんな。でもまあ、俺もこれからは頑張るよ」
「ちょっとちょっとちょっとおぉ!!!」
二人だけの空気感を作って会話に浸っていた黒葉と信乃にモヤ付きを感じたリドリアが急いで服を着て会話に乱入して来た。
「リドリア」
「入っていきなり何なのこの感じ! この人、黒葉の知り合いなの?」
少々激情に駆られているリドリアの態度が失礼ではないかと心配する黒葉だが、水希は特に指摘することはなく自己紹介をした。
「貴方もこの小隊の隊員かしら? 初めまして、森本信乃です。春山君とは高校時代の同級生だったから、ちょっと思い出話をしちゃいました」
「思い出話って……」
「俺を次警隊の入隊試験に推薦してくれたのも、森本さんなんだ」
「ふ~ん……」
ジト目になってマジマジと信乃を見るリドリア。一方の信乃が笑顔を向けると、リドリアは黒葉の前に立って信乃に注意をする。
「とにかく気を付けて! この男に触れたら」
「服が脱げてしまう、ですね」
「え!?」
「私も前にはだけちゃったことがあるので……でも、それについては全然織り込み済みだから大丈夫」
「ナッ!!」
リドリアはマウントを張ろうとして逆に張られてしまった事態に悔しそうな顔を浮かべた。対する信乃はリドリアに挨拶をしなければと礼儀良く手を差し伸べて握手をしようとする。
「グヌヌ……」
「よろしくおねがいします、リドリアさん」
リドリアは一瞬拒絶しかけるも、好意的な行動は素直に受け止めなくては淑女としての立場がないと考え、目つきを戻して手を握った。
「こちらこそ……よろしくお願いします、森本小隊長」
握手を交わしとりあえずの落ち着いたところで、リドリアは何処か不機嫌なままに自分の寝室へと戻っていった。
またしてもやらかしてしまった気まずさから黒葉も彼女に話しかけることは出来ず、夜も遅く疲労も溜まっていた事からまずは寝ることにした。
「ハァ……本当に、凄く長い一日だったな……」
自分で呟いたまま、あるいはそれ以上の疲労からか黒葉はそこから一分も経たずに深い眠りにつくも、次に目を覚ましたときは窓の外はまだ薄暗い早朝だった。
「んん……まだこんな時間、思ってたより早く目を覚ましてしまったな。ファ~……」
微妙に頭が覚醒しきっていないながらも、再び寝付くには微妙な時間。これならいっそシャキッとした方がいいのではないかと判断した。
服を着替え、少々寝ぼけが残るながら部屋から出て移動する。
扉が閉まっていた先の洗面台がある脱衣所。昨夜この扉を開けて風呂上がりのリドリアと遭遇してしまうアクシデントがあったこともあり、今回は慎重に扉を少しずつ開けていく。
少しして脱衣所に人がいないことを確認した黒葉はほっと一息ついて脱衣所の中に入ると、歯を磨いて洗顔まで行った。
「フゥ……さっきよりは目が覚めてきたかな」
黒葉が顔を洗ってスッキリした丁度その時、後ろから物音が響いて来た。何だと思って黒葉が後ろを振り返ると、そこには……
「は……春山君!!?」
後ろに現れたのは、なんと隠すものが何もない一糸まとわぬ姿の信乃だった。
「い、委員長!!?」
思わず昔の呼び方をしてしまう黒葉。驚きからか本能からか凝視してしまうその姿は、Cカップ程のバストにスラっとした腰回り。そして小ぶりながらハリのある安産型のヒップ。
ただでさえ一目で魅力に捕らわれてしまいそうな身体つきの上に、水に濡れた信乃の肌は更に数倍の妖艶さを醸し出していた。
実のところ過去に能力が暴発して信乃の下着姿を拝んだ事のある黒葉だが、生まれたままの姿となると話は全く違う。
わずか数秒がすごく長く感じる二人だったが、長く短い沈黙はすぐに二人が我に返った事で進み、信乃は顔を赤面させて震えた声を出してしまう。
「アッ……アアアッ……アアァ!!……」
この後の展開が何となく予想が付いた黒葉は頬を赤くしつつ咄嗟に目線を逸らして弁解しようとする。
「アッ! いやそのこれは!! 不可抗力で! わざととじゃないんだ!!」
「いっ……」
黒葉の咄嗟の弁解はやはり意味をなさず、次の瞬間彼は信乃に顔面パンチを入れられてしまった。
「イヤアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「アガアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!」
脱衣所から信乃の羞恥の叫びと黒葉の激痛の叫びが響き渡った。
そこから少し時間が経過し、テーブルの上に用意された朝食を食べていた三人。それぞれがそれぞれで不慮の事故に遭ったがために、食卓の空気が何処か気まずいものになっていた。
特に騒動の中心にいた黒葉は一番気まずさを感じており、かじった食パンを飲み込むことにさえ動作がゆっくりになり苦労していた。
だがずっとこのままという訳にはいかない。黒葉は決心して一度咳ばらいをすると、とうとう二人に対してしゃべりだした。
「ごほんっ!!……あのさ!」
ところが黒葉の勇気はむなしく三人それぞれのデバイスに入って来た着信音によってかき消されてしまった。
黒葉は不機嫌に目を細めながらスマートフォン型デバイスを確認すると、そこに送られていた電子メールに目を丸くした。
「任務通知!?」
「いよいよね……」
森本小隊の初の仕事が始まる。
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