PURGEー4 分解!!
目の前で起こっている現状に驚くリドリア。同じく拡大映像で映った彼女の足指を見た観客達が動揺する。
「あれ、令嬢の足の指じゃ……」
「マジか! 切ったのかよアイツ!?」
「でもいつの間に切断したの? そんな素振りどこにもなかったけど……」
模擬戦の決闘で身体欠損が起こった事態に観客の全員が血の気が引くような思いになる。
だが当の被害を受けたリドリアの動揺は、観客のものとは異なっていた。
(なんで!? 足の指が切られたはずなのに……痛く……ない!?)
リドリアが今一番驚いていたのは、普通足の指を失ってそれに気付けば次第に体に激痛を感じるはずでありながら、それを全く感じていない事だった。なんなら今でも足は生えている感覚があり、曲げようとすれば動かしている感覚すらあった。
「これは! 一体!?」
自分の身体に起こった異変。これに黒葉は爪はないながら強靭な足の蹴りを受けたショックから息を整えながら口を開いた。
「俺の能力は……<分解>。触れた相手の身体から、部位ごとにパーツを体の感覚を繋げたまま取り外すことが出来る。
普段は反射的に服をパーツと判断しちゃって脱がしてしまうけれど……集中すれば、腕や足をプラモデルのように分解できる!!」
説明を受けてマズいと感じたリドリアが足を引くも時すでに遅く、黒葉に蹴りを入れていた右足は付け根から外されてしまった。
「クッ!!……」
続けて触れられてはならないとすぐに飛行するリドリアだが、足を片方失ったのは彼女にとって大きい損害だった。
リドリアの手法は高速飛行による翻弄からの足の爪による強烈な一撃で短時間で勝負を決める。だがその彼女の決まり手になる鉾が半分失われたとなると、リドリアを動揺させるには十分なものだった。
(まさか足を丸ごと外されるだなんて……甘く見ていた! あの男の事を!!)
リドリアがダメージを負わされた事態には観客も大いにざわついていた。
「オイ! 一瞬で足を外したってのか!?」
「アイツすげぇ能力持ってんじゃねえか!?」
「もしかしてあの男勝っちゃうんじゃないのか!?」
別室では入間が観客の手のひらを返したような反応に微苦笑を浮かべていた。
「あ~あ~、分かりやすく意見を変えて……最初は能力の事で一方的に差別しておきながら」
「いくら努力や実力があれど、人は良く知らない人物を目で見えるもので判断してしまう。悪癖ですね……」
隣のクオーツは表情を変えずに話を繋げると、とある人物を思い浮かばせながら続ける。
「時に見た目では見えない強さがある。彼、春山黒葉の見えない強さはいかほどなものか」
「もちろん、リドリア・アイズの方もな」
闘技場では、手に触れる距離に近付けない黒葉とうかつに仕掛けられないリドリアはお互い攻められず膠着状態になっていた。
だがこのままでいては決着がつかない。黒葉は一度体制を低くすると立ち上がった途端に腕を振るって何かをリドリアに投げつけた。
(来る!)
リドリアは微かに動いてこれをよけて飛び道具の正体を見た。それは何処にでもある、普通の小石だった。
(小石? こんなものなんで)
そこから続けざまに小石は投げ続けられていく。小ぶりな攻撃に何度も回避するも、どうにも違和感がぬぐえないリドリア。
その正体は一分程してようやく判明した。投げられている石の大きさが段々と大きなものにすり替えられていったのだ。つまり回避する動きは自然と大降りになり、その分リドリアの消耗は剥がしくなる。
事実既にリドリアは息を荒くし、羽の動きが鈍くなってきていた。
この段々と石を大きくしていくのは黒葉の分解によるものだった。最初はそこらに遭った砂利を投げていた彼だが、途中からは床を分解し徐々に大きな石を用意していた。
(私を疲れさせて落ちたところを狙うつもり? でもそれなら甘い!)
リドリアが思考を回している最中、黒葉はぶつかればただでは済まないであろう大きさの石を力いっぱいに投げつけた。
だがリドリアはこれに回避行動をせず真正面から突っ込んできた。残っていた左足の蹴りで石を破壊した彼女は黒葉はこれに動じたのか足を動かすことすらままならない間に間合いにまで入られた。
「こざかしいまねはここまでね。春山黒葉! 覚悟!!」
次の瞬間、闘技場内に血が飛び散る負傷が発生した。
この光景に観客は目を丸くして黙り込む。負傷したのは黒葉ではなく、リドリアだったからだ。
「なんで!? アタシが……」
リドリアが負傷した右脇腹に目を向けると、突き刺さっていたのは先程黒葉に外された彼女自身の右足の爪だった。
「これは! まさか……」
驚くリドリアに黒葉は血が頭に上った興奮気味に口を開いた。
「俺の能力は手に触れないと使えないことは重々分かっている。だから能力を応用したこざかしいやり方も当然修行したさ」
(石を拾う最中にアタシの指を! 石を何度も投げたのはそっちにアタシの注意を引くためのフェイク!!)
「これで、二回目の大ダメージだ」
「舐めるなぁ!!」
リドリアは腹の痛みを無視して左足を大いに振るい、攻撃に集中して防御がおろそかになっていた黒葉の腹を左足の爪で切り裂いた。
「ガァ!! そっちこそ、俺を舐めないでくれよ!!」
倒れると見せかけて黒葉はリドリアの右腕付け根に触れ、彼女の右腕を分解した。
「ナッ!!」
咄嗟にもう一度距離をとるリドリアだが、方羽をやられたことでもう飛行は出来ない。
黒葉、リドリア共にもう後はなく、互いに出せてあと一撃といった様子だ。
「お互いボロボロね」
「そうだな……」
リドリアは残っている片足に力を貯めつつ黒葉と会話する。
「謝罪するわ。アンタの実力を」
「ありがとう。俺も素直に凄いと思った。アイズさんの力。今の高速移動も、相当努力したんだろうなって」
「その言葉、素直に嬉しく受け取るわ。だけど……勝ちは譲れない!!」
膝を曲げるリドリアの足から強烈な力を感じとる黒葉。彼女がこの一撃で決着をつける気であることを察した。
「俺も、脱退するわけにはいかないので!!」
「アタシの攻撃が届くのが先か。アンタに分解されるのが先か。結末は二つに一つ……」
数秒後、近くの砂利が音を鳴らしたのを合図にリドリアは前方に飛び出した。さっきまでの拘束高速移動とは比較にならない、文字同に目にもとまらぬ速さで接近する彼女に、黒葉は右手を前に出し同じく飛び出した。
「<鳥爪 粉砕>!!」
「<分解撃>!!」
二人はすれ違い、巻き起こった煙は二人を包み込んだ。カメラ映像にも様子が見えず、観客がどちらが勝ったのか気になる中、煙が部分的に晴れて見えたのはリドリアの顔だった。
「……勝ちね」
彼女が呟いた台詞に観客が彼女の勝利と受け止めた。だが……
「次は……負けないから……」
直後にリドリアは倒れた。煙が完全に晴れた先に観客が見たのは、めくれる程度の中途半端に外されたリドリアの左足が、内側に折り曲げられて彼女自身の腹に突き刺さっている姿。そして右手から大量の出血をしながらも、何とか立っていた黒葉の姿だった。
この時点で決闘の勝敗は決し、機械アナウンスが告げた。
「勝者! 春山黒葉!!」
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