PURGEー48 脱出!!
蜘蛛達がお互いの蜘蛛糸に絡まり、黒幕であった女性も確保した黒葉と信乃。こうなっての次の問題は、この蜘蛛の島からの脱出だ。
「後はこの空間からの脱出だ」
「でもその相手は気絶させちゃったし、方法を聞き出そうにもしばらく待つしか……」
信乃が脱出方法を考えていると、黒葉はおもむろにデバイスを操作して手元に何かを出現させた。
信乃が近づき物体を見ても、それはエメラルドグリーン色をした四角い物体としか思えない形状だった。
「えっと……それ、何?」
「あぁ……いや、こういう時に使えるご都合アイテム……かな?」
黒葉は信乃が忘れている彼女の姿を見て動揺し視線を逸らし、誰かから借りたような微妙な台詞を吐きつつ敵側が落としていったデバイスを拾い上げて出現させた物体を傍に近付けた。
するとスリープ状態になっていた相手側のデバイスが突然起動し、表示されている文字をも黒葉や信乃に分かりやすい日本語の文字に変わった。
「えぇ!? これって一体!?」
「とある自称ドドドドド天才美少女と出会った縁で貰ったチートアイテムというのかな?」
「ドドドド……ド天才美少女?」
信乃の姿の事について言うタイミングを失った事に汗をかく黒葉曰く、この物体は電子機器用のマスターキー。何かしらの事情で敵側の電子ロックやセキュリティを接触させるだけで解読、突破してしまうという優れものらしい。
「そんなご都合主義な……と、今目の前で行われていると信じざる負えないね」
信乃がここに来て出てきた超便利アイテムに若干苦い笑いを浮かばせつつ見ているものの、黒羽は自分に対し随分わかりやすくなった敵のデバイスを操作し画面を動かす。
すると数分もしない間にデバイスの中に空間からの脱出用の選択タグを発見した。
「これだ! (感謝します! ユリさん!)」
黒葉はこの場にいない人物に感謝の思いを感じながらタグをタップ。すると次の瞬間に海の水が震えだし、渦を巻いて複数個飛び出した。
「えっ!?」
てっきり脱出するだけだと思っていたところに突然の事態に後ろを振り返った黒葉と信乃が目を丸くして大きく瞬きをしながら反応する。
一瞬逃げようかとも考える二人だったが、そんな間もなく渦は高速で彼等の元に接近し文字通り渦に巻き込まれてしまった。
海水の勢いに押されて息が切れる思いになる二人。またしても一瞬気絶を擦る思いになった黒葉だったが、今回は自身の異能力を利用。口周りなど局所的にだけ水を弾き空気の層を生成することで呼吸しどうにか意識を繋いだ。
(また凄い勢い! なんとか、上手くいってくれ!!)
ほとんど抵抗が出来ない黒葉が祈る事しか出来ない中で数秒、体感感覚で長時間苦しんだような思いをし、次にハッキリ気付いた時には黒葉は抱えていた女性諸共海の水面から吹っ飛ばされるように飛び出していた。
「出れた! 地上!! でも……」
黒葉の懸念は出るところからすぐに移った。飛び出した勢いから現在いる上空。このまま砂浜に着こうものなら強烈なショックでダメージを受けることは確実だった。
気絶した女性を抱え、これ以上何が出来るのかと必死に考える黒葉。だが頭で考えるよりも重力による落下は凄まじく、黒葉の考えが纏まるよりも先に彼を容赦なく地面に叩きつけようとした。
「マズい!!」
恐怖した一瞬。しかし黒葉には心強い味方が傍にいた。彼のすぐ後ろに手同じく上空を待っている女性。彼女は自分の危機などを思考の端に追いやって腕を動かし構えを取った。
(大丈夫! 絶対に!! 私を救ってくれた貴方を助ける!!)
信乃は効果範囲ギリギリにまで近づいてすぐに自身の異能力を発動。衝突するよりも前に黒葉を無事に砂浜に着地させ、自身も瞬時に移動してみせた。
たった一瞬の出来事。しかし黒葉は自分の一瞬の移動にすぐに信乃のおかげであることを理解した。
「委員長……」
「良かった……間に合って……」
台詞を吐いた直後、信乃は空気が抜けた浮き輪が萎むように倒れた。
「委員長!」
駆け出す黒葉。するとそんな彼に一瞬だけ突風が吹き抜けるような感覚を感じて足を止めた。瞬きする間の一瞬。しかしこの合間に黒葉は抱えていたはずの女性の身柄が消えている事に気が付いた。
「いない!?」
「全く情けないことだ。ルルべ……この世界での実験を無駄にさせる気か!」
黒葉が耳に入った声に顔を向けると、全身を赤いフードで覆い隠した人物が女性をルルべと呼んで抱えていた。
「誰だ!?」
その人物は黒葉には目もくれずに再び風を起こし、目にも止まらぬ速さで消えていった。
取り残された黒葉は一瞬ながら見た人物の情報を整理した。
「一面真っ赤な服装……そして異能力持ち。そしてこの世界という発言。異世界人……」
整理の最中、黒葉の脳裏に過去に関わった三番隊の面々から聞いた事を思い出す。
「……まさか! あれが『赤服』!? 入隊試験に侵入して来た奴らと同じ……」
予想が立てられた黒葉だったが、今から追っても間に合わない。そんなことよりも信乃の事が心配になった黒葉は、彼女の肌を見ないように注意しつつ近付いた。
「委員長! 森本さん!!」
蜘蛛の戦闘時からの複数個所同時の位置移動。数は多く範囲も広かったことを考えると、信乃の身体にかなりの負担をかけていたことは想像が付いた。
「……ありがとう、森本さん。 ……いや、信乃さん」
声をかけられた信乃の表情は、少し柔らかいものになってた。
そして黒葉は冷静になって来た事で気付いた事があった。
「リドリア? レニ? 二人は何処だ?」
海水に飛び込まずこの騒動に巻き込まれていなかったはずのリドリアとレニの姿が見当たらなかったのである。
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その思われていた人物の片割れ、リドリアは機器に瀕していた。
その姿は明るい白いビキニからは打って変わり、より際どく露出の激しいホルスタイン柄のマイクロビキニに牛角のカチューシャを付けた姿。
そんな姿で彼女は悔しさから拳を強く握り、目の前の相手に舐め回すように身体を見られていた。
「クッ……」
「さあ、そろそろいただこうか。その素晴らしい身体をね」
邪悪な舌なめずりの音が静かな部屋に響き、リドリアから汗が落ちていった。
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