PURGEー46 待って!!
そして現在。黒葉は次警隊の隊員として任務に努め、たった今謎の島の中で自分を組織に誘い、そして救ってくれた信乃が目の前で落ち込んでいる。
自分の自信がない、自分に対して悪い言葉ばかりを口にする信乃に黒葉は真っ直ぐに目を見て自身の今に至る感謝を伝えていた。
「俺は、森本さんに救われて今ここにいる。それは、間違いのない事実なんだ!!」
「春山君……」
いざ面と向かって堂々と言われた台詞に信乃は目を丸くして固まる。最初は驚いた彼女だったが、次に体の中から湧き上がって来たのは、黒葉の言葉に対する暖かさだった。
「私……」
「森本さん!」
「……信乃」
「え?」
少しだけ間を置いた信乃は黒葉に対して小さく呟いた。黒葉が彼女の口にした台詞に豆鉄砲を食らったような顔になると、信乃は頬を赤くしつつ小さな笑みを浮かべてもう一度口にした。
「信乃でいいよ。黒葉君」
「森本さん!?」
「救われたのは私の方だよ。貴方のおかげで分かった。自分のやって来た事は無駄じゃなかった。意味があったんだって気付けた」
黒葉が瞬きを見てもう一度見た信乃の表情は、何処か迷いが吹っ切れたように思えた。
「君に救われるのは二度目だね」
信乃は優しく、何処か妖艶なように感じる声を出しながら黒葉に顔を近づけてくる。
「も、森本さん?」
信乃の行動に最初はそのままでいるも、だんだんと近付いて来る信乃の顔に流石におかしいと思った黒葉が動揺する。
「ちょ! ちょっと待って森本さん!? なんで顔を近づけて!!?」
黒葉は後ろに下がろうとするも信乃は彼の身体を砂浜に押し倒し、逃げ場をなくして迫って来た。
「お礼を……少しだけでもお礼をしたいから」
よく見るとお酒に酔ったような滑稽な表情。感情の上げ幅の差について行けない黒葉にそのまま潤んだ唇を近づけていく信乃に黒葉は咄嗟に眼を背けて目を回してしまう。
「ちょ! 待って委員長!? 何がどうなってそうしたいのかは分からないけどとにかく落ち着いて!!
ちょおおぉぉぉぉ!!!!」
黒葉が抵抗しようにも手を触れればまたしても信乃を脱衣させてしまう。どうすればいいのかと混乱しつつも思考を高速回転させていた黒葉は、視界に遭った違和感に気が付いて叫んだ。
「ちょちょちょ! ちょっとまって委員長!!!」
一つの事に整理が付いた途端に他の件については二の次にしなければと思わず信乃を突き飛ばしてしまう黒葉。更に彼はその場に立ち上がり、目線を高く上げる。
「やっぱりだ! これは……って!? しまった!!」
黒葉は信乃の事を思い出してすぐに駆け寄ると、彼女は火照った表情で半分閉じた目をしていたが、着ている葉っぱ水着がはだけた途端に目を丸くした。
「ん……って! 私!! 裸!? いや、そんなことよりさっきの!! 私! 私ぃ!!!」
文字通り穴があったら入りたいとでも言いたげなテンションになって背中を向けしゃがみこむ信乃に黒葉は視線を逸らしつつも仮説を口にした。
「お、落ち着いて委員長! 多分さっきのあれは、委員長が着ていた葉っぱの効能なのかも! いや、そんなことより分かったんだ! 聞いて欲しい!!」
「えぇ?」
立て続けの混乱に体中が真っ赤になりそうな信乃だったが、さっき自分の小隊長としての姿勢を改めて理解させてくれた黒葉に対して示しがつかないと強引に気持ちを整えて目線だけでも彼に向け直す。
「そ、その分かった事って?」
黒葉の方も信乃からの返答に気持ちを落ち着かせつつ、恥ずかしさは残りつつも何故か信乃に近付いて小さめの声で話した。
「俺、この島に来て目覚めたときに見たものにちょっとだけ引っかかった事があったんです」
「引っ掛かり?」
信乃が聞き返すと、黒葉は隠すように屈みながら上空に指を差した。
「あの空模様。俺が来たときには大きな雲が三つ、小さな雲が五つ浮いていたんだ。そしてさっきも、空を見たときの景色がまるで変っていない。
流石に向きによっての位置は変わるけど、右にも左にも、流れていないんだ。絵で描かれていたようにその場に張り付いている」
「雲が同じ場所に張り付いているって事?」
「なのに空の色だけは変化してる。考えられるとしたらこれは!!」
黒葉が信乃に仮説から導き出される答えを捻り出そうとした直前、突然二人の近くにある木々が大きく揺れ出し、自身のような感覚に襲われた。
「ウワッ! 何!?……」
(地震!? 何でいきなり? いや偶然にしてはタイミングが良すぎるよなこれ!?)
もしやと思った黒葉が島の内部方向に目を向ける。すると木々よりも更に少し上部の空間にさっきまではそこにいなかった一人の人物が二人を見下すような態度で立っていた。
しかし黒葉と信乃は人が何もない空中に立っている事より、別の事に驚いた。
「あの人! ここに来る直前海に溺れていた人!?」
「なんであんな所に!?」
探していたはずの人物が自ら姿を現し、尚且つ異能力が存在しないはずの世界の住人が何食わぬ顔で異様な状況の中心にいる。これが何を意味するのかについて二人はすぐに理解した。
「まさか!」
「あの人がこの事件の黒幕!?」
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