PURGEー45 感謝!!
その後、消防が駆け付けて火災は無事消火され、具合の悪い人こそ出たものの死者は一人も出ずに事故は収束した。
黒葉は普段はしないような突拍子もない行動をしたためか、火事が収まってすぐに案内された安全地帯に座り込むと深いため息をガス抜きの様に吐き出していた。
「フゥ~……疲れたぁ……」
自分で気付いていないながら火事の空間にて必死に能力を使い続けていた黒葉は、その分の疲れが一気に来たようで身体が岩のように重くなっていた。
立ち上がる気力もとても出てこない黒葉。するとそこに騒動の場所で人命救助をしていた信乃が近付いて来た。
疲労している黒葉の様子を見て信乃は一度躊躇しかけるも、ここで引いてはチャンスを失うと思った彼女はしゃがみ込んで黒葉と背丈を合わせて話しかけてきた。
「その……春山君」
「アァ! ハイィ!! 森本さん!!」
現場にいた事は知っていても、結果的に疲れのために忘れていたクラスの人気者に不意に声をかけられたために黒葉は話す態勢を整えきれず、驚きながら編に高い声を出してしまった。
「……フッ! フフフッ……」
「も、森本さん?」
「エッ? アァ! ゴホンッ!!……」
信乃は黒葉のおかしな反応にふと口を押さえて笑ってしまうが、わざと咳き込むことですぐに笑いを抑え、改めて黒葉に話しかけてきた。
「ごめん、急に話しかけて。さっきはありがとう。本当に助かったよ!!」
「あ! イヤ……どういたしまして」
我に返り面と向かって話すとなった途端、黒葉は成長するにつれてあまり人と接さなくなった経験から途切れ途切れのしゃべり方になってしまう黒葉。
その上ふと手を握ってこようとする彼女に、能力の事を考えてしまい拒絶するように自分の手を引いてしまう。信乃は彼のこの反応に、拒絶とは違う恐怖を感じ取った。
「触らないで……ください……」
「春山君? そうか、春山君は触れた人の服を脱がせるんだっけ?」
この世界の人が異能力を持っていることが当たり前の世界。信乃は委員長としてクラスメイトの異能力についてはある程度把握しているところがあった。
「そ、そうなんだ……だから、俺には触れない方が……
それに、俺なんかとつるんでいたら変な噂が立っちゃいますよ。では……」
自分の能力のせいで迷惑はかけたくないとこれ以上関わらずにこの場を去ろうと立ち上がろうとするも、それより前に信乃の方が前のめりになり、彼の手を握ってきた。
「ちょ!! 止めてくれ!!」
黒葉は思わず掴まれた腕を振り払おうと咄嗟に動き、無意識に力を入れて信乃を突き飛ばしてしまう。
「アッ……マズい!!」
自分がしてしまった事に青ざめる黒葉。彼が危惧したのは突き飛ばした暴行に対してではなく、その先で発生するかもしれない彼自身の異能力についてだ。
そしてこの場でも直後、その恐れていた能力は発動してしまった。
ボタンが勝手に外れ、微かな音を立てて脱げ落ちていく制服。内に着ていたカッターシャツも飛んでいき、信乃の姿は下着姿にまではだけさせてしまった。
「も、森本さん! 服が!!」
この後にくるものを恐怖する黒葉。小学生時代から何度もあった責め立てられる思い。刻まれたトラウマに震える彼だったが、信乃はそんな彼の手を強く握った。
その握る手に怒りは感じられない。優しく震えを落ち着かせようとする手つきだ。
「服が何よ!! いっぱい命を助けて貰って! 服の一枚二枚なんてどうって事ない!!」
下着姿になりながらも、一切嫌悪せず真っ直ぐにハッキリ口を開く信乃。黒葉が圧倒されて黙り込んでしまうと、彼女は彼の目を見た。
「貴方の能力のおかげであの人達は助かった! 普段はこれでも! 貴方は人の役に立つの!!
それに、能力なんて関係無く、貴方は火事の現場に自分から飛び込んだ。普通なら躊躇してしまうあの場で、勇気を持っていた!! 貴方はいい人なの!! だから私は、貴方に感謝してる! 決して悪い人なんかじゃない!!」
信乃の言い分が心に響く黒葉。今までの人生、こうして面と向かって他人に褒められた事など、全然なかった。ましてや、周りに迷惑をかけることしか出来なかった自分の能力を肯定してもらえる日が来るなんて、想像すらしていなかった。
いつの間にか黒葉は泣いていた。これまで心の内にしまっていた物が、銭が外れて溢れ出すかのように涙が溢れ出ていた。
このとき、春山黒葉は初めて人に認められたのだ。
ある程度泣き止むのを待ってくれた信乃。彼女は落ち着いた黒葉に口を開いた。
「春山君。その、良かったらなんだけど……」
「え? な、何すか?」
信乃は改めて黒葉の顔を見ると、一つ提言をしてきた。
「私と一緒に、色んな世界を守る気はない?」
「……色んな世界……はい?」
そこから黒葉は信乃から次警隊の存在を聞いた。
「その、次警隊っていう組織に俺を?」
「うん。触れた何かを外す能力、ぜった誰かの役に立つと思うから! もちろん、危険な事もいっぱいある。あの火事より恐ろしいことだって……だから、無理強いはしない」
「あの火事より……」
黒葉は少しの間黙っていた。信乃が言う危険というのはもちろん黒葉の想像出来ない程の事もあるのだろう。
だが彼の判断は信乃の予想よりもずっと早かった。
「俺、やりたい!」
「え?」
「俺にもやらせてください! 次警隊!!」
「春山君……」
何故黒葉がここで決心したのか。正直本人にも深い理由はなかった。ただ眼も前にいる自分を心から救ってくれた人に恩を返したい。彼女のように人助けをしたい。それだけだった。
だがその思いは強く、黒葉は試験者同士の戦闘を前提とした脱出ゲームや、裏のある借り物競争。更に侵入者によるイレギュラーが発生した最終試験を乗り越え、次警隊に入隊したのだ。
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