PURGEー44 救助!!
黒葉が初めて見た、学校の外で見る信乃の姿。プライベートではなく事件の最中。顔つきも学校での優しい様子からは一転した真剣な表情。
そんな彼女の活躍によって火事の渦中にいた人たちが次々と一瞬で移動していき、感謝の声をかける間もなく一目散に逃げていく光景。少し離れた場所で見ていた黒葉は素直に信乃を凄いと思った。
「森本さん、こんなに次々人を助けて……これまで何度もこうやって人助けをして来たのか!?」
関心を向けている黒葉。だが一見すると便利に見えるこの能力の弱点はすぐ露見した。
火災発生中の建物を取り囲むように発生したマス。信乃は自分がいるその場にて指を動かしこれを目を凝らして操作しているように見えた。
つまり信乃はマス一つの範囲しか一度に動かせない事。そしてどこのマスに誰がいるのかは目視しないと分からないという事だ。
だがこの調子ならば信乃一人の手によっても火事に巻き込まれた人たちは助けられる。黒葉はそう納得させてこの場から離れようとしたが、後ろを振り替えようとした直前に彼は微かに家の建物の中にいる人の存在に気が付いた。
穴が小さく煙が充満し、信乃の方向から見れば丁度死角に入っているため彼女からは気付かれていない被害者。
もちろんこの場には人が集まってきている。かといって誰もが信乃のように率先して人助けをするわけではない。怪我をしなくない恐怖で足がすくでいるか、もしくははなから動く気がないとばかりに足が止まっており、呆然となっている。
黒葉の心境も周りの人と同じだと彼自身が思っていた。しかし実際は違った。本当に何故なのかは分からない。過去に同じことをして孤立する羽目に遭ったというのに彼の足は前に動いてしまった。
だがこの時の黒葉に迷いは一切なかった。微かに見えた建物内の人の苦しそうな目が瞳に映った途端、『助けたい』という単純明快な強い意志に体が突き動かされたのだ。
黒葉は走り燃える建物の中に突入する。外野から飛び出した派手な行動は流石に目立ち、救助作業中の信乃も彼の存在に気が付いた。
「今の、春山君!? なんで!! 危ない!!」
信乃は咄嗟に黒葉を事故現場から遠ざけようと彼に能力を発動しようとするも、その直前に彼に建物中に入られ、位置が分からなくなったがために他の人同様転移が出来なかった。
「そんな! こんな炎の中に飛び込むなんて」
信乃の心配が向けられる中、黒葉は一心に自分が火傷することなども考えず真っ直ぐ見えた人達のいる場所にまで走って行く。
そんな彼に対して建物は道を譲るように不自然に火事の炎は黒葉を避けるように左右、後ろにへと引いていった。これは黒葉の『分解反射』が無意識の内に発動した効果によるものだったのだが、当の本人も一切この事には気付いていなかった。
分解反射によしスムーズに走ることが出来た黒葉は、建物の中で炎に閉じ込められていた人達のいる箇所にまですばやく到着出来た。
炎に囲まれて身動きが取れず、発生した煙の毒にやられかけている。しかしこれも、黒葉が近づくことによって本人が意図せず毒物を弾き無意識に安全地帯を形成していた。
「大丈夫ですか!?」
上がる心拍に押されて叫び出す声。逃げ遅れた人達も朦朧とした意識の中で彼の声が聞こえたのか、一人二人が微かに首を動かすなどの反応を示す。
黒葉が近くに寄るほどに煙や炎は避けて行くも、既に吸った分が解毒させる訳ではない。被害者達はかなり消耗している様子で、今すぐにでも全員運び出さなければ間に合わない。だが黒葉にこの人達全員を背負って運べるほどの力もなかった。
(全員助けるには俺一人じゃとても間に合わない。一体どうすれば!?)
黒葉に今できることは抱えて逃げる以外には精々異能力を使うくらいしかない。しかし黒葉は自分の『分解』をとても信頼出来なかった。
(俺の能力で? いや、俺が出来るのは人の服を脱がせるだけ……あれ?)
黒葉はここに来て自分の能力を不安を覚えたために考え事をした。すると黒葉はこの場で自分が心拍以外平常時と同じな違和感に気が付いた。
(あれ? どうして俺、これだけ周りが燃えているのに火傷の一つも無いんだ?)
しかし思考を回している間にも燃え盛った炎が被害者に容赦なく近付いていく。
「マズい!」
黒葉は咄嗟に彼等を助けようとして近付いた折、炎にほんの少し微かに手が触れかけたことで炎が彼によって引き剥がされるように被害者達のいる方向とは反対に分散して飛んでいった。
黒葉は今自分の目の前で起こった出来事に目を丸くしつつ、理解した。
「これ、もしかして!!」
理由は分からなかった。だがしかしこの場でもし皆を助け出せる方法があるのならば、それを実行しない手はないと黒葉は異能力によって炎を弾きながら壁際に近付く。そして火傷も省みずに右手で壁に触れてみる。
「よし、ここだ!!」
建物の外にいる信乃。救助活動を続けていた彼女だったが、次の瞬間に目に飛び込んできた光景に身体を固まらせてしまった。
今自分が救助している建物の壁が、突然にパーツが分離するかのように壁が剥がれ、黒葉を先頭とした複数人の人達が姿を現した。
「春山君!? 今の!!」
驚く信乃が具体的な質問をするよりも先に黒葉は彼女にハッキリ伝わるように叫んだ。
「森山さん! 皆を移動させて!!」
黒羽の言った台詞は単純ながら、信乃にはすぐに彼が何をして欲しいのかが伝わり軽く頷く。すぐにここまでと同じ構えで能力を発動し、黒葉達を一瞬にして安全圏にまで移動させてみてた。
「凄い、本当に一瞬で移動出来た! これが森本さんの超能力……」
驚きと関心の籠った感想をふと口にしてしまう黒葉。解放された他の人達が一目散に逃げだしていく中、彼等を救助した信乃は少し思うところが出来ていた。
(春山君……彼は……彼なら……)
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