PURGEー41 向いてない!!
その後も黒葉と信乃は森の中で他の遭難者の捜索を続けた。巨大蜘蛛の襲撃をきっかけとしてさっきにも増して目を見張っている。
幸いこれ以降蜘蛛に遭遇することはなかったものの二人の捜索もむなしく時間だけが過ぎていき、またしても何処かの砂浜に出たときにはすっかり日が沈み、夜になっていた。
「もうこんな時間に……」
「結構歩いたけど、見つからなかった……」
「でもまだ探していない場所があるかも! 私、今からでももっと捜索を!!」
「待って!」
再び森の中に入っていこうとする信乃に腕を掴んで止めてくる黒葉。信乃は後ろを振り返り当然問いかける。
「何で止めるの春山君!!」
「起きてからここまでずっと歩き続けて気を張って来たんだ。少しは休憩しないと森本さんが倒れちゃうよ! 一度休息を挟もう」
「……分かった」
自分の方がよっぽど動いて疲れているはずなのに他者への心配を優先する黒葉に、信乃は焦る気持ちを少し落ち着かせて一度砂浜に腰を落とすことにした。
微かに動く波打ち際の音が耳に響く程に静まり返った空間の中、隣り合って体育座りの態勢を取りながらお互いに視線を取らしてしまう黒葉と信乃。
黒葉は信乃の今の姿を目にするのに困ると思春期らしい理由で視線を逸らしていたのだが、信乃はそれを勘違いして暗い方向に受け止めていた。
(春山君……さっきから一言も何も言わない。こっちに顔も向けない……やっぱり、そうだよね……)
信乃は思い返していた。この所の自分の行動、そのときの彼女自身にとっての情けない経緯を。
イブリスとリドリアの決闘の事件に始まり、ショッピングモールに買い物に出かけた際にイブリスによって操られ黒葉を攻撃してしまった。
そして今も巨大な蜘蛛に怖がって現場から逃げ出し、挙句捕えられて危機に瀕したところを助けられた。小隊長としてあまりにも不甲斐ない事ばかりだ。
「ごめんなさい……」
長時間続いていた沈黙を破ったのは、信乃の言葉を選んだ謝罪の台詞だった。火照った体を抑えていた黒葉だったが、彼女のこの台詞に表情を困惑させた。
「ごめんって、どういう……」
率直に問いかけてしまった黒葉に信乃は顔を膝に埋めつつ自論の言い分を口にする。
「気を使ってくれなくてもいいよ。私のせいだから」
「え?」
「本当に、春山君は優しくて凄い。皆の危機にいち早く動いて、助けてくれて……私よりよっぽどリーダーに向いているわね」
思わぬことを言い出した信乃に黒葉は目を丸くして体制を変え、質問を質問で返してしまう。
「何言ってるの森本さん!! そんなことないって……」
黒葉は話をしている最中に頭の中でいくつかの光景が浮かんで来た。それは全て、この状況に至るまでに何度も見た信乃の俯いた顔だった。
黒葉は激情を抑えつつ出来るだけ優しい声を作って信乃に思っていることを真っ直ぐ言った。
「森本さん、もしかしてこのところずっとそれで悩んでいたの? その……」
「私はリーダーに向いていない」
信乃は黒葉の言葉を受けて頷き、自分の思っている事を素直に吐き出すことにした。
「私は、肝心なところでいつも何の役にも立てないから。スヘッダ小隊長との事件も、リドリアさんと春山君に助けられてばかりで、迷惑をかけて……私は何も出来なかった」
「いやいや、あのときはたまたま俺が動けていたってだけで、決闘の時はリドリアに助けられたし」
「だとしても!!」
黒葉が弁解の言葉を並べる中で、信乃は大声を出して彼の台詞を遮断する。
「私は、小隊長でありながらいつ何時も重要な時に何も出来なかった。今回だって、蜘蛛に怖がって逃げ出して、助けてもらって……」
信乃の脳裏に過去の光景が思い浮かんでくる。学生時代に苦労し、ミスをした記憶。次警隊に入って任務で足を引っ張ってしまった記憶。
何より浮かんでくるのは、近い過去に複数人の人に言われた台詞だった。
『お前が小隊長!? いや無理だろ』
『強い能力もない奴が、戦闘の役に立てないのに』
『優しいだけじゃ何も出来ないんだよ』
信乃が新設小隊の小隊長になる事になり、元々いた正体の面々達に言われた言葉。あまり任務で役に立てていなかった彼女に対しての応援の言葉はあまりなく、否定的な言葉が多く当てられた過去。
今もずっと鎖の用に巻き付き引っかかる言葉。今の落ち込んでいる彼女にとって、より体をむしばむ呪いと化していた。
信乃はここに来て悪い意味で悟りを開いたかのように膝に埋めていた顔を上げながら自問自答するかのように話し出す。
「私は、誰にも救えていない。本当に小隊長になんて……いや、なんなら次警隊にも向いていないのかもしれな……」
「そんなことないって言ってるだろ!!!」
信乃が自分の中で負の方向にケジメを付けかけた直前、体育座りを崩して立ち上がった黒葉がさっきの信乃以上の大声を叫び彼女を台詞がかき消していった。
驚きのあまり開けた口をより大きく広げて固まってしまう信乃。黒葉は自身の拳を強く握り、少し涙が溢れかけて潤んだような目つきで信乃の顔を真っ直ぐ見てきた。
「誰も救えていないだなんて、そんなこと絶対にない!! 最低でも、ここに一人! 森本さんに救われた人がいるんだから!!」
黒葉は自分の胸を叩いて主張する。当の受ける側の信乃は込み上がってきた暗い感情が力ずくで押し込められたような感覚に陥り、放心したような様子で相手の名前を呼んでしまう。
「春山君……」
「俺は、森本さんに救われて今ここにいる。それは、間違いのない事実なんだ!!」
その名前を呼ばれた人物は自身の過去を思い返していた。人に自慢できなかった異能力を持った自分が何故次警隊に入隊しようと思ったのか、その経緯と切っ掛けについて。
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