PURGEー39 巨大蜘蛛!!
攻撃してきた相手の正体が分かった途端に恐怖におののいて砂浜からダッシュで逃げていった信乃に置いて行かれ、一人巨大蜘蛛の相手をせざる負えなくなってしまった黒葉。
しかしそんな黒葉だが、頭に浮かんでいるのは信乃に対しての怒りではなく彼女に対する心配だった。
「森本さん、あんなに顔を青くして……もしかして! 蜘蛛が苦手なのか!?」
などと予想を立てていても蜘蛛の方は当然待ってなどくれない。巨大蜘蛛は黒葉に酸の糸を飛ばして攻撃を仕掛けてきた。
触れれば体が溶けてしまう素早い糸に黒葉は何とか反応してこれを回避する。しかし眼前に現れた以上蜘蛛の攻撃は糸だけではない。
蜘蛛は糸を回避したことで近づいて来た黒葉に自身の巨体を支えている八本足の一つを力強く振り上げ、曲げていた部分を伸ばすことで間合いを伸ばし黒葉に打撃を当てようとしてきた。
意図にばかり意識が向かっていた黒葉は足の存在に気が付くのが遅れてしまい、蜘蛛の狙い通り背中に足を激突されてしまった。
「痛っ!! 足!?」
蜘蛛は黒葉を足を器用に動かして囲い込み彼を拘束。そこから更にさっきとは違い明るい色身の糸を吐き出して来た。
溶かされる位事を覚悟した黒葉だったが、彼の身体に付いた糸は黒葉の身体を溶かすことはしなかった。その代わり粘着性は相当高く、付けられた腕は振るって引き剥がせるものではなかった。
「捕獲用の糸か! 強い粘着性……でも俺なら!!」
黒葉は空いていた腕が拘束される前に素早く動かし糸に触れて<分解>を発動、自身に張り付いた糸を取り除いた。
自身の粘着性の高い捕獲用の糸がいとも簡単に外されたのを目にした蜘蛛は驚いたような仕草を見せ、黒葉は相手のこの動揺をチャンスと見てすかさず間合いに入り、蜘蛛の足数本に触れた。
「<分解>!!」
黒葉の手に触れた事によって蜘蛛は自身の身体を運び支えていた足が全てプラモデルのパーツのように分離されてしまい、胴体が砂浜にめり込んで動けなくなってしまった。糸の発射口たるお尻も砂に埋まってしまい、蜘蛛は完全に無力化された。
「フゥ……何とかなった」
顔に流れる汗をぬぐいつつ黒葉はロック付きの水着の尻ポケットから捕獲用のカプセルを一つ取り出し蜘蛛にもう一度近付く。
「ごめんよ……また襲われたくもないから、しばらくの間この中に……ッン!?」
黒葉はカプセルを投げる直前、蜘蛛の背中にあるものを見つけて表情を変えた。
「これって!!」
すぐさま動き背中にとりついていたものを剥がす黒葉。全体像を確認して、自分の予想が正しかったことに苦虫を噛み潰したような顔になる。
「まさか、ここでも見つかるだなんて……」
黒葉が蜘蛛から取り上げたのは、以前彼等の初任務の際暴走したスライムの身体に付けられていたものと同じとりついた生物を強制的に狂暴化させるチップだった。
「これがあるってことは、スライムの時と同一犯の仕業って事なのか? とにかく、委員長と合流しないと!!」
黒葉は足早に移動を始め、信乃と合流するために急いだ。
その当の信乃。蜘蛛を見た恐怖から自分の姿の件も忘れて全力疾走で森を走ってしまい、彼女自身今自分が何処にいるのか分からない状態に陥っていた。
「アレ? 私今何処にいて……って私! 黒葉を置いて行って! なんてことを! 戻らないと!!」
信乃は汗を流しながら回れ右をして黒葉の元に戻ろうとする。しかしそんな彼女が体を回転させた直後、軸にしていた右足首に何かが接触して来た。
「え!? 何!?」
信乃が下に視線を向けると、先程砂浜で見たものとは色身が少し違う糸が接触していた。すぐに取り外そうと手を伸ばすも、触れるよりも先に別の糸が飛んできて右手にも取り付いた。
「しまった!!」
そこから数瞬の間に信乃の身体の至ることろに飛ばされた糸が接触し、そのいくつかに引っ張られて手足を広げさせられ、体を宙に浮かされて拘束されてしまう。
「ウッ!……クッ!!……」
もがいても手足が動かせない状況に負けじと抵抗する信乃。そこに森の木の陰に隠れていた大小さまざまな十体以上の蜘蛛が姿を現し、彼女の周りに更に蜘蛛糸を集中的に噴射して信乃の身体を完全に拘束する蜘蛛の巣を完成させた。
身動き一つとれない信乃には能力によるワープももはや使えず、密集してくる蜘蛛に対し抵抗出来ない状況に追い込まれてしまった。
ただでさえ危機的な状況。それも信乃は一目見て逃げ出してしまう程に蜘蛛が苦手ということもあり、今の彼女の心境は相当以上に恐怖に染まっていた。
「い、いや……いや……」
青ざめた顔で拒絶の台詞を吐く信乃を見上げつつ、巨大蜘蛛はおもむろに近づいて来る。
「まさか……」
信乃の頭によぎる悪い予感。何故蜘蛛が真っ先に彼女の水着と溶かして彼女を一糸まとわぬ姿にしたのか。それには理由があったのだ。
単純明快、生き物として当然の行為、食事だ。
「イヤッ!! イヤアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!」
自らの身に起こる事への絶望に目を閉じてしまう信乃。もうだめかと思われたそのとき
「<分解>!!」
信乃の耳に聞きなれた青年の叫び声が聞こえてくる。まさかと思いゆっくり目を開けた信乃が見たのは、彼女に近付いた蜘蛛達の足を外して撃退した黒葉の姿だった。
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