PURGEー3 決闘!!
『決闘制度』。次警隊に設けられたルールの一つである。
次警隊は様々な世界の人々を繋ぎ、交流して設立された。しかしいくつもの文化の違う多種多様な人種が交わりあえば、生活様式、価値観、信仰、様々な部分が食い違い当然ぶつかる事もしばしばある。
中には言葉による解決が難しい場合もあった。そんなときの意見を納得させる手段として用意されたのが、この決闘制度だ。
意見を持つ者同士が直接ぶつかり合い、どちらかが降参、または気絶することで勝敗は決し勝者の意見が採用される。この制度によって、次警隊ではいくつもの問題を解決されていた。
そして決闘は組織内で大々的に告知され、観客も多く入る。仲間の戦い方を見て得るものも多いと言われているからだ。
当然今回の決闘も噂はたちまち広がり、大勢の隊員が会話をしながら模擬戦用に設けられた闘技場に集まって来た。
「新入隊員同士がいきなり決闘か」
「アイズ財閥の令嬢が無礼を働いた奴に宣戦布告したらしいぞ!」
「バカな奴だな。アイズ令嬢は金持ちのお嬢様ながら戦闘も出来るって評判なのに」
「戦わざる負えなかったんだろう。相手は財閥のお嬢様だ。戦わなければ社会的に抹殺されるだろうさ」
観客がそれぞれ勝手な言い分を口にする中、控室に手準備をしていたリドリアはふてくされた顔で鏡を見ながら身支度を整えていた。
「全くもう! 入隊日にいきなりなんでこんな事になるのかしら」
思い浮かぶのは自分に恥をかかせた黒葉の顔。そしてここまでの流れで噂で聞いた彼の事についてだ。
「服を脱がすような……そんな事しか出来ないあんな奴が……なんであの人に……春山黒葉、絶対に倒してやるわ!!」
一方の黒葉の控室。妙に広さのある部屋に置かれた椅子に座って目を閉じていると、いつの間にか部屋に入って来ていたクオーツが話しかけてきていた。
「あまり緊張していないみたいですね」
「うわ! びっくりした!! 隊長、いつの間に入って来たんですか?」
「それはまあ、そそくさと」
「そそくさって……」
先程間に入られた事といい、クオールの底知れない何かに冷や汗を流してしまう黒葉にクオーツはもう一度本題に入った。
「そこまで固まっていないみたいですね。負ければ牢獄行だというのに」
「いやま、ちょっと前にもっと緊迫した場にいましたから。それに」
黒葉は椅子から立ち上がると、鋭くなった視線をクオーツに向けながら答えの続きを話す。
「こんな所で負けているようでは、強敵とは戦っていきませんから」
「気合はあるようですね。よろしい」
少し時間が経過して闘技場の左右の扉が開き、それぞれ黒葉とリドリアが歩き出した。闘技場中央にまで移動した二人はお互いの顔を鋭く見ながら話し合った。
「意外と震えていないのね。てっきり怖くなっているかと思っていたけど」
「もっと怖い目にちょっと前に遭ったからかな。何より、今後隊員として活躍するにはこの程度の事、勝たなきゃ始まらない」
「この程度……ね……舐めてくれるじゃない!」
二人が既に口論で対立を深めていると、機会音声による開始合図が闘技場に響き渡った。
開始早々、リドリアは変身して両腕に青い大きな羽を生やし上空に飛んだ。その羽の大きさは、さっきの1.5倍は有ろうものだ
「さっきより羽が大きい!?」
「アタシの能力『幸鳥』は、自分の身体を鳥に変形させるもの。さっきは室内だから抑えめだったけど、本当はこのくらいの大きさまで広げ、上空を高速で移動できる!!」
リドリアの言い分は決して単なる自慢ではなく、そこから黒葉が目で追えない程の速度で縦横無尽に空を飛びまわった。
巻き起こる風圧に観客も服が揺られスカートを抑え、リドリアの強力さに感心していた。
「おいおい! 新入隊員の身のこなしじゃないぞあれ!」
「流石名家のお嬢様ね。自主訓練もお金がかかっていたのかしら」
どうにも動けず立ち往生してしまう黒葉。そこに背部からリドリアの鳥の右足が襲い掛かった。
「喰らいなさい! <鳥爪>!!」
聞こえた声に反応して咄嗟に移動した黒葉は攻撃の回避に成功するも、爪が激突した床は四方に深いヒビが入り、攻撃の中心地は深くねじ込ませた。
「勘のいいことね。アタシの爪は鉄をも簡単に破壊する。受け止めようものなら軽く骨まで砕けるわよ!!」
更に罰が悪い事にリドリアは深く突き刺さった爪をすぐに引っこ抜いて再び空を飛び始めた。
そこからもリドリアの猛攻は続き、黒葉はギリギリで回避するばかりだ。
決闘を見ている観客もこの状況からすでにリドリアの勝利を半ば確信していた。
「一方的な展開だなぁ」
「あ~あ、やっぱ勝てるわけないって」
「しかもアイツ碌な異能力持ってねえんだろ」
「やっぱ才能にはかなわないよなぁ」
観客席とは違う別室にてソファに座り何処か喜ばしそうに二人の戦いを見ているクオーツ。そこに脇から声が聞こえてきた。
「新入隊員同士の決闘なんやそうで? いきなり派手なことをする奴もいるもんですね」
クオーツが首を曲げて姿を見せたのは闇の中に紛れそうな忍び装束に身を包んだ、クオーツにも負けないプロポーションを持つ女性。次警隊二番隊隊長、『疾風 入間である。
「これはこれは入間ちゃん。会議以来ですね」
「ちゃん付け……久しぶりに呼ばれましてんけどその呼び方……」
「アポもなしに何用かしら」
「直接報告しておいた方がいい事をちょっと。でも今はあっちにご執心ですか?」
クオーツは女性が勝手に部屋に入って来た事には指摘せず、入間を隣に座らせて彼女にも決闘を見物させた。
「この戦い、どう見ますか?」
「リドリア・アイズは強い。入隊試験での隊員との決闘では圧勝だったらしいですよ」
「でも君は春山隊員が勝つのではないかと予想しています。そうでしょ?」
「それは貴方では?」
場所は戻り戦闘中の黒葉とリドリア。次々飛んでくるリドリアの攻撃に既に闘技場の床はボロボロになっており、黒葉も警戒と回避の連続で息を切らして汗を流し疲れが見えてきていた。
リドリアはここが頃合いかと判断し、飛行しながら黒葉に話しかけた。
「よく逃げた方。でもそろそろ限界ね。もういいわ。次で仕留めて上げる!」
リドリアは台詞を切ると後ろから飛び蹴りを仕掛け、黒葉もこれに反応し回避の予備動作をとる。
だがそれを分かっていたリドリアは落下の途中で動作を一時止め、羽を器用に動かして横方向に回転しながら黒葉に蹴りを入れた。
「ガハッ!!」
嗚咽を吐く黒葉。これで決着がついたと観客もリドリア自身も確信した。
しかし黒葉は違った。直撃すれば気絶ものの一撃を受けてもリドリアの足を受け止め、彼女に睨みを向けた。
「何で気絶してないの!?」
「それは……床を見たら分かるかな……」
リドリアは黒葉に言われた通りに床を見ると、そこに転がっていたあるものを発見して目を丸くした。
床に落ちていたのは、つい先ほどまでリドリアにくっついていたはずの鳥の足指だった。
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