PURGEー37 追いかけっこ!!
颯爽と場に介入した黒葉の活躍によってナンパの危機から脱した森本小隊。
ある程度距離を進んだところで黒葉はリドリア達に声をかけ、三人は逃げの姿勢から足を止めた。
「もう十分かな? とりあえずここでとまろっか」
リドリアとレニは肩の力を抜く動作をしながら余分なガスを抜くようにため息を吐いた。
「ハァ……助かりました……」
「ありがとう、黒葉」
「いや、俺の異能力は使ってもそこまで不自然なものじゃなかったから。場を収められてよかったよ」
少しむず痒いのか右の頬を少し爪で搔く黒葉。リドリアとレニは彼に微笑みかけて感謝していたが、信乃だけは俯いた表情のまま口を閉じたままだった。
無言のまま立ち尽くしている信乃に隣にいたリドリアが声をかける。
「信乃? どうかした?」
「えっ!? アッ! いや、別になんでもないよ……」
信乃は声をかけられたことで我に返ると、動揺しつつその場で取り繕ったような台詞を吐いてしまう。リドリアは信乃の様子から黒葉のように引っ込むことはせず、逆に更に問い詰めた。
「それ、何か誤魔化そうとしているでしょ? 何か思ったのならハッキリ言って!!」
「えぇ! イヤッ! ちょぉ!!……」
リドリアにこれ以上攻められると思っていなかった信乃は返答に困って言葉にならない声を出してしまう。
リドリアは信乃に思うところがあると気付くと、畳みかけるように更に詰め寄ろうとした。
「信乃、大丈夫よ! アタシ達に何でも相談していいから!!」
「それは……その……」
「おい、リドリア」
状況が悪くなってきていることを察した黒葉がリドリアを止めに入ろうとするが、時はすでに遅かった。
「ご!……ごめんなさい!!!」
信乃は謝罪の言葉を叫びながら耐え切れなくなったものを暴発させるように汗を噴き出し、足早に集合知から逃げ出してしまった。
暴走ともとれる信乃の行動に理解が追い付かないリドリア。一足遅れた形ながら黒葉がリドリアに一言口に出して指摘する。
「リドリア、今のは流石にガンガン行き過ぎだよ」
「えぇ!? アタシそんな攻めたつもりないんだけど……」
当の本人は全くの無自覚だったようで驚きすぐに反省するも、このままでは混乱した信乃が何処へ行ってしまうか分かったものではない。
黒葉は小さくなっていく信乃の姿を見失い前に急ぎ足を動かして捕まえる勢いを出し彼女を追いかけた。
真昼間の人の多いビーチの中。正直に言って夕刻のようなロマンチックな空気が流れているわけもない雰囲気の中で、ギャグレベルの速度で全力疾走していく信乃と、それを追いかけるために後で酷く疲労しそうな速度で走り続ける黒葉。
「ちょっ! 森本さん……速いって! どんだけ全力疾走してんの!?……そういえば、学校の体力テストでも女子一番だったっけ?」
想定以上のスピードにこのままでは見失ってしまうかもしれないと焦りを強くする黒葉。
ところがその少し後、信乃は波打ち際の位置にて突然に足を止めた。
「あれ? 森本さん?」
黒葉は信乃の奇妙な動作に一瞬速度を緩めてしまったが、今なら彼女に追いつけるのではないかとより速度を上げて追いつくことに集中した。
(よし! この調子なら追いつける!!)
などと調子が良い事を考えている黒葉だったが、ここに来て信乃は突然海の中に飛び込んでいき一目散に泳ぎ始めたのだ。
「えぇ!? 今度は何!? 何があって……」
慌てて信乃の方に視線を向ける黒葉は、その先の奥の海にジタバタと暴れている女性がいるのを発見した。
「もしかして、溺れているのか!?」
黒葉もこれを見て咄嗟に海に飛び込むと、信乃とワンテンポ遅れて泳ぎ始める。
女性は溺れかけながら必死に助けを求めるように叫ぼうとしている。黒葉と信乃がこれに急いで泳いでいると、体感感覚にしてもあっという間に女性の近くにまで距離を詰めれた。
(よし! 後少しで)
安心しかけた黒葉だったが、ここで自分の身体に異変が起こる。一瞬にして下方向から近づいて来た何かに足を絡み取られ掴まれた感覚。
黒葉は驚いて思考が止まり、一瞬泳ぐを止めてしまう。それがいけなかった。彼は海の中で動きを止めた途端に下から足首を何者かに掴まれたかのような感覚に襲われたのだ。
「フエッ!?」
「何だ!? 何かに掴まれたような……」
時を同じくして信乃も同じ謎の感触を感じ取った直後、二人は助けようとした女性と共に強力な力で引っ張られて海の中に引き吊り込まれてしまった。
「うおっ!!」
「ひやぁっ!!!」
抵抗する間もなく海の中に引き吊り込まれてしまった三人は、ろくに息を溜めておくことも出来ずに朦朧とし、気を失ってしまった。
そこからどれだけの時が過ぎたのか分からない。ようやく意識を回復していった黒葉がゆっくりと目を開けて焦点をハッキリさせる。
「うぅ……俺……そうだ、海の中に引き吊り込まれて!! って、あれ?」
勢いで上半身を起き上がらせた黒葉は自分が見た目の前の光景に声を失ってしまった。広がるのは海の中の水だらけ、魚だらけの光景ではなかったのだ。
澄み切った青空に白い砂浜。何より地平線の彼方にまで障壁が一つもなく広がっていく美しい大海。
後ろを振り返ればヤシの木に似た木々を先頭に奥底にまで広がる、人の手が加わったものとは思いにくい乱雑に生えた大量の木々が繁殖して出来た密林。
「ここ……俺がさっきまでいた場所とは違う……ここは一体、何処なんだ!?」
春山黒葉、突然のトラブルによりどこかも知らない場所に遭難してしまった。
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