PURGEー33 新加入!!
黒葉への挨拶を終え、書類仕事を片付けるために自分の仕事部屋に戻っていったクオーツ。角を曲がってもうすぐ到着といったタイミングに部屋の扉のそばの壁にもたれている人物が一人いた。
クオーツは目の前にいる相手に対して少しだけ驚いた反応を見せたが、すぐにいつもの表情に戻って話しかけた。
「これは、珍しいお客さんですね。お久しぶりです、ラン坊」
「坊主呼びは止めてくれ。俺ももういい年だぞ」
「フフッ、貴方の育ての親のが移ってしまいましたので」
「嫌な広がりだ」
持たれていた壁から離れて体を向いた青年。ローブこそ来ていないが左肩の上に白いぬいぐるみがのっかっている。病室に襲撃をかけてきたイブリスを撃退した人物。次警隊三番隊隊長『将星 ラン』である。
「それで、何の御用ですか?」
「色々気になる事の相談にな。とりあえずは部屋で」
「ええ」
二人が揃って部屋に入ると、クオーツが席についてからランが本格的に話を始めた。
「ます一つ目は証書についてだ。俺はあんなものを作った覚えはないのに勝手に偽物が作られていた件について」
「出所が気になると?」
ランはクオーツの返答には答えず次の質問を飛ばした。
「二つ目は騒動の時期。クオーツのおば」
「ん?」
「……クオーツ隊長の出張のタイミングピンポイントに起こった事件。ものが揃って始まるにしてはいろいろかち合いすぎな気がしてな」
ランの脳裏に思い浮かぶのは、黒葉やリドリアも参加していた入隊試験のときの事。情報が秘匿されたためリドリアは知らないが、試験のときに会場の基地内で敵対組織構成員の侵入を許すトラブルが発生していたのだ。
そのとき事の原因である内通者が捕らえられるも、発覚した敵の規模の大きさと比例しない情報の少なさから内通者が他にもいることが明確になっていたのだ。
そして生物の世界にて起こったスライムの事件とイブリスの事件。二つの騒動の引っ掛かりから感じるものは一つだった。
「おそらく六番隊内にやばい奴と通じている内通者がいる」
ランの意見にクオーツは認めたくない思いがあるからか目線は逸らすも頷いて肯定した。
「入間ちゃんからの話で私も思っていました。ですが」
「イブリスは違う。だろ? あの男はいざ切れた途端に事を派手にやらかし過ぎる、囮や利用される駒にはなれても内通には向いていない。
奴の小隊の連中を尋問しても、そこら辺の情報は出なかったらしいしな」
「しかし彼を唆した人物がいる。ですね」
ランは頷いた。
「捕えた本人を縛り上げて吐かせればいいが、正直望みは薄いだろうな。ああいう手合いは都合いいことを言えば顔を隠しても交渉出来そうだからな」
「辛辣な言い分ですね。そういえばスヘッダ元小隊長は一度貴方と揉めていましたっけ?」
「私怨と思ってんのか?」
「いえいえ、貴方は口は悪くとも仕事はしっかりするタイプなので」
ランはクオーツからの評価に目を細めると、ぬいぐるみが「ドンマイ」とでも言いたげに彼の首に手を置いた。
ぬいぐるみの励ましをむず痒そうにしつつもランは表情を戻し、辛気臭い話はここまでという事で話題を変えてきた。
「最後三つ目、一つアンタに頼みたいことがある」
「おやおや? 今度は偽でなく本物の頼みですか? 聞かせてもらいましょう」
ランは最後に一つ頼みごとを告げ、部屋から去っていった。
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それから数日後、黒葉は病院を退院して三人フフ旅揃った森本小隊は、どういう訳かクオーツに呼び出され、彼女の部屋に来ていた。
「森本小隊。森本信乃以下二名、到着しました」
「はい。ご苦労様です」
クオーツは社交辞令の挨拶を終えると、席を立って改めて謝罪をした。
「まずは昨日の事件。私がいない間に皆さんを危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ありません」
「た! 隊長!!?」
「だからそのことはいいですから!!」
「色々あったとはいえ、解決しましたし!!」
慌てて頭を上げるように勧める三人にクオーツはその通りにすると、席に座って話を切り替えた。
「本題はここからです。実はこの前、三番隊の隊長がここに参られたのですが」
「あの人が!?」
「ああやっぱり、幸助と会ったから予想はしてたけど……」
「え? なんで?」
「いや、幸助は三番隊の隊員だから」
「「ハイィ!!?」」
黒葉から告げられた事実に目玉が飛び出す勢いで驚いたリドリアと信乃。そのままの流れで二人は黒葉に問い詰める。
「ちょっとそれどういう事!?」
「三番隊って、確か隊長と副隊長以外隊員がいなかったんじゃ!!」
「あ、いや」
「おっほん!!」
クオーツのわざとらしい咳払いに三人揃って気を付けをする。三人の気を引き締めてクオーツは脱線した話を戻した。
「その三番隊隊長から一つ頼まれごとをされまして」
「頼まれごと?」
「はい、森本小隊に入れて欲しい人物がいるとのことだそうで。私の方から許可をしました」
三人は隊長間で話し合って結構勝手に決められたことにツッコミを入れる。
「ちょっと待ってください隊長! それはいくら何でもいきなり過ぎでは!?」
「どこの誰なのか分からない相手を入れるのはちょっと」
「せめてこちらの一度選択の余地を与えて欲しいです」
三人の言い分にクオーツは微笑んで答えた。
「フフッ、そう言うと思いました。もちろん強制はしません。決定権は貴方達にあります。今回ここに連れてきていますので、一度顔合わせをお願いします」
クオーツが台詞を切った途端に後ろの扉が開き、足音が聞こえてきた。三人が振り返ると、現れた人物に驚き、そして明るい顔を浮かべた。
「『レニ・スヘッダ』です。この度、森本小隊に移動するように指示を受けました!
皆さんのお役に立てるよう、精一杯頑張っていきます!! なのでボクを! 皆様のお仲間に入れてください!!」
現れたレニの頭を下げた必死の頼み込み。既に彼女の根を知っている三人の選択は決まっており、代表して隊長の信乃が答えた。
「もちろん! 一緒に頑張っていきましょう! スヘッダさん!!」
レニは顔を上げてえ瞳を潤ませると、三人の元に駆け寄って抱き着いて来た。
「うおっ!!」
「ありがとう! ありがとうございます!!」
涙が溢れ感動的な展開。しかしここでリドリアはあることに気付いた。
「あれ? レニ、アンタ今黒葉に触れてない?」
「え?」
「あ……」
直後、レニは着ている質素な服がはだけていき、その上なんと下に何も来ていない褐色の素肌を晒してしまった。
「イヤアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!」
「ああごめん!!」
「ちょっとなんでアンタ中に着てないのよ!!」
「予備がなかったとか!? とにかくはやく隠さないと!!」
少女が手紙を渡したことから始まった騒動は、少女が仲間になることで解決したのだった。
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