PURGEー31 病室の夜!!
レニからの告白に自分達が何も出来ないおろか黒葉を聞きに陥れた事実に泣き続けていたリドリアと信乃。ようやく泣き収まって三人は病室内で怒鳴り合い、謝罪し合ったことから気まずい空気が流れていた。
しかし信乃がここでふと気になった事をレニに問いかける。
「その……レニさんは、なんで春山君を助けてくれたんですか?」
「助けたって、信乃! こいつはイブリスと一緒にアタシ達を!!」
「でもこの人の助けがなかったら、春山君は死んでいたかもしれない。私達だって何をされていたか……」
「それは……」
リドリアも信乃の言い分に口を閉じると、レニは答えた。
「単純にこの人を助けたかった。恩返ししたかっただけです」
「恩返し?」
レニは一度頷き、黒葉が自分にしてくれた事を話した。
「黒葉さんは、私をゲームセンターに連れて行ってくれて……一緒に遊んでくれて……楽しかったんです。ボクが何か事件を起こすことは分かっていたはずなのに……
もちろん警戒はあったでしょうが、それでも一緒に遊んでくれた。ボクを楽しませてくれることを優先してくれたんです」
レニの頭の中に黒葉と遊んでいた時の事が流れてくる。こんな状況だというのに、なんでかレニの口角が少し上がってしまった。
「あんな優しい人、初めてで……あの人の危機を、ただ見ているのが苦しくて……黙っていられなかったんです」
レニの感情の籠った言葉。リドリアと信乃にも思い当たる節があった。二人にも過去に黒葉の優しさに助けてもらった事があるからだ。
「黒葉……」
「春山君らしい……」
リドリアも信乃も自身が受けた黒葉の優しさを思い出してレニに続けて口角を上げてしまい、お互いの顔を見てついつい笑ってしまった。
「私達、みんな春山君に助けられているね」
「ホントアイツって、他人のために頑張って……今回なんて、付き合いの浅い相手にまで親身になって、必死になって……ホント、バッカみたいね」
「そう、バッカみたいなんです」
三人は会話をしながらもいつの間にか足取りは揃って未だ目を覚まさない黒葉の元にまで進んでいた。
そしてリドリアが黒葉の手を握り、問いかける。
「これだけ馬鹿にされてるのよ……ちょっとは怒ったらどうなのよ……早く起きなさいよバカ!!」
そこから何度呼びかけても、黒葉は目覚めなかった。
時間は過ぎてゆき、レニは離れることになった。
「これからどうするの?」
「罪を償います。世間からは隠されたって、やったことが消えることは決してないので」
レニはリドリアと信乃のそれぞれに握手とお辞儀をすると、部屋の扉を閉じた所で待っていた幸助は彼女に静かに問いかけた。
「言わなくてよかったの? 前の決闘で黒葉を助けたのが自分だってこと」
前の決闘。リドリアとイブリスが戦ったあの時の事だ。
実はあの際、レニは重症の黒葉を放っておくことが出来ず、イブリスの目を盗んで身柄を運び、その先に幸助と遭遇した。後は幸助が救護隊員を読んで治してもらったのだ。
「いいんです。あの時は単なる気まぐれだったので……でも、動いてよかったと、心から思います」
「……そうか」
幸助は深く問い詰めることはせず幸助に連れられてこの場を離れていった。
その後も時は過ぎ日は落ちる。ついには夜も遅くなっていき、リドリアと信乃は黒葉の心配のあまり病室で彼を見続けていく内にいつの間にか睡魔が遅い、二人共眠ってしまった。
月の光が雲に隠れている深夜。明かりの消えた病室。監視カメラなど用意されていないこの部屋に、その人物は突然現れた。
赤く充血した瞳に腫れた頬。ボロボロの服に傷だらけの身体。にじみ出る歪さは、元から持ち合わせていた邪悪さをこれでもかと表に出しているようにも思える姿になっている男。事件現場から逃げた主犯『イブリス・スヘッダ』だ。
イブリスは病室内の状況を確認し、静かな息をこぼしながら呟く。
「三人いるか……出がらしがいないのが引っかかるがまあいい」
イブリスは黒葉の元に近付き、上から顔を見た。
「眠り続けているとはのんきな事だ。殺しても殺したりない程の気分にさせておいて!!」
だがイブリスは黒葉を狙いはしなかった。彼の目的は単純明快、リドリアと信乃の二人の身柄だ。
「どんな顔をするのか! こんな眠り続けるまでに疲弊してまで守った女共が、目を覚ました途端に俺のものになっていた時の絶望は!!
あ~……想像でしか出来ないのが残念だ! 本当に残念だよ」
イブリスはもはや紳士さのかけらもない言動で邪悪に笑い、眠っているリドリアに手を触れようとする。
「さあ、今度こそ俺のものになるんだ……リドリア!!」
しかしリドリアに触れる直前、イブリスの左腕は何者かに掴まれ動きを止められた。
「何だ!?」
寝ているリドリアのものではもちろんなく、しかし信乃のものでも、ましてや眠っている黒葉のものでもない腕。
「貴様、何者だ!?」
その人物はいざ視認して見れば目立つ服。全身を覆う白いローブを着込み、左手首には装飾を付いたブレスレットをはめている。そして左肩の上には抱き心地のよさそうなサイズの白いぬいぐるみを乗せている青年。
「雰囲気の良い所に余計な事をしでかす奴をしばきに来た、『風来坊』だ」
「貴様は!!」
「俺んとこの女に手を出そうとしてしばいたとき以来だな」
突然現れた風来坊を自称する青年の顔を見て驚いたイブリス。その隙に青年はブレスレットを変形させて握りしめた左拳の間から飛び出す寸鉄の形に変形させ、気体化の遅れたイブリスの腹に拳を直撃させた。
「グホオオォ!!!……」
「わざわざ偽の証書まで作って、最悪俺に責任擦り付けてとんずらここうと思ったんだろうが当てが外れたな」
青年の声に返事はなかった。元々ボロボロの身体に手痛い一撃を受けたイブリスの意識はすでになく、唾液をたらして白目を向き倒れたのだ。
「て言っても、もう聞こえてないか。まあいい」
青年はイブリスの身体を担ぎ上げるとベッドに眠る黒葉の方を見てからぬいぐるみに顔を向けた。
「この前夜襲されてた時はお前に治してもらったってのに、また重症になるとは驚きだな」
ぬいぐるみが大きく頷く中、青年は再び黒葉を見て呟く。
「ちょっと見ない間にどこぞの馬鹿勇者と同じような状況になってやがる。後々ややこしい事にならなければいいが……ま、俺の知った事じゃねえな」
青年は顔を前に戻すと、イブリスの身体を連行しながら黒葉の病室から去っていった。
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