PURGEー30 自分のせい!!
ショッピングモールでの襲撃事件での最悪の事態を何とか回避し、外に出た客が通報したことで次警隊の隊員が到着。事態は速やかに終息していった。
だがこの場にいた人のほとんどが事件の合間の事を覚えておらず、状況を知っている黒葉やレニは意識を失っていたがために情報は一切得られなかった。
そのためやって来た隊員は一つ見落としていたのだ。この事件を引き起こした黒幕が姿を消していたことに……
だがリドリアと信乃には実感する大きな事件が発生していた。事件から二日が経過しても黒葉が目を覚まさなかったのだ。
黒葉の傷は救護隊員によって治癒をされ、個室の病室にて既に元の状態に回復されている。だがそれでも目を覚まさないということは、体に相当以上の疲労が蓄積されているという事だ。
「どうして、目を覚まさないのかしら……」
「あのとき、一体何があったの?」
心配をしても自分達には何も出来ない、何も覚えていない事実にリドリアも信乃もとても割り切れずに病室から離れられなかった。
そんなとき、病室の扉がノックされ、声が聞こえてきた。
「失礼、します……」
扉が開き、中にいた二人が振り返る。現れたのは黒葉と同じく救護隊員からの治癒を受けて回復し、意識を回復したレニだった。すぐそばには別の男性隊員が付いている。
「貴方は……黒葉のすぐそばで倒れていた……って! イブリスのとこの隊員じゃない!!」
「どうして貴方がここに!?」
レニは部屋の扉を閉めてから俯いた様子で下手の中に足を進めたが、二人のそばに来て頭を下げてから口を開いた。
「次警隊は、今回の事件をなかったことにしました」
「なかったことに!?」
「何でよ!? 黒葉がこんな事になっているのに!!」
黒葉がこんな目に遭っているのになかったことにされた。言われた言葉に激昂したリドリアと信乃は椅子から立ち上がって問い詰める。
二人から言い寄られたレニが困惑していると、間に入った男性の隊員が発言した。
「今回の事件、あまりに情報が少ないから。分かっているのは彼女の証言一つだけ。それも事件を起こした黒幕がスポンサーの関係者って都合上、証拠もなく問い詰めれば大規模な争いに発展しかねないって……
もっとも、俺も俺のとこの隊長から伝え聞いた話なんだけど……」
「その感じ、犯人はイブリスなのね」
信乃は青年にふと見覚えがあった。記憶をたどっていって判別した彼女は目を丸くし声を挙げてしまった。
「貴方! この前春山君を一緒に闘技場まで運んでた!!」
その人物は以前リドリアとイブリスが決闘をした際、怪我を治してすぐの黒葉を運ぶときに手を貸してくれた人物だ。
信乃としてもすでに彼に運ばれていた黒葉を途中から協力していたので、男の事に説いてはよく知らないのだ。
青年はそういえば自分の事を何も話していなかったと気付いたようで、礼儀正しく直立しながら自己紹介をした。
「『西野 幸助』。黒葉とは入隊試験のときに会って協力した仲なんだ」
「てことは、アンタもアタシと同期って事? でも言っちゃなんだけど、新人がなんでその子と一緒に?」
リドリアの問いかけに青年、幸助は優しい声で返答した。
「この子、レニがどうしても貴方達には今回の事件の内容を話しておきたいからって。俺も出来れば聞かない方がいい内容らしいから、部屋の外で待っているね」
「ありがとう、ございます……」
「お礼なら、俺じゃなくて融通利かせたアイツに言っといて。まあ、アイツはそういう言葉を素直には受け取らないだろうけど」
幸助は言葉を残して部屋から出ていった。扉が閉じ、リドリアと信乃がレニに注目する。
「それで、あの時一体何があったの?」
レニは一呼吸いれてから、自分の知っている限りの事件の全容を白状した。
イブリスの悪行に自分の協力。リドリアと信乃が受けた被害。一歩間違えれば大勢の被害者が出かねなかった事件。
それも次警隊の領内での事ということもあり、信用が失墜すると考えた組織は事件そのものをなかったことにした。
全容を聞いたリドリアと信乃は恥ずかしさなどがすっ飛ぶほどに怒りを浮かばせ、そして自分達が黒葉をこんな目に遭わせてしまった事実に大きなショックを受けていた。
「そんな……じゃあ、黒葉はアタシたちのせいで重症に?」
「その上、私達を守るために無茶をして……」
沈黙の空気が流れる病室。レニは言ったところで済む問題とはわかっていても、深く頭を下げて謝罪をする事しか出来なった。
「ごめんなさい!! 全てはあの人を恐れて何も出来なかったボクのせい!! ボクが……」
謝罪を言い終わるより前にリドリアはレニの胸ぐらを掴み、至近距離で怒鳴りつけた。大量に入って来たショックが何かにぶつけなければ心が崩壊する思いだったのだろう。
「誤って済む問題じゃないでしょ!! アンタの能力で黒葉がこんな事になった!! アタシが黒葉を攻撃して……こんな……こんな……」
「止めてリドリアさん!!」
「信乃?」
「その人はただ能力を使わされただけ。攻撃をしたのは紛れもない私達なんだよ……私達が……」
認めたくない事実にリドリアも信乃も自分の責任から込み上がって来た涙を抑えられず、大粒の涙を次々落として力なく膝を崩してしまった。
「アタシのせいで……」
「春山君……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
三人がそれぞれで号泣し、泣き叫ぶ声が病室から漏れ出る程に大きく響いていた。
「やっぱり、酷だったんじゃないのか? いくら事実だからって全て伝えるのは」
病室を出てすぐの場所。待機していた幸助が何処かに連絡をしている。彼としても今回の事件の内容は知らないが、レニの表情からしてあの二人にとっても酷い事は分かっていたからだ。
一方で通信を繋いだ相手は冷たい声で淡々と返事をした。
「だからって誤魔化しても納得はしないだろ。そいつらだって次警隊の隊員だ。折り合いをつけて答えを見つけるだろう。むしろそうでなくては隊員として困る」
「それは……けど誰もがお前みたいに割り切れるってわけじゃないだろ」
「そうだな、お前みたいに全部背負っちまうお人好し馬鹿もいるしな」
「馬鹿って……」
幸助がしれっと馬鹿にされたことに微妙な顔をしていると、声の相手は本題を告げた。
「お前は事前に言った通り別の事を警戒しろ、立場上、そいつらが一番危ないんだからな」
幸助は表情を引き戻して通信を切断した。今回の事件は、まだ終わってはいなかったのだ。
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