PURGEー29 異変!!
ショッピングモールの広間の中で起こった事件。この場において敵かと思われていたレニの咄嗟の声。それによって動きを止めたリドリアと信乃。
さっきまで何もせず立っていたレニの行動に困惑する黒葉は思考が回らないまま彼女の名前を呟いてしまう。
「レニ?……」
「ハァ……ハァ……」
レニは自分のやった行動に対して一瞬顔を青ざめたように見えたがすぐにそれを振り払い、リドリアと信乃にもう一度自分の顔を向けて息遣いの荒いままに何かを言おうとする。
「魅了……解」
「貴様……」
背後から聞こえてきた声に息がつまるような思いになって吐きかけた喉の奥に台詞が引っ込んでしまうレニ。
目が震える彼女の後ろには身体を気体化させて移動していたイブリスが東部の血管を浮かばせるほどの怒りの表情を浮かべている。
レニが後ろを振り返ろうとする前にイブリスに後頭部を掴まれ、思い切り床に叩きつけられた。
「ガッ!!」
「レニ!!」
これからしようとしていた事の一番いいタイミングに邪魔をされたイブリスの怒りは凄まじく、何度もレニを床にぶつけ、彼女の鼻やおでこから出血させて床を血で染めていく。
「この出がらしが! 勝手な行動をしているんじゃねえよ!! ゴミが!! カスが!! 俺がいなけければ野垂れ死んでた分際で!!!」
口調も荒くなり遠慮のない仕打ち。イブリスはしばらくしてようやくぶつけるのを止めるも、既にレニの顔面は血まみれになっていた。
倒れたレニを改めて見たイブリスは、彼女のあることを指摘する。
「まさか俺の目の前であの男を助けるとはな。もしや、そんな服を貰った恩返しのつもりか? くだらない!!」
イブリスは抵抗も出来ないレニを仰向けにすると、彼女が黒葉から貰い着ていたロリータワンピースを乱暴に引き裂き、貧相な下着姿にしてしまった。
「ッン!!?」
レニの表情にショックが浮かぶ。イブリスはこの変化を見抜き説教という名の暴言を強めた。
「そんな服を貰った程度で寝返り上がって……いいか、お前にはこんなぼろきれを着る権利も! 俺の指示なく勝手な行動をする自由も、許されてはいないんだよ!!」
怒声を浴びせながら丸見えになったレニの腹を靴を履いたまま思い切り踏みつけにするイブリス。
「ガッ!! アアアアアァァァァァァ!!!!」
「痛いか? ああ!?」
イブリスによる邪悪な暴行の一部始終を見せつけられた黒葉。彼の中の怒りはとっくに頂点に達していたが、いかんせんダメージのせいで体が動かせずにいた。
(動け! 動けよ!! 大切な仲間が!! 俺のために動いてくれたレニがあんな目に遭っているのに!! 黙ってみているだけでいいわけがない!!)
血の涙が出る思いで体を震わせる黒葉。このときの必死な彼の思考には、目の前のレニ達を助けたい。その一つの思いだけに集中していった。
そしてギリギリのところで動かした右手を、無意識の内に胸の内に触れさせる。この行動が、黒葉に異変を与えた。
「あああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
触れた途端に心臓部を中心に感じる異変は瞬く間に全身に広がり、なんと黒葉の身体を立ち上がらせたのだ。
何故自分が再び立ち上がることが出来たのか。それは黒葉自身にも分からない。考える余裕もない。ただ目の前の危機から大切な人を守りたい。その一心のみで走り出した黒葉の足は、普段の彼以上の素早さを発揮させた。
その速度たるやレニに暴行することに意識を向けていたイブリスが気付くのを遅らせ、ようやく感知したときにはその顔面に渾身の右ストレートを受けていた。
「アガッ!? アガガァ!!?」
自分に何が起こっているのか理解が遅れるイブリス。何がどうあれ気体化して免れなければと思う彼だったが、黒葉は本能でそれをさせまいと次の拳を振るった。
普通の人間の拳よりも明らかに素早すぎるパンチ。イブリスが気体化するのも間に合わず、今度は右肩に多い一撃を受ける。
そこからは一方的だった。気体化をさせまいとばかりに次々と人間の限界を超えた速度で繰り出されるラッシュにイブリスは何も出来ず攻撃を受け続け、百発を超えるか否かの拳を胸に受けて吹き飛ばされた。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
たった一分にも満たない間に起こった猛攻。解放されたレニは血を流し、嗚咽を吐きながらも唱えた。
「ち……魅了……解……除……」
どうにか呟けた言葉を最後にレニは意識を失った。同時にリドリアと信乃、そしてショッピングモールにいた人達が一斉に瞳の中に光を戻し、我に返った。
「あれ?」
「私、一体……」
自然と顔を俯かせたリドリアと信乃は、今の自分の姿を見て顔を真っ赤にさせた。
「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」」
「何で!? なんでアタシ達ほとんど裸で……」
「なんだか記憶が曖昧なような……春山君!?」
信乃が視線に入った事で黒葉の存在に気が付いた。そして二人の方を向いた黒葉は、口調から元に戻った事を察する。
「リドリア……森本さん……良かった……元に戻ったんだ」
黒葉は体の何処かで糸が切れるかのように意識を失い、倒れた。リドリアと信乃は自分の格好の事は二の次に黒葉の元に駆け寄った。
「黒葉!? 黒葉!!」
「何! この怪我!? 酷い出血!!」
「ちょっと! あの子!! あの子も凄い怪我して!!」
ショッピングモールでの事件。黒葉のギリギリの活躍によってモールの客に死傷者が出ることはなかった。
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