PURGEー2 天誅!!
入隊式直後に発生した事件。警備を担当していた隊員達が乱入する形で強引ながらも収められたその場だったが、当事者は当然そのまま返してもらえるわけがなかった。
黒葉は隊員によって手錠をかけられ、ある部屋の中に連れてこられた。一人用の部屋にしては少し広めな空間の奥に黒いデスクと椅子。そしてさらに奥の壁際には天井ギリギリの高さまでの巨大な白い十字架が飾られている。
そしてデスクと十字架の間に用意された椅子に座って黒葉に話しかけたのは、彼が所属することになった次警隊六番隊隊長のマザー・クオーツだ。
「新入隊員にトラブルはつきもの。そう思ってはいましたが、まさか入隊式直後に早々性犯罪を犯す隊員が出るとは……私もさすがにこんな経験は初めてですよ春山君」
クオーツは入隊式のときと表情こそ同じものの、黒葉は彼女から並々ならない圧を感じ取った。
「も、申し訳……ありません……」
黒葉は圧に絞られるように謝罪の言葉を出すしかないものの、入隊初日にこんな事をやらかしてしまったのでは最低でも始末書は免れない。むしろそれで済めばいいほどだ。
反省している様子の黒葉を見てクオーツは圧を少し緩めてまた黒葉に話しかけた。
「貴方の能力につきましては資料にて知っております。その上入隊試験時にも功績があるようで……三番隊隊長から育てばいい隊員になると推薦されたのですが……」
次警隊三番隊隊長。黒葉が受けた入隊試験にて出会い、羽陽曲折があって共に戦った経験がある。
どうやら六番隊への斡旋はその人の意見があったらしい。
「とにもかくにも、今回の件は当人同士の話し合いをしてもらう必要がありますね。どう責任を取るかについては、彼女自身に言っててもらうのが一番でしょう」
クオーツが台詞を一度止めてデスクを軽く指で叩くと、この音を合図に部屋の外で待機していたリドリアが扉を開けて入って来た。当然ながらはだけた服は着ており、黒葉を見る目つきは少々警戒したものに変わっていた。
黒葉は早速改めて謝罪をしなければとリドリアに対して深く頭を下げた。アクシデントとはいえさっきの事は自分の能力のせいで起こったことは事実だからだ。
「ごめん。公衆の面前であんな事…… ただ、あれは事故であって、決してわざとではないんだ! 僕の能力で、触れた人の服を勝手に脱がしてしまうもので……
でも君を酷い目に遭わせたのは事実だ。自分に出来ることなら、何なりと罰は受けるよ」
黒葉の律儀な態度にリドリアは少しの間上がらない頭を見てから口を開いた。
「誠意はしっかりしているようね。そうねぇ……ええ、入隊して初日にいきなり痴漢に遭うだなんて思ってなかったから、最初はパパに報告してやろうかとも思っていたけど……わざとじゃないみたいだし、寛大な意志を示さないとね」
この流れで情状酌量もあり得るのではないかと希望が見えた黒葉だったが、次にリドリアが口にした判決に思わず頭を上げてしまった。
「そうねえ、組織から脱退して獄界行き。それで許して上げることにするわ」
「獄界行き!!?」
黒葉がリドリアからの許す条件に大きく顔を歪めてしまった。『獄界』。いくつもの世界にて逮捕された罪人達が最終的に送られる世界丸ごとを範囲とした刑務所。
各刑罰によって別々の世界に送られ、指定された年月分の拷問を受けるまさに生き地獄。
偶然の事故のせいでそんな場所に送られるのは流石にたまったものではないと黒葉は全身に汗を流しながら大声で問い詰めた。
「待って待って!! 脱退から獄界行きって、寛大な意志でそれ!!?」
「当然よ! 次警隊のスポンサーである『アイズ財閥』の本家筋である私に対して衆目の面前で恥を晒させたんだから!! 極刑で済んでないだけ大サービスよ!!」
「だからって獄界行きって! そんなの実質死ぬのと同じだ!! 納得できるわけないだろ!!」
「何なりと罰は受け入れるって言ってたじゃない!!」
「だからって服脱がしただけで地獄行きなんておかしいよ! それだと心肺蘇生をしても刑罰に遭っちゃうじゃないか!!」
「おかしい……ですって?」
リドリアは問答の合間に湧き上がる怒りで我慢の限界を迎えて肩に力が入っていく。黒葉がそんな彼女にクオーツのものとは違う何かの圧を感じ取ると、直後に黒葉の目の前で驚くべきことが起こった。
リドリアは怒るとともに両腕と両足の形が変化していき、両腕は髪の色と同じ真っ青で大きな鳥の翼に、両足は黄色いおころにいくつも筋が入り、足先には鋭い爪が生えた文字通り鳥のような足に変化した。
「これは!?」
「良家の令嬢が、人前で二度も痴態を晒された! おまけに貴方の能力、今にまた誰かに痴態を起こしかねない!!」
黒葉がリドリアの突然の変心に驚いていると、彼女は部屋の中で器用に羽ばたき体を宙に浮かせながら黒葉に右足を爪を突き立てた。
「そんな奴は! この私が持つハーピーの鋭い爪で! この場ですぐに処刑してあげるわ!! 名家の令嬢に直々に手を下されることに感謝なさい!!」
「ちょ! ちょっと!! 落ち着いてくれリドリアさん!!」
「問答無用!! 天誅!!」
鳥の爪が黒葉の喉元にかかるかと思われた直前、いつの間にか椅子から腰を上げて移動していたクオーツが二人の真横に立って手を差し入れた。
「そこまで!」
音もなく間合いに入られたことに驚く二人。鋭い威圧に思わず足をひっこめたリドリアは、自身の姿を元に戻した。
一瞬沈黙がが流れたが、ここに止めに入ったクオーツが口を開く。
「ここで喧嘩をされたくはありませんね。しかしお互い話し合いで納得をする様子もない……
仕方ありませんね。こうなれば、二人が直接ぶつかって貰うのが一番ですね」
「それって……」
「一体……」
何を言い出すのか分からず戸惑う黒葉とリドリアにクオーツは告げた。
「お二人には、決闘をしていただきます!!」
「「決闘!!?」」
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